at Will Work藤本さんが語る、「働き方」ではない「“働く”のストーリー」

総合at Will Work藤本さんが語る、「働き方」ではない「“働く”のストーリー」

“働き方”を選択できる社会をめざし、昨年5月に設立されたat Will Workは、2月に参加者600名を超える大規模なカンファレンスを開催し、働き方に関する多様な議論の場の形成に成功した。代表理事 藤本あゆみ氏と理事 日比谷尚武氏に、at Will Work設立の経緯を振り返り、今後の展望を語っていただいた。

Women Will Projectで改めて気づいた、“働くことにどう向き合うか”というテーマ

——まずはat Will Work立ち上げの経緯を教えてください。

藤本(一般社団法人at Will Work代表理事 / お金のデザイン シニア・コミュニケーションズマネージャー):
一番のきっかけは、私の前職であるグーグルの「Women Will Project」に参加したことです。当時はテクノロジーを使って働くお母さんたちをサポートしようというものでした。

私は新卒で人材業界に入りましたが、それは「人生の中でかなりの部分を占める働く時間が、楽しくない、幸せじゃないというのはもったいない」――、そう考えたからなんですね。プロジェクトに取り組むうちに、「働くことにどう向き合うか」というのが自分にとってすごく大きなテーマだと改めて気づき、当時のプロジェクトの枠を飛び越え、より幅広く働き方の変化を作り出したいと考えるようになりました。Women Willで出会った今の理事たちともそんな話をして、「じゃあ、別のプロジェクトを立ち上げよう」と始めたのが、at Will Workです。

——一般社団法人という形にしたのはなぜですか?

藤本:
選択肢は色々あったのですが、色々な人たちをどんどん巻き込んで変化のスピードを速めたかったので、私たちは一般社団法人を選びました。企業にすると、会社として成果を出すことにフォーカスしなければいけなくなり、目指すゴールにたどり着くのに遠回りになると考えたんです。

——メンバー構成について教えてください。

藤本:
5人の理事がいます。みんなそれぞれ得意分野やフォーカスしている領域が違うので多様性があって、かつ会社の経営者など自分で判断できる立場にあるので、動きがめちゃくちゃ速いんですよ。最初はみんなでものごとを決めようとしていたのですが、それぞれが決めてきた方が断然速いことに、途中で気づきました。誰かが「こういう話をしたら盛り上がったんだけど、どう?」と言ってきた段階で、ほぼ決まっているという感じで(笑)。今は、みんなが決めてきたものをどう捌いていくか、という状態になっています。

藤本あゆみ藤本あゆみ氏(一般社団法人at Will Work代表理事 / 株式会社お金のデザイン シニアコミュニケーションズマネージャー)
1979年生まれ。大学卒業後、株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人媒体の営業職を経て、入社3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。結婚を機に退職し、2007年4月にグーグル株式会社(現グーグル合同会社)に転職。デジタルマーケティング導入支援、広告営業チームの立ち上げに参画し、営業マネージャー、人材業界担当統括部長を歴任。女性支援プロジェクト「Womenwill Project」パートナー担当を経て、2015年12月にグーグルを退職。2016年5月に一般社団法人at Will Workを設立し、代表理事として活動するとともに、株式会社お金のデザインで広報・マーケティングマネージャーとしても従事している。

 

 

全員が「パラレルワーカー」という、未来の組織の形を実践

——at Will Workというチーム自体が、新しい組織の形を体現しているわけですね。

藤本:
そうですね。先日600人規模のイベントを開催して、誰も当日まで顔をつきあわせなくても、そういうことができるんだと分かりました。オフィスも持たず、みんな他の仕事を持ちながら、ひとつの大きな社会課題の解決に向けてことを成そうとしているという意味では、未来の会社の形だと思います。すべての企業がこうなるというわけではなく、あくまでひとつの“ストーリー”やプロジェクトの形ですが。

——5人の理事それぞれの役割は?

日比谷(一般社団法人at Will Work理事 / Sansan株式会社 コネクタ、Eightエバンジェリスト / Sansan 名刺総研 所長 / 株式会社PR Table 社外取締役):
GoogleのG Suiteという製品を中心にクラウドサービスの運用支援をする会社を経営している松林は営業担当。OMOYAという企画会社を経営している猪熊真理子は、ダイバーシティや女性活躍といったテーマに特に詳しく、プロジェクトのマネジメントや理事会などの推進役。安達天資はDialpadという、オフィスに縛られず、どこでも電話が取れる仕組みを提供する会社の社長で、テクノロジーに強い。僕は昨年12月から正式に参画し、広報を担当しています。あゆみさんは最近、「コンセプトリーダー」を自認していますね。

藤本:
ただ、みんなは平気で「それ、全然違うんじゃない?」と言うし、私も「ああ、そうだね」となることもありますよ。やりたいことの根幹は共有できているので、その表現方法や、どういうタイミングで誰とやるかみたいなところは、それぞれの知見と人脈と経験を持ち寄ってやっています。

日比谷尚武日比谷尚武氏(Sansan株式会社 コネクタ / Eightエバンジェリスト、Sansan 名刺総研 所長 / 株式会社PR Table 社外取締役 / 兼 一般社団法人at Will Work 理事)
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、NTTソフトウェアに入社。電子マネーの実証実験プロジェクトなどを担務。その後、ベンチャー企業での役員を経て、Sansanに入社。マーケティング、広報などを経て、社外の人材や知見を、社内の課題解決のためにつなげる「コネクタ」職として活躍。2016年12月に独立し、Sansanと業務委託契約を結びつつ、PR Tableの社外取締役、at Will Workの理事としても活動している。

働き方改革に必要な「10倍のスケールで考えること」と「変わらない選択肢」

——今の世の中の「働き方改革」の動きについては、どのようにお考えですか?

藤本:
働き方改革といっても、すごくいろんな切り口があって、何かひとつのことで全部カバーできるかというとは、多分できないんですね。時間外労働の上限規制の話も同じで、もちろんそれで救われる人、必要な業界というのはあるのですが、全員でやろうとなった瞬間に、何かが失われていくのだと思います。

日比谷:
国は規制を作ったら、あとは民間任せなんですよね。規制がかかるぞ、という話はこの半年くらいずっとされてはきましたが、どう対策したらいいのか分からなくて、各企業は“あたふた”しているという状況だと思います。

藤本:
変えなければいけない理由や目的があるなら、そのためにどうしようというマインドセットになれますが、その議論をしないまま、とにかく時間を減らしなさい、それができていないと評価しません、という状況に、みんな閉塞感を抱いているのではないでしょうか。

at Will Work

——本来は全体が絡み合った話なのに、部分的に対処しようとしても上手くいかないと。

藤本:
グーグルには「10X(テン・エックス)」といって、「10%の改善よりも10倍の成果を」という考え方があります。10%の改善というのは数字のつじつま合わせでなんとかなるとしても、10倍変えようと思ったら、根本を見直さない限り変わらないですよね。日本の会社は、今その段階に来ているんじゃないかと思います。これまで、生産性を上げようと努力してこなかった企業はほとんどないでしょう。これ以上やれというなら、もう時間だけの話ではないはずです。

私が外資のマネジメントを経験して分かったのは、日本人はできないことを頑張ってできるようにしようとするけれど、アメリカの場合はやらなくていいことを決めるんですよ。「この人はこれをやらなくていい」と決めて、チームで10倍の成果を出すにはどうするかを考える。こういうことって、日本の企業はやったことがないから分からないだけであって、実例が少しでもあると、「あ、そうか」と考え方が変わっていくと思います。

解はひとつではなく、自分にとっての課題はこれ、改革の仕方はこれ、というのがそれぞれにたくさんある。それが分かることが、大事だと思っています。もうひとつ、企業も個人も全員が変わる必要はない、というメッセージを出すことも重要です。私たちは、変わりたいと思っている人にフォーカスして、その人達の助けになるようなことをしたいんです。

“ひとつの解”ではカバーできない「働き方」を、直に感じられるカンファレンスの意味

働き方を考えるカンファレンス2017at Will Work主催「働き方を考えるカンファレンス2017」

——2月に大規模なカンファレンスを開催しましたね。

藤本:
設立時から、カンファレンスをやりたいと考えていました。働き方を変えたい人のための情報が集まってくるプラットフォームを作るにあたって、デジタルだけでは伝わりきらない熱量を直に感じる場が、少なくとも年に1回はあるといいなと。

世の中で起きている変化や、変化が必要だと思っている人がたくさんいるんだということを実感してもらえるように、その内容にはかなりこだわりました。54人の方に登壇いただいたのですが、ほかでは見たことのないような人同士の組み合わせやテーマを考えました。そうすると登壇者も話がどう転ぶかわからないという緊張感があるし、新しいインサイトを持って帰ることができるので、すごく楽しんでもらえました。その雰囲気が全体に伝わって、とても良いカンファレンスになったと思います。

——来場者が600人を超えたということですが、どんな方たちだったのでしょう?

日比谷:
もともと、いろんな人にバランスよく来てほしいと考えていましたが、その狙い通りになりました。会社のメンバーレベルの方から、マネジメント、CxOレベルの方がそれぞれ同じくらい。人事部所属の方が多いのではないかという予想もしていたのですが、実際は40%でそこまで多くなかった。働き方というテーマは人事部だけでなく、いろんな人たちがアサインされているということの現れだと思います。

藤本:
ただ、来場者の顔ぶれを見ていると、スタートアップの方とか、働き方の話の中でよく出てくるような会社の方が多くて、もっと大手の企業や、まだ水面下で変化の仕方を模索しているような方たちにまでは、まだまだ届いていないという反省点もあります。

その理由のひとつは、平日の昼間に開催したということがあると思いますが、そこは譲りたくない部分だったんです。企業の方に、ちゃんと仕事として聞きに来てほしいので、あえて夜や週末にしませんでした。何の実績もない団体なのに、無料イベントではなく1.5万円という強気の値段にしたのも同じです。最初は5万円にしたいと言ったら大爆笑されましたけど(笑)、海外のカンファレンスを見ていると、参加者も登壇者も含めて、それだけの価値がある場になっているので、いずれはそのくらいにしたいですね。

「働き方」ではなく、図鑑のような「“働く”のストーリー」を提示する

——今後はどのような活動を予定されていますか?

藤本:
私たちは働き方の変化を定義するというよりは、様々な“ストーリー”を提示したいと考えているんです。ただ、カンファレンスをやって分かったのは、何がどうなったら変わったと言えるのか、証明するのがすごく難しいということです。「残業時間を何時間削減しました」というのは分かりやすいですが、本当に必要なことって、実はちゃんと調査もされていないし、定義がバラバラで証明しづらいんですよね。

じゃあ、証明できるモノサシを自分たちで作ってしまおうということで、今年は「生産性」をキーワードに調査をする予定です。なぜ生産性かというと、今は工場の生産性を上げる、といったことの延長線上でしか語られていないんですよね。ホワイトカラーやクリエイティブ職の仕事というのは、時間やプロセスの観点だけでは分からないことがあるはずです。今の仮説としては、解はひとつではない。どれだけたくさんのモノサシが出てくるかが、ひとつのチャレンジだと思っています。

日比谷:
調査には2種類あって、ひとつは調査設計から何から、これから作っていくというもの。もうひとつは、すでにあるデータを違う角度から見てみるということです。さまざまな調査を元に、生産性についていろいろな角度から語る有識者会議もやっていきます。

藤本:
先日のカンファレンスの登壇者も含め、テーマについて話してくれそうな方々に声をかけるつもりです。そこでもいろいろなモノサシが出てくるように、政府の有識者会議とは異なり、毎回のテーマによって参加者も変え、多様な意見が出るようにしたいですね。

日比谷:
もうひとつ、今年はアワードの開催も考えています。働き方の変化の事例を、僕らだけで探そうとしても数に限りがあるので、よりたくさんの、多様な事例が集まってくるしかけを作りたいんです。

藤本:
「アワード」という名称が良いのかどうか、迷っているところなんですけどね。票数が多いものを表彰するというのではなくて、例えば私なら「at Will Workの代表理事」という立場で独断と偏見でひとつを選ぶ。ほかには経営者の立場だとか、人事部の立場だとか、いろいろな20人に、それぞれの独断と偏見で決めてもらうと、多様なストーリーが選ばれると思うんです。

そんなヒントになるストーリーを1年に20個、5年で100個選ぶというのをやりたい。私の中では、100個のストーリーが入った「図鑑」ができていくというイメージです。

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