総合働きがいのあるホワイト企業、「特許庁」6位のなぜ
6位・特許庁──。集計した企業ランキングを見て、6位に入った特許庁という名前に目が釘付けになった。
私は普段、370万件の社員クチコミと評価スコアが集まるVorkersの「働きがい研究所」において、調査レポートの集計と執筆を行っている。Vorkersは、企業や組織に1年以上在籍した社員・元社員による社員クチコミサイトで、先般発表した「就活生向け『働きがいのある』ホワイト企業ランキング」は、20代社員からのクチコミに限定して集計し、残業時間が40時間未満の企業を並べた、いわば「若手が働きがいを感じる企業ランキング」だ。
2017年1月に集計を行ったところ、1位の三菱地所をはじめ、4位にユニリーバ、10位にトヨタ自動車と、大手企業がトップ10に並んだ。その中で唯一、官公庁から6位にランクインしたのが「特許庁」だった。
政府が「働き方改革」を掲げ、「ゆう活」や「プレミアムフライデー」など企業のお手本になるべく新しい制度を推進しているが、旗振り役の官公庁自身がランクインしないなか、なぜ特許庁だけが唯一トップ10入りしたのか? 特許庁にこそ、学ぶべきヒントがあるのではないか。職員たちの声から実情を探った。
風通しの良さの裏にある、プロフェッショナルとしての対等さ
Vorkersの評価指標のひとつである「風通しの良さ」。特許庁は3.8と、業界平均2.9を大幅に上回っている。官公庁と言えば縦割りで堅いイメージだが、それを覆すクチコミが目立つ。
──「自由闊達にモノを言える雰囲気があり、風通しが良い。年功序列ではあるが、それぞれが高い意識をもって仕事に取り組んでおり、刺激を受ける機会も多い。さらに、グローバルな展開も目覚ましく、他国への出張や他国特許庁の方との意見交換の機会も多い(審査、男性)」
──「特許庁は、霞が関の役所の中でも自由闊達な組織風土があると言われる経済産業省の外局の一つです。そのため、私のような若手であっても、対外的に語れるストーリーを描くことができれば、何事にもチャレンジができるし、それを許容する(「やってみよう」の精神)雰囲気があります(専門スタッフ、男性)」
──「ひとりひとりの裁量範囲が大きく、与えられた仕事に対しては自由に活躍できる風土。正職員も契約職員もその風土は変わらず、自分のペースで仕事ができる(量的なノルマはある)。管理職との距離も近く、特に懇親会などの場では管理職が若手の顔を覚えようという姿勢を見せる場合が多い。一方で、きちんとした役所ではあるので、トップダウンの指示があったり、縦割りに近い組織体制であることは確かな面は否めない(データベース調査員、男性)」
やはり組織体制は縦割りの年功序列であるようだが、そういう中でも自由に意見が言える、個人の裁量で仕事ができるという点は、一人ひとりがプロフェッショナルとして対等であることを伺わせる。それは「職員個々のレベルが高く、ほぼ全員が業務の優先順位を理解しており、全体の方向性に向けて自主的に取り組む雰囲気ができている(審査部門、男性)」という声にも表れていると言えるだろう。
個人の裁量が大きい反面、「チームでの仕事に魅力を感じる人間には向かない可能性が高い(審査部門、男性)」という声も見られるが、裁量の大きさは風通しの良さだけでなく、ワークライフバランスの良さにつながっていることもクチコミから見て取れる。
──「審査部門のワークライフバランスは、非常にやりやすい。一定の目標が与えられ、月毎に進捗をチェックされるが、日々の業務管理は一任されているので、用事のある日などに、定時で帰ることが可能。自分の都合を優先しやすいため、ストレスが非常に少ない。新卒だと総合職採用になるため、国会待機など深夜まで働く部署に配属されることもあるが、1〜2年おきに審査部門に戻してもらえるので、中央官庁の中では、プライベートも充実できるところが良い(審査部門、男性)」
待遇の良さと男女平等を体現する「ユートピア」
あまり馴染みのない公務員の給与だが、職員の声からは給与の実態と手厚い研修制度が見える。研修が手厚い組織は特許庁に限らずとも数多くあるが、特許庁職員は往々にしてそれら研修に満足していることがわかる。
──「年収事例:新卒入社 30歳前後 課長補佐級 年収900万。給与制度の特徴:国家公務員の俸給表に基づいて給与が決定されれる。管理職になる40歳くらいまでは、基本給に大きな差はつかず、各々の残業時間に応じて、給料が増減する仕組み。あと数年で1000万の大台は突破できる見込みである(課長補佐級、男性)」
──「特許庁は研修制度が非常に整っており、法律、語学、技術の各方面での自分の成長を感じることができる。また、特許審査官として培った視点を持って知財行政に携わることでユーザーニーズに基づいたより良い知財制度の構築に役立つと考えている。そして、退官後は弁理士として活躍したり、大学で教鞭を執ることで日本の知財制度の円滑化に立場を変えて貢献することができる(審査官、女性)」
そして何より、男社会と思われがちな官公庁において女性の活躍が目立つのも特許庁の特徴と言えるだろう。
──「ものすごく働きやすい。女性だからといって差別されることはほとんどない。女性でも昇進の妨げにならない。出産育児が出世の妨げにならない。女性の先輩が多く相談しやすい雰囲気。上司の奥さんも働いているケースが多く、上司に理解がある。同僚もフラットな関係でよい。女性の人数が部署によってはとても少ないので、注目されるが、悪い意味での注目ではなく、それなりに期待がなされ、それなりに活躍していれば、それなりのポストを与えてくれる(審査部、女性)」
──「大変働きやすく、『理想の職場である』と言って差支えないと思われる。(中略)職務の面でも男女の差はまったくなく、審査官としてやりがいを持って職務に従事することが可能である。評価は完全に職務の内容の難易度と達成度によって客観的に評価されるシステムが整っており、昇進の面についても制度としては全く差がない。実際には、まだ男性の管理職の方が多いものの、女性の管理職も確実に増えており、審査部長にも女性が登用されている。女性の管理職を増加させる数値目標も定められいる。今後、実際の意味においても、男女の差はほとんど完全になくなっていくと思われる。男女雇用機会均等法等の理念をそのままの形で体現するユートピアである(審査部、男性)」
これは私がクチコミを見ている中で感じることだが、「女性だからといって差別されない」という場合は「男性と同様に激務である」ことを指すケースが多い。しかし特許庁においては、男女に限らず職員同士が対等であることが女性の声からも伝わってくる。
男女ともに働きがいがあり、ワークライフバランスの良い環境であることは、すべての職員にとってプラスであるに違いないだろう。
専門性の高い職員が多い特許庁は一般企業とは異なる点も多いが、「お互いを尊重しあえる風土作り」はすべての組織が見習うべきポイントと言えるのではないだろうか。今後、このような「ユートピア」が特許庁だけでなく多くの組織、企業に波及していくことを期待したい。