総合「雇用」の概念がなくなる!? 働き方の変化が企業や人事の在り方を変える
雇用の流動性・多様性が加速している。副業やパラレルキャリアといった言葉がクローズアップされ、一つの企業に勤め、キャリアを積んでいくこれまでの「日本の働き方」が大きな転換期を迎えつつある。ビジネス環境もまた、めまぐるしく変化し、人材を確保し、生産性を維持・向上させていくことが喫緊の経営課題となっている企業も少なくない。こうした変革期において、求められる人事部門の役割・価値とは何なのか。
今回は学習院大学 経済学部 守島基博教授をお招きし、未来における雇用の在り方、人事部門の重要性とその担うべき役割についてその見解を伺った。
雇用という概念がなくなる?ではどう働けばいいのか

寺澤「雇用の未来」はどう変わっていくのでしょうか?働く人が留意する点についてお聞かせください
守島そもそも雇用というのは、所属企業に自分の時間を売って、指示された仕事を行うことでリターンとしてお金をもらうことです。しかし、これからはそういう「雇用」という概念自体が長期的にはなくなってくるのではないかと思っています。
これからは様々な職務の各部分を切り出してコンパートメント化し、最適な人に業務委託するという労働の需要と供給とのマッチングが一般的になってくると思います。
実際グローバルに見ても大きく変わってきています。ひとつの企業にすべての労働時間を売って給与をもらう働き方ではなく、「自分はこれができます」という専門性を持ち、「こういう仕事をやります」と引き受け、「成果」に基づいてお金をもらっていくという、いわゆる業務委託的な働き方をしている人がどんどん増えてきています。いわば、自分で自分を雇う(セルフエンプロイメント)という職人のような働き方が場所や時間を超えて実現していくのではないかと思います。
寺澤従来の雇用の在り方が壊れていき、組織がシームレスになっていく中で、いかに企業が目的を達成するためにリソースマネジメントしていくかが重要になっていくのですね
守島そうですね。極端にいえば、あるプロジェクトに企業家と労務提供者が契約を結んで仕事を行い、アウトプットし、その関係が終わっていく、そのようなことが集積体として事業や企業が成立していくのだろうと思います。そうしたヒューマン・リソース・マネジメントになるでしょう。
働き方が変わる!そのために働く人に求められるものとは

寺澤変化の激しい時代において、雇用の流動化が加速し、働き続ける人々は一社で勤め上げ、ひとつのキャリアを積み上げるということが難しくなってきました。さらにこれから長寿化が加速していくといわれていますが、どのような働き方になっていくのでしょう?
守島リンダグラットンが、2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されると言っています。「教育→仕事→リタイア」というサイクルが60歳で終わり、40年間仕事から離れて暮らすというのは人間の生き方としては違うのではないでしょうか。ライフとワークは組み合わさって人間の人生は成り立っています。よって働く価値を提供する活動は人間である限り続けていかなければなりません。100歳まで生きるとなれば80歳くらいまで働き続けることになります。
一方、先程申し上げたように企業と従業員との関係は短期的、契約的になっていきます。そうなると、どうなるか。自分の人生の中で働くためにどういうことを行って、社会に価値を提供し続けていくか。企業や社会のニーズがどんどん変わっていくことに応じていける力が重要になります。
キャリア自律とよく言われていますが、それは当たり前の前提になります。キャリアの段階毎に自分のスキルやスキルセット、メンタリティを変えていける能力が重要となってきます。一人ひとりがそれらを意識して変えていかなければならないのです。
寺澤最近、人の仕事がAIに取って代わられ、失われていくといわれています。AIやロボットの進化は働き方にどう影響があるでしょうか?
守島AIやロボットが意味がわかるかどうか、感情が持てるかどうかで変わってきます。現在は意味ということがわからない、感情を持っていないという状態です。そういう段階ですからAIやロボットが得意とする膨大な情報量の中から計算や判断する作業と、人間が得意とする仕事は区分けできます。意味とか感情のようなEQ的な能力を人間が担っていけばいいのです。フェースツーフェースのEQだけでなく、マーケット心理を読み解く能力、顧客が考えていることを深慮できる能力は非常に重要であり、人間はそういった業務を担えるように能力を獲得する、高めていく努力が必要となっていくのではないのでしょうか。
働き方の変化が企業も変える、人事も変える

寺澤企業は従業員に対して、いかにロイヤリティを持ってもらうか、コミットメントしてもらうかということに普請してきましたが、そうなると企業が働く人に求めるものを変えていかなければなりませんね。
守島おっしゃるとおりですね。これまで日本企業は従業員のロイヤリティやコミットメントを大切にしてきました。しかし、これからはその人の能力や成果が基準に満たないから必要なくなったという訳ではなく、戦略やビジネスの内容が変わったから必要なくなるといったことが起こってきます。そのニーズを考えると、ロイヤリティやコミットメントがマイナスに作用することが起こってきます。これからは瞬間毎に仕事に対するインボルブメントやエンゲージメントを深くして頑張って欲しいという方向に変わってくると思います。そういった企業の動きに対して働く人も人事も変わっていかなければなりません。
寺澤そのような雇用の在り方や働き方の変化に対して、人事部門はどうなっていかなければならないでしょうか?
守島ヒューマン・リソース・マネジメントは、今後こそ重要になってきます。その中でもビジネス成長や活性化に寄与する人材調達機能はとても大切です。ひとつには、今まで商品毎、事業部毎で行ってきましたが、グローバル化によって事業部間を超えた調達が重要となっていくでしょう。多くのグローバル企業で、ローカルでの人材調達をセントラライズしていく傾向が見られ始めています。セントラライズすることはグローバルワイドで企業全体のタレントの能力や感情をリアルタイムで把握し、全体最適していくことです。
例えばX事業部にいるAさんが別の国のY事業部に行ったほうがいい、また5年先にはこういった仕事を経験するといい、といった判断をセントラルで行うといったことが挙げられます。そういう作業にはAIやITの活用が不可欠です。
同時に、現場(ローカル)での人材マネジメントが非常に重要になってきます。どんなにグローバルスケールで人を調達、確保するにしても、基本は現場でのモチベーションや成長などの支援が重要だからです。そのため、人事部門に求められるのは、現場や現場リーダーに対しての人的側面からのサポート提供や感情・モチベーションの支援を行うことです。
つまり、人事部門はグローバル本社と現場、両方に対してアピールして活躍していかなければなりません。しかし、人事部の今はどっちつかずになっています。中央集権的なことをやっているようで実は制度作りに終わっている。また現場とは制度が邪魔になって本当の現場ニーズにあった支援ができないでいる。制度や仕組みが間に入って、現場との距離が生まれているのです。これからは会社全体での人材調達機能と、現場での個別管理支援こそが人事部門の本懐になっていくのだと思います。