オフィスの空気が淀んでいると 仕事の生産性が低下する

総合オフィスの空気が淀んでいると 仕事の生産性が低下する

オフィス環境の重要性が議論されるなか、室内の空気がきれいかどうかについては、意外なほど重視されていない。筆者の研究によって、オフィス内の空気の質が、生産性に大きな影響を与えることが示された。

 オフィスの空気の質について、そして、それが従業員と生産性にどれほど影響を及ぼすかについて、あなたはどれくらい頻繁に考えているだろうか。おそらく、あまり考えていないのではないか。

ごく一般的な基準が満たされている限り、空気の質は重要な問題でないと思われがちだ。だが、この基準があまり高くないのだ。たとえば、室内換気を規定する国際共通基準の1つ、「許容室内空気質のための換気(Ventilation for Acceptable Indoor Quality)」は、“健康に良い”空気の質を確保しようとすらしていない。

1970年代の米国では、省エネ活動の一環として、建物の気密性を高めて換気率を低くする取り組みが実践された。そのため、屋内に新鮮な空気を十分に取り込む構造は建築物に求められなかった。その結果、はからずも屋内に汚染物質がたまることになり、「シックビルディング症候群」として知られる目の痛みや頭痛、せき、胸苦しさといった一連の症候が出現した。この問題は、いまなお続いている。

相次ぐ研究発表によれば、換気量、すなわち屋外から取り込まれる新鮮な空気の量は、健康の重要な決定要因だ。通気性がよければ、シックビルディング症候群が改善し、常習的欠席が減るうえ、伝染病の感染率も低下することが実証されている。

このように空気の質を健康に結び付ける諸研究を踏まえて、我々は通気性が改善されれば、労働生産性の指標の1つ、認知機能にプラス作用があるかどうかを確かめたいと考えた。はたして、空気の質が改善すれば、情報を処理し、戦略的決定をし、そして危機に対応するという仕事能力に影響があるだろうか。

私はこの問題について、ハーバード大学で教鞭をとる同僚のジャック・スペングラーとピアーズ・マクノートンとともに、シラキュース大学のスレッシュ・サンタナムとニューヨーク州立大学(SUNY)アップステート医科大学のウシャ・サティシュの協力を得て、共同研究を実施した。

研究の第1フェーズでは、24人の「知識労働者」、すなわちマネジャーと建築士、およびデザイナーを研究参加者としてシラキュース・センター・オブ・エクセレンスに迎え、高度に制御された作業環境の中で、2週間のうちの6日を過ごしてもらった。この24名には、上記の場所で午前9時から午後5時まで通常の仕事手順で働くよう依頼した。その間、参加者には知らせずに、作業スペースの空気の質の状態を通常環境、すなわち最低限の許容基準をやっと満たす状態から、最適環境に変化させた。

最適環境では、屋外から作業スペースに取り込む空気の量(すなわち換気率)を増やした。厳密に言えば、換気率をいわゆる「屋内空気許容」基準で必須とされる数値(大半の建物がクリアしている状態)の2倍に高めた。また、揮発性有機化合物(VOC)の水準も変化させた。その手段として、VOCを排出する一般材料(たとえば表面洗浄剤や、ホワイトボードマーカー、ドライクリーニングをした衣類、建築資材)の数を調整した。これにより、研究参加者は仕事中にVOC濃度の典型的な環境と、低い環境に身を置くことになった。最後に、二酸化炭素を3つの異なる水準に設定して検証した。すなわち、空気中の二酸化炭素の濃度を、換気率を高めた低水準(600ppm[100万分の1])、多くのオフィスで典型的に見られる水準(950 ppm)、および米国の学校でよく遭遇する高水準(1400 ppm)の3つに設定した。

そうして、他の条件はすべて一定に保ち、毎日の終わりに、認知機能の標準テストを使って、研究参加者たちの意思決定パフォーマンスを検証した。ちなみに、同テストは研究の現場で数十年来使われているものだ。

上記の結果、より良い空気を吸うと、研究参加者たちの意思決定パフォーマンスが著しく改善することが明らかになった。換気率を高め、化学物質の濃度を下げ、二酸化炭素の濃度を低くした環境の中で働いていた時には、9つの認知機能領域にわたって、テストの得点が高くなったのだ。テスト結果が最大の改善を示したのは、いかに情報を使って戦略的決定をするかを試す分野と、危機の最中にいかに計画を立てて覚悟を決め、戦略を練るかを試す分野だった。これらはまさに、知識経済で必要とされるスキルだ。

バイアスがかかる可能性を抑えるため、我々はこのフェーズをダブル・ブラインド方式(二重盲検法)で実施した。参加者たちは、作業空間の状態が変化することを知らされなかった。同様に、認知機能データを分析する科学者たちも、当該条件については知らされないままだった。さらに、参加者の間の能力差を照査し、各自のベースラインを基準に、それぞれのパフォーマンスを測定した。ある人が他の人よりも賢いかどうかにかかわらず、我々の関心は、同一人物の得点を比較することにあった。

学習効果がなかったこと(同じテストを数回受けた後、得点が上がらなかったかどうか)、およびバイアスがかからなかったこと(ブラインド方式がうまくいったかどうか)を確認するために、エクスポージャ-条件の1つ(高い換気率、低VOC、低二酸化炭素)については、9日の間をはさんで、初日と最終日に繰り返し実施した。その結果には一貫性があり、学習効果がなかったこと、およびブラインド方式が有効であったことが示唆された。

研究の第2フェーズでは、調査の場をラボから現実世界に移し、通気性、VOCおよび二酸化炭素以外に、認知機能に影響を及ぼしうる付加的要因を検証した。このフェーズの研究参加者は、米国各地にある合計10棟の建物で働く100人以上の知識労働者だった。ちなみに、このうち6棟の建物は「グリーン認定」を取得していた。(「グリーン」という単語からは省エネルギーと低い換気率を想像させるが、多くのグリーンな建物は省エネでなおかつ換気率もいい)。各棟の屋内空気の質を測定し、研究参加者たちの認知機能をテストした。

給与、職種、建物のオーナーかテナントか、地理的位置などの要因をコントロールすると、グリーン認定を受けた建物で働く人たちのほうが、テストで高得点を取っていた。また空気の質に加えて、温度も影響を及ぼすことが判明した。標準的な快適温度と湿度の範囲内に保たれた環境で働いていた時のほうが、どの建物にいても意思決定のテストで好成績が出ていたのだ。

以上の研究結果から、リーダーや建物管理者はどんな教訓を得るべきか。簡潔に答えよう。

オフィス内の空気の質を改善すれば、従業員の認知能力の改善を促進しうる。もちろん、上記はたった2つの調査ではあるが、その結果は換気率を高くするメリットについて、30年にわたる科学実証と完全に一致する。

大半の建物では、管理者はただちに措置を講じられる。その第1歩は、空気の質に関する指標を調べて、改善の余地があるかどうか検討することだ。コストが心配になるかもしれないが、換気率の向上による空気の質改善コストは、一般に考えられているよりはるかに低いことが判明している(ある研究によれば、建物管理者はエネルギーコストを2倍から10倍も多く見積もる傾向がある)。

我々は4つの異なるタイプの換気システムに基づき、コストモデルを作成した。対象地となった米国各都市は異なる気候帯に分布し、さまざまなエネルギー源を擁している。我々の推定によれば、換気率を2倍にするのに要するコストは、1人当たり年間40ドル未満だ。大半の都市では、もっと低い。エネルギー効率の良い換気システムを利用する場合は、当該コストは1人当たり年間1ドル~10ドルと推定される。

また、我々の研究で得られた認知機能テスト結果をベンチマークとして、他の状況で同じテストを受けた何千人もの成績比較も実施した。そして、得点の上昇率を労働統計局から入手した給与データと組み合わせた(給与データは生産性の代理変数として利用した。そして我々の研究の対象者と属性を同じくするため、知識労働者のデータを抽出した)。我々の推定によれば、換気率を2倍に高めることから得られる生産性効果は、1人当たり年間6500ドルだ。この推定には、シックビルディング症候群の改善や常習的欠席の減少など、他の潜在的健康効果は勘案していない。

結局のところ、マネジャーは費用対効果の計算すべてに健康への影響を日常的に組み入れるのが賢明といえるだろう。健康を考慮に入れれば、屋内環境の向上にかかるコストと、健康と生産性への効果を適切に比較検討できるようになる。たとえば、施設予算を増額すれば人材コスト削減につながることが、執行役の目に明らかになるだろう。このことから、建物は実質的に人材ツールといえる。

屋内環境について、VOC、換気率および温度の管理に加えて、照明や騒音など、健康と生産性に影響を及ぼす他の重要な因子の管理を検討してもいい。

今回の研究により、長年認められている現象が実証的に追加証明された。

ベンジャミン・フランクリンはかつて次のように公言した。「密室で息が充満して入れ替えがされていない空気ほど、健康に悪い空気は、屋外には存在しないと確信している」。

風通しが悪くて、むんむんする会議室で必死に集中しようとした経験が、誰にもあるはずだ。そんな時、窓かドアを開けて新鮮な空気を入れれば、室内の雰囲気が一新する。このことを認識して、従業員の健康と生産性のために空気の質を最適化する措置を取れば、企業はそのメリットを享受するだろう。