就活中の学生に贈る「良い会社」の見分け方 別のフロアのトイレを覗いてご覧なさい

新卒就活中の学生に贈る「良い会社」の見分け方 別のフロアのトイレを覗いてご覧なさい

前回の当連載で、新卒社員に向けた心構えの話をしました。概要を申し上げれば──自分は仕事ができないなんて悩むのは止めなさい。新人は「できない」のが当たり前なのだから。むしろ積極的に失敗して、上司や先輩社員に迷惑をかけまくりなさい。それこそが会社に対する一番の貢献なのだから、云々──。

そういうわが社はいまどういう状態にあるかというと、五月の下旬になって内定者(2018年入社予定者)が決まりました。新卒社員の五月病の心配をしたら、その月にはもう次の年の新卒社員の採用を考えなくてはならないなんて、本当に光陰矢の如しです。今回はいつもと趣向を変えて、わが社の新卒採用についての話をさせてください。

就職活動では、誰もが取り繕っている。(写真:PIXTA)

就職活動・新卒採用は「狸と狐の化かしあい」

わが社が定期的な新卒採用を始めて、もうかれこれ20年を越えます。

いまでは、新卒社員の定着率は95パーセントを超えている我が社ですが、最初の5年はひどいものでした。定着率はだいたい10パーセント、よい年でも13パーセント。10人採用したら9人近くが辞めるわけですから惨憺たるありさまです。どうして定着率が悪かったのか。これは簡単、「取り繕っていた」からです。

当時のわが社は急激な上り調子にありました。そういう状況の中小企業にはよく見られることですが、必要以上に自社を良く見せようとしていたのです。会社説明会の壇上で、本当は落ちこぼれ集団であることなどわたしはおくびにも出さず、いかにわが社が将来性に富んだ素晴らしい会社であるかを力説していました。これに学生たちは騙されました。

4月2日、前日に高級ホテルで入社式を済ませた新卒社員が出社して来ます。彼らはまず一様に唖然としますね。社屋は築30年をとうに過ぎた3階建のこぢんまりとした民家。壁のあちこちはひび割れ、補修用の漆喰が塗ってある。それでも意を決して中に足を踏み入れると、昨日まであんなに優しかった先輩社員に鬼の形相で怒鳴られる…。普通の神経をしていたら、すぐに辞めるのが当然でしょう。「なんだ、入社前とはずいぶん話が違うじゃないか」と。

もっとも学生だって、普段は縁のないスーツに袖を通し、面接では「御社の将来性に惹かれまして」などと心にもないことをいいます。それに我が社は迂闊にも騙されたわけです(騙した連中はいまや我が社の要職を占めています)。就職活動・新卒採用は「狸と狐の化かしあい」という側面があることも確かですが、だとしても少なからぬ新卒社員の期待や希望を挫いてしまったことや、数千万円単位の採用コストを無にしてしまったことなどを考えると、まったく慚愧に堪えません。

「優秀な人」より「気が合う人」の採用で業績が伸びた

わたしが自社の新卒採用の誤りに気づいたのが10年くらい前のことでした。下手に取り繕うから、新卒社員のギャップも大きくなると。であれば最初から、自社のありのままの姿を見せておくに越したことはない。そこで説明会の類は必ず本社内で実施して、仕事内容や各種数字の公開、支店の見学会なども積極的に催しました。

また内定者にはインターンを経験してもらいました。これには3つの目的があります。我が社の業務内容を実地体験してもらうことで入社以降のギャップを少なくすること。早い段階から我が社の文化になじんでもらうこと。先輩社員とのコミュニケーションを取ってもらうこと。以来、我が社の新卒定着率は飛躍的に上向きました。それも当然でしょう。ありのままの我が社を見せて、体験してもらって、それでもなお「武蔵野に入社したい」と望んだ人材なのですから。

また、わたしのスピーチもがらりと変えました。それまでは学生に迎合して「こういう人材を求めています」「こういう人に入社してほしいです」と述べていたのが、「こういう人には来ていただきたくありません」と、はっきり述べます。たとえば、「一緒に遊んで楽しくない人はエントリーに及びません」「卑怯な人は不要です」「内定を3つ貰ったら我が社を断ってください」云々。早い話が、資質の優劣ではなく、気が合う・合わないで採用を決めているのです。

そんな馬鹿な採用があるものか、と思われるでしょうか。

しかし現に我が社はそういう採用をし、前述のように高い定着率を誇っている。新卒社員の定着率が高まってからは我が社の業績は二桁で伸びているという「実績」もある。普通の企業は優秀な学生を欲しがる。しかし学生として優秀ということと、社会人として優秀であることとは別物です。社会経験の薄い新卒社員に「即戦力」などあり得ません。

であれば能力は参考程度に留めておき、入社後から教育を施すほうが合理的です。大切なのは、そういう考え方なりやり方なりを新卒社員が受け入れられるかどうかであり、それは「気が合う・合わない」にかかっています。

就職活動は結婚と同じ、慎重の上にも慎重たれ

わたしのコラムは就職活動を控えた学生さんにもよく読まれている、という話を聞きました。そこで今回は特別サービスとして、学生のための「良い会社・悪い会社の見分け方」を最後にご披露致しましょう。

学生と話をしていると、口を揃えて「良い会社に入りたい」といいます。ところが彼らのいう「良い会社」とは、つまるところ「有名な会社」「規模の大きい会社」でしかないことがほとんどで、それをわたしは懸念します。

学生はまだ良い会社・悪い会社を判定する物差しを持っていないから仕方がありませんが、これは危険な考え方です。一流企業、大企業ほど経営が安定している傾向があるのは確かですが(安定経営はもちろん大切です)、しかし現実には誰もが名を知る一流企業の中にも超ブラック企業は少なくありません。

本当に良い会社とは、自分の価値観にあった企業風土を持ち、生き生きと仕事ができる環境があることです。たとえば、わたしに連載を持たせている日経BP社は素晴らしい会社ですが、しかしすべての学生にとって日経BP社が良い会社であるとは限らない。編集や執筆に興味のない学生にとってはおそらく地獄のような職場でしょう。つまり人の数だけ「良い会社」はあるのです。そういう認識を持ち、自分に適した会社を見極めることが大切です。

わたしが会社説明会に訪れた学生によくいうのは、「別のフロアのトイレを覗いてご覧なさい」ということ。3階の応接室に通されたら、休憩時間を利用して2階・4階のトイレに行ってみる。3階のトイレだけがきれいで、2階・4階が汚れていたら「学生向けに取り繕っている」と判断できます。まして、かつての我が社のように初出勤日まで本社の社屋を見せない会社は相当に高い確率で「論外」です。

逆に、内定後にインターンやトライアル期間、アルバイト採用などを設けている会社はたいてい「良い会社」です。それだけ真剣に新卒社員を教育しようとする気持ちの現れと見ることができるからです。また「始業1時間半前、終業2時間後に行ってみなさい」というアドバイスもある。照明が点いていたら、それは誰かが仕事をしている証しであり、ひいては社内に活気があること、仕事がたくさんあることになるからです。

…まだまだたくさんありますが、これ以上は我が社にエントリーしてくださった学生さんだけにこっそりお話しすることにしましょう(笑)。

就職は自分の一生を大きく左右するという点で、結婚にも似ています。さて、そこで考えてみてください。普通は何年も交際し、充分に相手を見極めてから結婚するものです(それだけ慎重になっても往々にして失敗するのです)。一度会って交際を決めて、それ以降はずっとeメールでのやりとり、2度めに会うときは結婚式場…、というカップルが存在したら、周囲は「馬鹿なことをするな」と止めるでしょう。「会社の名前で選ぶ」就職活動は、それと同じ愚に他ならないと知るべきです。