選考から労務管理まで 人事の「雑用」はなくせるか

総合選考から労務管理まで 人事の「雑用」はなくせるか

選考から入社手続き、労務管理――人事の雑用は減らせないのか。働き方改革を進めるために人事にはもっと戦略的な仕事に力を振り向けてほしい。限られたリソースを効率化するクラウドサービスがじわりと広がっている。

急成長するメルカリには数千人規模の採用応募者が集まるようになった

急成長するメルカリには数千人規模の採用応募者が集まるようになった

■急成長、メルカリの悩み

「つい先日まで、新卒採用でサンフランシスコに行っていました」。メルカリ(東京・港)人事担当者、石黒卓弥・HRグループマネジャーは忙しそうだ。フリーマーケットアプリを手がける同社は創立5年目だが、最近では新卒・中途を合わせた応募者数はこの2年間で数千人規模に膨れあがった。中途では年間150人ほど入社し、新卒採用も17年度の6人から、18年度は25人ほどに増やすつもりだという。

知名度が上がり、同社に興味をもつ人々の「母集団」を集めるのは容易になったが、そこから人材を絞り込む作業は大変になった。採用案件は常時舞い込んでくるが、採用担当の社員は6人だけ。エクセルの作成や履歴書の出力などの作業で時間も労力も奪われてしまう。「人事は本来、本質的なことに頭と時間を使うべき。事務作業や情報の管理の効率化は急務だった」(石黒氏)

メルカリが導入したのは、クラウド型採用管理システム「タレンティオ」だ。応募者が履歴書をアップロードし、面接官はオンラインで評価する。画面上では、応募、書類選考、最終面接などの各段階で、誰がどんな評価をされ、どこまで選考を通過したかが視覚的にわかる。

これらの情報が蓄積されていくと、例えば、今営業成績を上げている社員、あるいは貢献度の足りない社員が、採用時にどんな評価をされ、どう配属されたかも瞬時にわかり、採用とその後の社員のパフォーマンスがひもづけられる。

それだけではない。「タレントプール」という機能を使えば、そのネットワークは社外にも広がる。タレントプールには社員の友人や、イベントで知り合った人材など、社員独自の人脈から採用したい「予備軍」を登録できる。「例えば、社内のエンジニアの講演に来た学生で『これは』と思う人材もいるし、内定を辞退されたけど諦めきれない人もいる」(石黒氏)。いざ人材が必要となったときに白紙の状態から探すより格段に効率があがる。

 

タレンティオの佐野社長

タレンティオの佐野社長

システムを開発したタレンティオ(東京・渋谷)の佐野一機社長は、「10人の優秀な人材を確保するために1万人の母集団を集める今の採用のやりかたは非効率だ。分母と分子を1分の1に近づけるのが理想」と話す。タレンティオは、16年5月にリリースして以来、500社が導入するが、年内に1000社まで伸ばすのが目標という。

■雇用契約を1分ですませる

内定が決まれば人事担当者の仕事が終わるわけではない。意外に煩雑なのが、雇用契約のプロセスだ。身元保証書、秘密保持誓約書、反社会的勢力と関係ない旨の契約書など、いくつもの書類が必要となる。弁護士ドットコムは、これをペーパーレスで完結できるサービス「クラウドサイン」を2年前に始めた。内定者はスマホなどからログインし、雇用契約に関する書類を確認。問題がなければ名前を入力し、「同意する」ボタンを押すことで押印の替わりとなる。

人事業務を効率化するクラウドサービス
サービス名
(社名)
目的 サービス内容
タレンティオ
(タレンティオ)
採用
活動
応募者の評価入力や選考状況の確認など
クラウドサイン
(弁護士ドットコム)
雇用
契約
内定後に必要な身元保証書などの書類締結と保管
SmartHR
(SmartHR)
労務
手続き
入社時などに必要な社会保険の手続きや申請

 

書類だと、返送されるまでに1週間ほどかかるが、クラウドサインを使えば、早い場合、1分間で契約が成立する。サービス運営には弁護士が携わるため、法的な不備の心配がないのが強み。元栄太一郎社長は、「契約書は、なつ印がなければ有効でないというイメージがあるが、法律家の観点で言えば、契約は口頭でも成立する」と話す。クラウドサインでは、押印の代わりに「同意するボタン」を押すが、これにも法的な効力がある。導入企業にはクレディセゾンやインテリジェンスなど大手も名を連ねる。利用する企業規模は社員数が100~500人の企業が多く、7000社が導入している。

元栄氏は「企業にとって法律はまだまだハードルが高いイメージがあり、効率化が進んでいない分野だ。『フィンテック』の次は、ITと法律が融合した『リーガルテック』の時代がくるだろう」と強調する。

 

雇用契約が無事終われば、次の関門は、社会保険や雇用保険の手続き。出産時の産休・育休の手続きや退職後の失業保険の申請など、継続的な労務手続きも発生する。こうした手続きを書類で行う場合、複数の役所に行く必要があるが、SmartHR(東京・渋谷)はこれをウェブ上でできるようにした。

 

SmartHRの宮田社長
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SmartHRの宮田社長

人事担当者は、新たに入社する従業員に招待メールを送る。従業員はPCやスマートフォンからログインし、名前や生年月日、基礎年金番号、雇用保険番号、扶養家族情報などを入力。企業が給料や入社日などの情報を追加すれば申請書類は完成、申請もオンラインでできる。書類で行う場合、半日から1日かかっていた役所への届け出が15秒ほど。申請から保険証が届くまで3週間かかったが、1週間で可能となる。

システムを導入したIT大手のクラウドワークスの場合、人事担当者は毎月の業務時間の半分を、紙での労務手続きに関する作業に割いていた。これを3分の1に減らすことができ、在宅勤務や副業に関する社内制度の設計にあてることができたという。

■国のサービスをもっと便利に

紙を使わずに役所に申請できるのは、総務省が運営する「電子政府の総合窓口」と連携しているからだ。この窓口は、06年からサービスを開始しているが、「使い勝手がいいとは言えず、普及率はたったの8%というデータもある」(SmartHRの宮田昇始社長)。14年に国がシステムの仕様を公開したのを、宮田氏はいち早く着目した。現在の導入企業は4500社。19年までに2万社、21年には10万社まで伸ばすのが目標だ。

こうした「採用管理クラウド」の市場は16年度にの36億1000万円(前年度比45.5%増)に成長する見込み(ミック経済研究所調べ)。人事がもっとクリエーティブな仕事に集中できれば、働き方改革の答えが見えてくるかもしれない。