総合「人事で愛情は邪魔、判断はスパッと」森川亮氏 C Channel代表取締役の森川亮氏(下)
「女子の知りたい」を解決する動画メディアとして急成長し、現在はアジア各国にも進出するC CHANNEL。2015年にLINE社長を退任後、ゼロからこの事業を立ち上げ成長させてきた森川亮C Channel代表取締役に、社員の人事評価やリーダーシップについて聞いた。
■現場で各自が判断 「管理」はしたくない
――インターネットの世界はスピードが命。変化に対応するためには、打順が決まっている「野球型」ではなく、攻守入り乱れながら各自の判断でシュートを打つ「サッカー型」の組織でなければならないと、よく話していますが。
「基本的に管理するというスタイルが好きじゃないんです。雇う側と雇われる側、管理する側とされる側という方向に行ってしまうと、何事も会社対労働組合みたいな構図になってしまいますから。理想としては、各個人が経営目線で、今どうしたいか、どうすべきかを議論して、そこで最適解を選べるような組織文化にしたい。ビジネスはタイミングが勝負なので、全部、私が判断するとスピードが遅くなる。なるべく現場で判断してほしいと思っています」
――ただ、現実には思い通りにいかないこともあるのでは
「もちろん放っておいてみんなが結果を出せるのが理想ですが、それだと結果が出ない人もいるので、場合によって指導が必要になりますし、厳しくすることもあります。ただ、社員も今100人近くなって、全員に厳しくするほど私にも体力はない。パワハラではなく、本当に相手のことを思って厳しくしたり叱ったりするのには結構パワーがいります。ですから、ある程度厳しくする人とそうでない人に分けていますね」
■変な優しさはいらない。評価システムに逃げるな
――人事評価はどのようにしているのですか。
「明確な評価システムというのはないです。私の過去の経験でいうと、評価システムというのは必ずしも有効ではないからです。よくあるのは、評価項目をいくつも設けて、数字で客観的に評価するという手法ですが、その数字も本人の努力より運の要素もありますし、サッカーでいうとシュートはせずにアシストに回ることもあるわけで、それをどう評価するのかとか厳密にやっていくと非常に難しくなってしまう。結局のところ最後はリーダーが、『チームにとってその人が必要かどうか』の一点で評価するしかないと思います。そしてその判断をする過程こそが、リーダーを育てる教育にもなるんです」
「でも最近は皆さん、変な優しさがあるというか、人に対して強く言えない人が多いですね。本当は、『あなたのこことここが悪くて、もっとこうすれば良くなる』とか『もう何年も変わってないんだけど、次までに変わっていないとクビだよ』くらいのことを言える厳しさが必要なのに、『人事が用意した評価システムだと評価がちょっと低くなっちゃって。ごめんなあ。でも俺は認めてるぞ』みたいな風に言ってしまう。そのほうが、なんとなくその場が丸く収まるじゃないですか。人事のせいにするとか、評価システムに逃げてしまう。多くの大企業はそういう感じだと思います。でもそれって本当は良くないですよね。だって曖昧にすることで、結局は当人が後から困るわけですし、結果を出せない社員が増えれば商品やサービスが続かなくなる。最悪、会社がつぶれるわけで、やはり言うべきことははっきり言って、問題を早く解決したほうがいいんです」
■人への変な愛情は道を誤らせる
――優しくなり過ぎている、というのはいつ頃からですか。
「やっぱりインターネットが出てからじゃないですか。昔なら新規事業の決済でも、ちゃんと上司と一対一で向き合って紙で説明して、破られたらまた書き直して持っていく、みたいなことをやっていましたけど、最近はメールで送って、メールで断る。今の若い人たちはプロポーズもLINEでするらしいですし。そのほうが楽ですが、何か抜け落ちてしまうところはありますね。ネットを舞台にビジネスをやっている身としてはなかなか複雑な思いもありますが、カーナビがあると道がわからなくなるのと同じで、テクノロジーが人間を退化させてしまうという課題はあるでしょう。人事においても、評価システムという便利なツールを手にしてしまうことで、リーダーがリーダーとしての責任を果たさなくなるという負の側面があります」
「メンバーが事業に対する愛情を持つことは大事ですが、人事面での愛情というか同情はむしろ邪魔です。会社経営においてダメな事業が出てきたときに、欧米の会社だとすぐ止めるのに、日本の会社だと『あいつが頑張ってるから助けてやろう』とか『中止すると誰それが可哀想』とどんどん無駄が膨らんで、組織全体が腐っていくことが多い。右肩上がりの時代はそれでも良かった。でも今のように、ずば抜けて良くない限り事業として生き残れないという厳しい時代には、どこかでスパッと判断しないといけない」
■リーダーは「刺さる言葉」を持て
――森川さんご自身がリーダーとして大切にしていることは何ですか。
「これまで私もいろいろな上司に出会ってきました。でも振り返って、リーダーとして成功している人が、必ずしも『ぐいぐい引っ張る』という意味でのリーダーシップがあるかといえばそうでもない。それよりリーダーにとって大切なのは、人の心に刺さる言葉を持てるかどうかだと思います。例えば社員が1万人いたら1万人の心に刺さる言葉をもっていなければ、多分それだけ大勢の人を引っ張っていくことはできない。もちろん部下を通して間接的に伝えるというのもあるでしょうが、急激に変化しなくてはならない時代は、やっぱり直接メッセージが届かないと変わっていかない」
「そのために必要なのは、まずは相手の気持ちを理解しようと努める姿勢でしょう。『やりがい』という言葉ひとつとっても、人によって意味するものが違うので、相手にとってのやりがいを理解しなければ、『やりがいを与える』といっても口先だけになってしまいます。社員が増えると、一人ひとりと密にコミュニケーションを取るのは難しくなりますが、だからこそ、わかりやすい言葉で、大事なことはできるだけ一つに絞って、シンプルに伝えるというのを意識しています」
1967年神奈川県生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。仕事の傍ら青山学院大学大学院にてMBAを取得。ソニーを経てハンゲームジャパン(現LINE)入社し、2007年、同社社長に就任。15年に退任後、C Channelを設立。
