【海外人事の視点】「デザイン思考」で変革の時代を乗り切る

総合【海外人事の視点】「デザイン思考」で変革の時代を乗り切る

オーストラリアの人事メディア「HCオンライン」より、コンサルティング会社バーシン・バイ・デロイトの研究部長デヴィッド・マロンのインタビュー記事を紹介する。現代の人事関係者が直面する「ディスラプション(創造的破壊を伴う変革)」や、その対処法の1つとしての「デザイン思考」の導入などについて語られている。(以下、抄訳)

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質問:人事は現代のディスラプティヴな環境に直面しています。その責務は、組織の人間がこの破壊的変革に対処する助けをしつつ、人事そのもののプロセス、構造、サービス提供方法などを見直していくというものです。これについてはどう考えていますか?

これは人事にとって重要な問いかけだ。人事は単に時代の波に遅れないように、組織の補佐をしているだけでいいのか? それとも真の価値やイノベーションの源泉となることを目指すのか? 問題がひと筋縄ではいかないのは、人事そのものが組織全体と同じくらい破壊的変革を経験しているためだ。

いまや従業員らは人事が提供するエクスペリエンスが、フリクションレス(摩擦がなく滑らか)であることを求めている。銀行やオンラインショッピングなど、暮らしの中のあらゆる情報源に求めるのと同じことを期待している。つまり「サービスは、自動的に提供されるもの」という期待だ。

だが現実の人事には様々な厄介なプロセスがあり、サービス提供はひと筋縄ではいかない。人事と関わる人々はみなそのように感じている。そこで人事が取り組むべきは、エクスペリエンス面の改善であり、生活の中の他のサービスと同じように、よりデジタルで快適なエクスペリエンス提供を目指す必要がある。

これが大きなチャレンジとなるのは、現在人事機能を担う人の大半は、「スチュワード(世話役)」的な気質を有しているためだ。彼らの考える人事の役割とは、リスクを避けつつ組織を保護し、一貫性を確保することだ。しかしいまはそうした価値観はあまり必要ではない。必要なのは、人事機能における実験精神であり、現場の声に耳を傾け、世界でなにが起きているのかを積極的に知ろうとする姿勢だ。

質問:人事が自身を変革する手段の1つは、人間戦略にデザイン思考を持ち込むことと言われますが、これはなにを意味しますか?

デザイン思考の理論については諸説あるが、いずれの理論にも共通のテーマがいくつかある。1つは「エンパシー(共感)」の考えだ。感情的な意味合いでの共感ではなく、「サービス受託者の立場から物事を考える」という意味だ。これを人事の文脈に置き換えると、一貫したステップ方式のガイドラインを用いてトップダウンのプロセスで問題解決を目指すのではなく、人事関係者が組織の従業員に密着することで、従業員の世界で起きるあらゆる物事に精通し、彼らがどんな破壊的変革に直面しているか、彼らはなにを最優先に求めているかを知ることだ。

従業員のエクスペリエンス(体験)を念頭に置きつつ、彼らの成功や生産性・エンゲージメント向上に役立つ問題解決をデザインしていく。これはつまり、サービス受託者側に徹底的にフォーカスしていくことを意味する。

この実験におけるもう1つ重要な要素は、「イテレーション(反覆)」だ。デザイン思考のカギは、最初から完璧なソリューションが存在するという考えを捨てることだ。代わりに、実行可能なソリューションの選択肢をいくつも生み出して、できるだけスピーディにそのトライ&エラーを繰り返し、常に変化や修正を加えていくことだ。そのプロセスには終わりがない。率直に言ってしまうと、これは人事が先天的に得手とする分野ではないはずだ。

質問:その仕組みの具体的な例を挙げてもらえますか?

人事のトランザクショナル(取引・処理)面には好例が多くある。たとえばあなたが従業員で、住宅や車の購入に必要な証明書が欲しい、あるいは勤務スケジュールの変更や休暇申請をしたいとする。こうした人事トランザクションの多くは、いまやモバイル・アプリで実施されるようになった。その理由は明快で、従業員がそうあることを期待しているためだ。

こうしたトランザクション提供は、たとえばモバイル・バンキングが参考になる。人事担当者で考えるべきは、従業員エクスペリエンスを最大限に簡略化することで、それがもはや人事タスクであることを相手に意識させない方法だ。従業員が人事サービスを何も考えずに自動的に受託できるような方法のことだ。

こうした枠組みの必要性は、キャリアに関する会話など、より意義深い人事側面においても出てきている。いまや人事は「問題があると駆けつける場所」ではなく、「相談が必要なときに立ち寄る場所」となりつつある。人事は組織を代表して、相手のキャリアパスの指南役となり、利用可能なツールや組織内部のステップを教える立場となるべきだ。

質問:人事はこの変革に脅える必要がありますか? それとも従来とは異なる対話を社員と交わすチャンスと捉えるべきですか?

脅える必要はまったくないと思う。ここでも銀行がとても優れた先行例となる。いまや世界中の銀行には、かつてないほど多くの窓口係が勤めている。銀行業がここ数十年でいかに変化したかを考えると、これは一見して理解しがたいことに思える。

だが実際に銀行の支店に行って窓口係の前に座ればわかるが、10~20年前と現代の窓口係は、肩書きは同じであれ、まったく異なる仕事をしている。レジ係のように実際の金銭をやり取りする機能はほぼすべてなくなった。現代の窓口係の仕事は、「人間関係の構築」だ。彼らは対話を通してあなたのことを知り、それに応じた製品やプログラムを推奨する存在だ。

これと本質的にはまったく同じことが人事分野でも起きている。組織内の他分野と同じように、人事にはますます「人間的」なスキルが必要とされるようになっているのだ。