総合経営者に「人材データを信じる勇気」がなければ 優秀な社員ほど会社を辞めていく
米国の人材マネジメントソフトウェア大手、コーナーストーン・オンデマンドの経営企画担当役員が2月に来日し、日本市場へ本格進出する狙いを語った。
世界3000万ユーザーが利用する
タレントマネジメントシステム
ジェイソン・コルセロ(Jason Corsello)米国コーナーストーン・オンデマンド
経営企画、戦略担当シニアバイスプレジデント
コーナーストーンの製品開発、市場進出戦略やM&A投資を主導する一方、従業員サービスやモバイル製品などの責任者も務める。2011年に同社に入社するまで、20年以上にわたり企業向けソフトウェア業界の調査、コンサルタントの経験を持つ。人事マネジメント業界の専門家としてメディアにも多数登場
――コーナーストーンとはどんな企業ですか。設立からこれまでの経緯をお聞かせください。
ジェイソン・コルセロ(以下・黒文字) コーナーストーン・オンデマンドは1999年に米国ロサンゼルスで創業した企業です。以来17年間、タレントマネジメント分野の業界をリードしてきました。現在は世界24ヵ所にオフィスを構え、191ヵ国、3000社にサービスを提供、総ユーザー数は3000万を数えます。世界市場でのシェアは27%で第1位です。
当社は社員教育のオンラインプログラムからスタートしており、今でもラーニングはコアの事業です。そこに、採用やパフォーマンス管理、後継者育成などの人材管理に関する機能を追加してきました。これらをタレントマネジメントのスイートとして構築して、ユーザーには1つのサービスとして提供しています。
――コーナーストーンのサービスの特徴は何でしょうか?
最大の強みは、創業時からの中核である社員の教育プログラムです。あらゆる業界、業務分野の教育をオンラインで行えるようになっています。
例えばある国の税務の仕組みについて学びたいという時も、それを体系的に学び、自分が業務で使えるレベルに達しているかをテストすることができます。コーナーストーンのユーザーの約82%が教育プログラムをご利用いただいており、年間、全世界で約4億件のオンラインプログラムを「修了」しています。
――業績面では、ここ数年の急成長が目立ちます。
とくに最近の成長が著しいという認識はありません。創業以来一貫して業容が拡大しているなかで、とくに最近は人材の分野に対する注目度が高まり、成長が持続していると感じています。
コーナーストーンのサービスのもう1つの特徴は、当初から「クラウド」の仕組みを取り入れていたことです。つまり、1つのユーザーアカウントで、すべての機能が使えるようになっています。他社の場合よく見られるのが、買収によって追加された機能を横に並べていく形ですが、それですと機能ごとのインターフェースのばらつきなどがあって使い勝手がよくありません。
違う見方をすると、クラウドベンダーであるからこそ、ユーザー数の拡大への対応や機能の追加をスムーズに行って来られたという認識です。すべてのユーザーに、同じときに同じバージョンを使っていただく、つまり1つのサービスを提供し続けるなかで、バックのシステムやアプリケーションを次々と拡大してきました。現在も年間4回、3ヵ月ごとのバージョンアップを繰り返しています。グローバル展開についても、クラウドであるからこそ新しい国や地域にもサービスを拡大できたといえます。
その結果、顧客の維持率は95%を超えており、支持の高さを裏付けています。ちなみに現在の最大の顧客は、カナダに本拠を置くDHL社で、同社の全世界の社員約60万人に使っていただいています。
――すべての機能を自社内で開発していくのは難しくないでしょうか。買収は一切やっていないのですか。
もちろん、外部の優秀な技術には常に目を配り、必要とあれば買収も検討します。ですが仮に買収したとしても、その企業の事業は単一サービスの中に完全に統合する方針です。たとえば一昨年ディープラーニング(人工知能)技術の企業を買収していますが、その技術はコーナーストーンのサービスの中に一体化して提供していくことになります。
教育プログラムを核に
人材マネジメントへ拡大
――タレントマネジメントというと、人材の能力評価や適材適所の人材配置、後継者選定、採用時の能力判定といった、社員のスコアを基にしたデータ分析に関心が集まっています。コーナーストーンが社員教育にこだわる理由をお聞かせください。
CEOのアダム・ミラーが創業時に掲げたビジョンは「学びで世界を変える」です。教育が企業の成長に欠かせないものであるという信念を持って今日まで事業をしてきました。コーナーストーンの場合、教育の仕組みを提供するためには、個々の社員の能力を把握し、共有する基盤が必要だということで、タレントマネジメントの領域に拡大してきたのです。
とはいえ、個々の企業が直面する人材に関する課題は、業態や成長のステージ、社員数などによって異なります。必ずしも「教育が最重要」というメッセージだけでは十分ではありません。採用の課題が最重要であれば、その機能を中心にお使いいただき、そこから教育を含めたすべての機能を追加していくこともできます。1つのサービスでありながら、一部分から使い始めることができる柔軟性がコーナーストーンのクラウドシステムの特徴でもあります。
とくに大企業では、人材の課題のすべてを一度に解決しようとするのは困難です。テーマを決めて、小さなことからでもはじめるべきです。
部分的なサービスの成功例として挙げられるのが、アマゾン・ドットコムです。彼らは採用に関して課題を持っていました。というのも、急成長する人気企業であるがために、人材募集にはたいへんな数の応募が集まります。その中からどうやって優秀な人材を絞り込むのかが問題でした。そこでコーナーストーンを使って人材の選抜をすることで成果を挙げています。
――応募が多いのなら、テストを難しくすれば優秀な人だけ残せるのではないのでしょうか。
採用はテストだけでは決められません。面接も必要です。例えば1つのポストを募集したときに10万人応募があり、試験で1万人に絞ったとしても、1万人に面接をすることはできません。ポストに合った人を採るために、誰に面接をすべきかを自動的に絞り込む必要があります。その選抜にコーナーストーンを用いることができます。
グローバル人材とは
世界基準+ローカル能力で評価する
――日本には今年から本格的に進出されるとのことですが、すでに他のグローバルな人材ソフトの企業は日本に拠点を設けています。参入が遅れた理由はなんですか。
日本でも、社員教育の分野では、外資系を中心にすでに多くの企業に採用されています。日本は重要なマーケットだと捉えていますし、日本の人材に関する市場は、まだ早期の段階にあると考えていますので、これからでも大きく業績を拡大していく余地があると認識しています。
――労働人口の減少や新しい業務とのミスマッチなど、今後日本企業は必要な人材の確保が厳しくなると言われます。どう見ていますか。
日本では、定年退職した社員の穴を埋めることが一層困難になってくるでしょう。自国で必要な人材が賄えなければ、海外に目を向けていくことが求められます。米国ではグーグルが、データサイエンティストの人材を海外の労働市場に求め、東欧などで探して採用していると聞きます。そのようなときに、海外の社員でも共通基準で能力を評価できるタレントマネジメントの仕組みは必須となります。そして、世界から人材を集めた後は、必要なスキルを効率よく習得する教育システムが戦力化のカギを握ります。
――今後は日本企業でも、ますます「グローバル人材」が必要と言われます。日本企業がグローバル人材を育てていくための要件を、どのように人事システムに取り入れていけばいいのでしょうか。
欧米の例を参考にすることができます。まず、その企業の本社部門が考える「グローバルで共通な能力、資質、属性」を満たしているかが基準となり、それに各国や地域のローカルな能力を二階建てにした人材のデータを蓄積していきます。これは「グローカル」な人材のデータベースということです。
グローバル人材育成の成功例として、ネスレを挙げることができます。ネスレは言うまでもなく世界で事業を展開していますが、スイスの本社で基本となる人材像については一元管理しており、そこにローカルの要件を加えて運用しています。
経営者がデータを信じることを宣言する
――日本では「働き方改革」による生産性向上へ政府を挙げた取り組みが始まっています。日本の生産性が低い理由の一つに、社員の「がんばり」や「時間をかける」ことへの高評価が根強いことが問題と言われます。つまり、データに基づく人事評価がまだ浸透していません。
これはまさに経営の問題で、経営者が「データと技術を信頼する」勇気を持つことが必要です。世界から人材を募ろうとするなら、日本国内の価値観から、新しい基準に踏み出さなければいけないのです。そのためには経営者が率先して、「これからわが社はデータを重視した人材マネジメントを行う」ということを社員に宣言し、実際にその仕組みを取り入れる必要があります。そうすることで評価基準の透明性が増し、たとえば在宅勤務でもオフィスにいる人と共通の評価基準で判断ができるようになります。俗人的な評価や組織の問題がチェックできるようになるはずです。
能力の高い社員ほど
会社を去っていく理由
コーナーストーンでは、社員の「今日の仕事の調子」をスマホから登録できるサービスを提供している。こうしたアンケートでエンゲージメントの変化を計測可能だという人材に関するもう1つの課題として、いま米国では「エンゲージメント」に注目が集まっています。これは社員が企業にどれだけ愛着をもっているかということですが、米国企業の調査では、わずか13%の社員からしかエンゲージメントが得られていないという結果も発表されています。経営者は、社員がどのような環境で働いていようと、パフォーマンスのマネジメント、そしてエンゲージメントのマネジメントをしっかりやっていく必要が出てきました。そうでなければ、報われないと感じた優秀な社員は会社を去ってしまうからです。
――エンゲージメントは、どうやってデータとして管理するのですか。
まずは個人個人のデータに基づいた公正な評価が基本です。さらに、社員からの自己申告も重要なデータとなります。コーナーストーンのサービスには、社員のエンゲージメントをリアルタイムに測定するツールがあります。これはスマートフォンからでも「仕事に満足しているか、ハッピーなのか」を手軽に入力できるようになっています。
集められたデータは人事部門や経営者が日次、週次、月次といった形で変化を見たり、あるいは部門ごとの差をチェックすることができます。このデータとパフォーマンスとの相関を見ていくことで、社員のエンゲージメントを維持する手を打つことが可能になります。
――これは、うまく数値化できるのでしょうか。社員個人ごとの基準が異なるはずです。「顔で笑って心で泣いて」の人もいれば「忙しさ自慢」の人もいますから。
そうですね(笑)。そうした個人ごとの偏りは日本だけではなく、どの国でもあると思います。当然データ収集を開始した当初は結果もバラつきますが、調査を長く続けていくことでデータが蓄積されてくれば、分析の精度が上がることがわかっています。ここで重要なのは、社員が簡単に入力できるシステムであることです。
――人材活用に悩む日本の企業経営者は多いと思います。何から始めればいいでしょうか。
日本の経営者の中には、タレントマネジメントというと「大きなプロジェクトが“どん”とある」という認識をしている人がいるかもしれませんが、実際は部分的な取り組みからスタートすることができます。先ほど話したアマゾンのように採用の部分から始めるですとか、ラーニングから他の領域へ膨らませるといったこともできます。あるいは、企業内の1部門で導入し、それを全社に展開していくことも可能です。まずは始めてみて、そのデータをフェアな目で評価してみることが重要です。
(取材・文/ダイヤモンド・オンライン IT&ビジネス 指田昌夫)