マイクロソフトが「社員全員で採用を仕掛ける」理由

総合マイクロソフトが「社員全員で採用を仕掛ける」理由

グローバル企業であり、IT業界を牽引するマイクロソフトでは、ここ2年ほどで人材採用に関して大きな変化が起きている。ヘッドハンターや人材紹介を用いず、社員紹介やSNSなどを用いて候補者にリーチする手法が盛んだという。そのメリットや取り組み方について、執行役員で人事本部長を務める杉田勝好氏に聞いた。(聞き手/多田洋祐・ビズリーチ取締役・キャリアカンパニー長)

採用だけに特化した「全員がリクルーター」のチームを編成

多田 求職者数は頭打ちとなり、日本では優秀層の人材獲得競争が激化し始めています。そんな中、マイクロソフトでは採用だけに特化したチームを新たにつくられたと伺いました。

杉田勝好・日本マイクロソフト執行役員人事本部長

杉田 はい、発足して2年ほどです。社員全員がリクルーターとなるチームです。

多田 日本でマイクロソフトを知らないビジネスパーソンは少ないはずです。むしろ応募者がやってくる立場だと考えますが、社員全員がリクルーターというチームをつくられたのはなぜでしょうか。

杉田 よりよい人材に入社してほしいからです。これは理想論かもしれないですが、やはり自分たちで力を尽くし、ベストな人材を探してくるべきだという想いがひとつ。それから、エージェントフィーがない分だけコストが下がるのも大きなメリットです。

多田 なるほど。「探す」という点では、貴社はLinkedInを買収されたのも記憶に新しいところですが、各社こぞって、いますぐの応募意思はない人をどう集めていくかに力を注いでいる印象もあります。貴社としても潜在層へのリーチは意識していますか?

杉田 はい。社内の候補者を探す専門チーム(ソーシングチーム)がリストアップしてきたトップランクの人たちには、ポジションの有無はひとまず問わず、役員クラスがとにかく会わせていただいています。

ポジションがあればすぐにお誘いするし、なければ将来的にお声がけができるように良好な関係を築くことに努めます。「社員全員がリクルーター」というスタンスですから、ポジションの有無を考え始めると声をかけるのも難しくなってしまいます。社員に対してはまずは「良いと思えば、とりあえずリストアップしてほしい」と呼びかけています。

実際に、入社時には適切なポジションがまだなく、「ひとりマネージャー」のようなポジションを作って配置した社員が、半年経って急成長して、別チームのマネージャーに就いてもらったこともあります。その人はITではない企業の出身ですが、リーダーシップやビジネスケイパビリティの高さもあって採用しました。こういったケースは、まだまだ可能だと考えています。

多田洋祐・ビズリーチ取締役 キャリアカンパニー長

多田 非常にフレキシブルですね。面接はそれ相応の時間が取られますから、二の足を踏みがちな企業も多いものだと思いますが、いかがですか。

杉田 前提として昔から企業の競争力の源泉は人材であると言われていますが、ますます優秀な人材の採用と活用度合いが経営に大きな影響を与える時代が始まっていると感じています。「Microsoftだから採用できる」ということは決してありません。

優秀な人材は、「やりたいこと」がしっかりマッチしていなければ、採用することが難しいです。だからこそ自社の魅力を伝えるために「会いに行くこと」は徹底して社員に伝えていますし、採用に関してはマネージャーやシニアの役員たちもプライオリティを上げてくれています。

別に信用してないわけではありませんが、良い意味でも、悪い意味でも「人事に任せきりにしない」ということでしょう。そもそもマイクロソフトは全体的に人事が強大な権限を握っている企業ではありませんが、日本の企業には人事部が秘密のパワーを持っているようなことがあるんですね(笑)。そのあたりのパワーバランスはずいぶんと違うなと感じます。

フレキシブルに「会いに行くこと」を徹底する

多田 具体的にソーシングチームに属するリクルーターの方々は、どんな目標を設定して動かれているのでしょう? 月間の採用承諾数といった数値ですか。

杉田 最終的にはやはり採用数になりますが、たとえば「空きポジションが出来てから90日以内に充填できたのは何パーセントだった」といった数字もあります。あるいは、会社として注力をしている「女性の採用」というようなプロジェクトベースの目標もあります。

このような場合はもともとのターゲットが決まりますから、部署ごとの未達状況も把握できます。それら「数字で追える部分」だけでなく、社員や役員から上がってくるフィードバックといった「数字で追えない部分」も見ています。

多田 どういった社員が「リクルーター向き」だと考えますか。

杉田 まずはマイクロソフトを理解し、ビジネスを理解し、お客様について理解していることがベースです。その上で、マイクロソフトの魅力をどれだけ語れるかでしょう。

杉田 時折見られるケースとして、人事担当者が「今年度の我が社の予算は?」と聞かれた際にすぐ答えられないなど、ビジネスへの関心が弱いこともあります。やはり自社の強みを、数字でもって語ってほしい。

ですから、どちらかといえばマーケティングやセールスに携わっている感覚の強い人が向いていると思います。普段から相手方の事情を把握するのに敏感ですから、「候補者が何を求めているのか。何がボトルネックになっているのか」をちゃんと聞き出し、理解して話せるのです。

これまでは会社が候補者を評価し、採用判断するスタンスがあったと思いますが、今それはあまり通用しないのではと感じています。

むしろ候補者が会社を選ぶ時代ですから、相手の聞きたいポイント、求めているポイントを理解して、自社をうまくアピールできるのが相当に大事だと考えています。実は私自身も、日本マイクロソフトには直接声をかけられて入社しました。

多田 杉田さんご自身も直接声がかかって入社されたんですね。どのような経歴でマイクロソフトに?

杉田 新卒で旭化成に入社し、工場の人事に携わることになってから、ずっと人事畑です。

旭化成在籍中にロンドン留学したのが契機となって転職し、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカなどの外資系ヘルスケア企業で働いてきました。テクノロジー業界は2016年の7月からで、まさに「チャレンジ」です。最初に勤めた会社がメーカーでしたので「製品のある」会社が好きだなと思っていました。

しかし、マイクロソフトから直接声をかけてもらって、会社を知るうちに様々な魅力に気づけたのです。世界中に大きなインパクトを与えている会社だけあって、優秀な人材も多く、その人たちが非常に高いモチベーションで働いている。会社の仕組みや目指している地点もよくできているんですね。私にこの職務が果たせるかどうかはチャレンジになりますが、私自身の興味や面白さの気持ちが勝りました。

多田 これまでも、企業から直接に声をかけられたことはあったのですか?

杉田 いえ、今回が初めてです。最初は冗談か何かの罠ではないかと思ったものです(笑)。実体験をもって会社を語ることができる人事の重要性を感じています。

多田 日系企業と外資系企業の両方を経験された杉田さんから見て、日系企業と外資系企業の採用手法の違いを感じますか。

杉田 まったく違いますね。日系企業の場合は、今でも新卒重視ですし、最近では景気の揺り戻しもあってか、中途採用に積極的だった企業も新卒重視に戻りつつあるようです。ただ、新卒はいまだにリクルーターには出身大学の卒業生を選びがちなように、基本的には「自分たちと同じ人」を探しているような価値観が多いように感じます。

外資系企業というよりマイクロソフトとしてですが、どちらかといえば「自分たちと違う人」を探して、ダイレクトに連れてくるというミッションを持っています。そのあたりも大きな違いでしょう。

手法についても外資系でよく使われる私が直接声を掛けてもらったような「ダイレクト・リクルーティング」という手法では、最初から「会社の人間」がコンタクトをしますから、迷いなく口説きにくるというか、「会社のために少しでも優れた人材を採ろう」という明確な使命感がありますね。

マイクロソフトが「ラーニング」に重きを置く理由

多田 マイクロソフトに参画されて半年だと思いますが、マイクロソフトの企業としての強さの源泉はどこにあると見ていますか。

杉田 やはりこれだけの大きな企業で、どのような部門であっても社会に大きな影響を与えていますし、事業を通しての社会に対するインパクトの大きさを社員も非常に求めていると思います。

個人のキャリア形成に対して意欲的な人も多く、社員それぞれに「こうなりたい」という理想があり、仕事でステップアップしたい、次のステージへ行きたい、という人にとっては、自分自身を成長させる「やりがい」が環境として整っている企業だと思います。

それから、「社内ではラーニングと呼んでいる“新しい学び”のためには失敗しないといけない」というスタンスですから、失敗には寛容なところもあります。時間をかけて議論するよりも「とにかくやる」カルチャーなのも、すごくいいことだと感じます。

最近のマイクロソフトのカルチャーを表す言葉は「ラーニング」なんです。パフォーマンスを上げる、変革をするだけでなく、とにかく新しいことを学んで、もっと成長しなくてはいけないと。個々人や組織が成長していってこそ、会社もビジネスも成長できるんだと。

それはグローバルのCEOであるサティア・ナデラの考えも大きいです。「自分たちはお客さまのことをいっぱい学び、もっと成長しなきゃいけない」というグロースマインドセットをしっかり伝えています。彼の言葉や著書に書かれている内容が、自分の考えとフィットすると感じたという点も私がマイクロソフトに転職を決めた理由のひとつです。

多田 そうした企業文化があるから、自身を向上させたい、新しいことにチャレンジしたい人にとっては、素晴らしい環境である、と。

杉田 われわれのビジネスは、商品や自社サービスが先に来るのではなく、まずは顧客を理解し、ソリューションを提供できるかが大事になる。だからこそ「ラーニング」が重要になるし、そのために全部門を挙げて、「顧客に向き合い、一緒に話せる人、理解できる人」を採用しようとしているのです。

多田 事業の大戦略があり、そのために必要な風土、人のあり方を見つめ、欲しい人材像も明確になっていく。それがすべてつながっているのですね。貴重なお話、ありがとうございました。