総合人材を評価するのは唯一「誠実さ」 スギホールディングス会長 杉浦広一氏に聞く(前編)
1976年に夫婦で始めた1店の薬局を、全国で1000店舗以上のドラッグストアチェーンに育て上げたスギ薬局の創業者。苦難の連続だった創業時から、年間50店以上のペースで事業を拡大するに至った経緯と、その経営理念について杉浦広一会長に聞いた。
杉浦会長は起業を前提に薬学部へ進まれたと聞いています。大学の後輩である奥様(杉浦昭子・スギホールディングス副社長)と2人で、どのような薬局をつくろうと考えていたのでしょうか。
杉浦:経営はもちろん、店舗運営の経験もセンスもありませんでした。薬剤師として、お客さまに「スギ薬局へ行ってよかった、相談してよかった」と思っていただくこと、我々からするとお客さまに喜んでいただくことを、薬局の理念にしていました。
そうするには、2回目に来ていただいたとき、お客さまの名前を知っているだけではダメです。前回、このお客さまはどういうことをおっしゃって、どんな症状があって、何を買われたかを分かっていないといけません。そこでお客さまごとに、お医者さまが使っているようなカルテを作りました。それを見ながら「前回、このお薬はどうでしたか」などとお話をするのです。「かかりつけ医」という言葉がありますが、私たちは「かかりつけ薬局」を目指してきました。

1950年愛知県生まれ。岐阜薬科大学を卒業後、76年に妻の昭子氏と共に愛知県西尾市に店舗面積16坪のスギ薬局を創業。82年に株式会社化し、社長に就任。2008年に持ち株会社化、09年から現職。地域医療・福祉への貢献などを目的にした公益財団法人杉浦記念財団(昭子氏が理事長)の評議員会長も務める(人物写真:上野英和)
我々が1976年に創業した当時、小さな薬局では、自家製剤といって、薬を調合できました。症状を聞いて調剤し、それを薬包紙に包んで、たとえば5日分15包を1000円でお渡しするようなことをしていました。これで治らないとダメですが、治ると「自分のためにつくってもらった薬で治った」と、私たちの薬局のことを劇的に信頼していただけるようになりました。
レジの後ろの景品棚は「創業の理念」の象徴
ポイント制度もかなり昔から取り入れられています。
杉浦:お客さまの、再度のご来店を願ってのポイント制度です。昔は、お客さま一人ひとりのポイントをノートに記録していました。今も、スギ薬局へ行くとレジの後ろに貯まったポイントと引き替えでお渡しする景品が並んでいます。あれは、40年前のままなんです。
東京のど真ん中の、虎ノ門や京橋の店でもそうしています。普通のドラッグストアなら薬を並べる所に景品を置いています。
レジの後ろには、利益を出す商品を置いた方がいいと一般的には言われています。証券アナリストさんからは「こういう無駄があるから株価が……」などと言われることもありますが、これは創業の理念なんです。
不易流行という言葉があります。私にとってはこの景品がまさに不易です。
創業から5年間は非常に苦労されたようですね。
杉浦:最初の2000日間は無休で、朝7時から夜11時まで店を開けていました。それは借金を返すまでは無休で働くと誓っていたからです。

当時の借金は1000万円です。店の月商は30万~40万円で、普通に考えたら、返せるわけがないんです。それでも返せたのは、我々の人件費がゼロだったから。あとは光熱費だけですから、少しずつ返せるようになって、それで完済してようやく休みを取れるという時期と、2号店を考える時期が、ちょうど重なりました。
無休で借金の返済に邁進した5年間
大学で学んだのは経営学ではなくて薬学ですから、お金を借りることにとても抵抗がありました。開業のため、やむなく借りましたから、とにかく返すことだけを考えていました。この時期以降、スギ薬局は一度も借金をしていません。
ですから、うちの財務の仕事は、どの銀行にお金を預けるかくらいになっています(笑)。今、経営の中心には長男(杉浦克典スギ薬局社長)と次男(杉浦伸哉スギ薬局常務)がいますが、彼らに借入金や利息の返済の苦労はありません。
裏を返せば、借り入れが必要になったときに改めて勉強し直さないといけないということですが、借金を返して以降は、財務に気を取られることなく、事業に没頭できました。
お金を借りて出店し、会社を大きくするというスタイルでやってきたら、もっと早く成長できたでしょう。でもうちはそういう無理はせず、できる範囲での努力で、年10%くらいの成長をしていきたいと考えているんです。もちろん、最初の5年間の、食うや食わずのトラウマがあるから、そうしてきたという面もあります。
2店舗目を出されるタイミングで、現在スギ薬局会長の榊原栄一氏をヘッドハントされました。
杉浦:その頃は、小さな薬局ですからなかなか人が来ないし、来てくれても育成する余裕がありません。出会いと運で、誠実な人に来てもらいたいと考えていたときに、榊原に会いました。そこには理論めいたものはありません。フィーリングです。
ビジネスパーソンに一番必要なのは誠実さ
私は榊原の家を見に行ったんですよ。そうすると、中に入らなくても、片付いていそうかとか、両親がどんな方かとか、近所の人の話で分かるでしょう。榊原の場合は、裕福とか代々の家系がということではなく、お父さん、お母さんが立派な方なんです。だから、このご両親の息子なら間違いがないと思いました。

スケールが異なりますが、松下幸之助さんも、ビジネスパーソンとして大切なのは真面目なこと、誠実であることだとおっしゃっていました。私も、根底にはこれがあると思います。もちろん、能力やスキルも必要ですが、これは後から付け加えることができます。
人材を採用する根本は誠実であることだと今も思っています。グループには中途採用の社員が今、何百人もいると思います。その採用基準は誠実さです。(後編に続く)