総合働き方と成長 両立課題 残業規制、人手不足の壁
政府は14日開いた働き方改革実現会議で、残業時間の上限を月平均60時間とする新たな規制案を示した。時間外労働規制の抜本見直しで、早ければ2019年度の施行に向けたくさんの企業が対応を迫られる。労働力が逼迫する中、企業は長時間労働是正と成長に向けた生産性向上の両立が課題になる。労働時間の規制に縛られない柔軟な働き方を可能にする改革も欠かせない。
長時間労働が大きな社会問題になっている実情を踏まえ、経済界は一定の上限規制が必要なことは認めている。日本商工会議所の三村明夫会頭は会議で「規制の導入に異論は無い」と話した。一方、大企業との力関係から無理な長時間労働を強いられている中小企業を念頭に「商慣習の見直しや取引条件の適正化をお願いしたい」と語った。
生産性が向上しない中で残業上限を強化するだけでは経済の活力をそぐ恐れがある。このため経団連などは働いた時間ではなく、仕事の成果に応じて報酬をもらう脱時間給の導入を求めている。経済同友会も14日、残業時間の上限規制は脱時間給制度の導入を前提条件にすべきだとする意見書をまとめた。
自分の裁量で仕事の時間を決められるような規制緩和は棚ざらしだ。脱時間給の導入を盛り込んだ労働基準法改正案は野党から「過労死を助長する」などと批判され、政府・与党内でも積極的に実現を図ろうとする動きは今のところ乏しい。塩崎恭久厚生労働相は「(脱時間給を盛り込んだ)労働基準法改正案は働き方改革に何ら矛盾しない。ぜひ成立を図りたい」と語るが、調整に手間取りそうだ。
現状の労働時間規制では、長時間労働が業務の特性上やむを得ないとして、建設業や運輸業が適用を除外されている。政府は一定の猶予期間を経て、これらの業種にも規制を適用したい考えだ。
各業界は対応に苦慮しそうだ。宅配便など陸運業界はトラックドライバーのなり手が減る一方、インターネット通販の荷物が増えており、1人当たりの労働時間が長くなっている。日本物流団体連合会の村上敏夫事務局長は「人手不足対策を講じないまま規制が適用されれば物流はもたなくなる」と懸念を示す。
山崎製パンは店舗や工場間の配送を自社で手掛けている。飯島延浩社長は「物流業務を委託している企業では人手不足で仕事を請け負えないとの話もある。規制でますます仕事が頼めなくなれば、利益が減っても自社で対応しなければならない」と話す。
建設業界も不安を抱える。大手ゼネコン幹部は「総労働時間を減らすためには生産性を高める必要があるが、日給制が多い現場職人は休みが増えると収入が減り生活に直結する。処遇改善も同時に進める必要があり悩ましい」と吐露する。
長時間労働の上限規制を先取りして動く企業もある。日本電産は20年に国内従業員約1万人の残業時間をゼロにする目標を掲げた。工場やオフィスの生産性を上げるため、同年までにロボットやソフトウエアなどに1000億円を投資する考えだ。
パナソニックは津賀一宏社長が国内全従業員約10万人に対し、「勤務時間を原則午後8時までとする」と通知。2月から各職場での徹底を始めた。
厚労省の13年の調査によると、1カ月60時間超の特別条項付き36協定を結んでいる事業所は全体の16%に上る。うち80時間超は約5%、100時間超は1%超ある。特別条項は大企業の6割が締結しており、多くの企業が何らかの対応を迫られる見通し。
労使で一定の「みなし労働時間」を定める裁量労働制でも、このみなし時間に月60時間の上限がかかる見込みだ。裁量労働制は研究開発や情報処理システムの設計など専門性が高い職種のほか、企業で事業の企画立案に携わる業務に従事する人が対象だ。適用労働者は1%超とみられる。