「スカウトでアルバイト採用」は定着するか 人手不足でも「採用弱者」が負けない方法

アルバイト・パート「スカウトでアルバイト採用」は定着するか 人手不足でも「採用弱者」が負けない方法

人手不足が深刻となってきている中で、企業が自ら積極的に求める人材を探し出し、直接アプローチして採用活動を行う、いわゆる「ダイレクトリクルーティング」が定着しつつある。主に新卒・転職市場で用いられていたが、ついにアルバイトの領域にもその手法が本格的に拡大している。人材採用のウェブサービスを展開するビズリーチは、1月31日、GPS機能を活用した「地図」で仕事が探せるアプリ「スタンバイ」で、「スカウト」機能をリリースした。

一般的に「スカウト」というと、専門性の高いスキルを持った人材に対して行うもの、というイメージが強いだろう。アルバイトという業務形態に、スカウトという手法がはたして効果的なのか、という疑問の声もあるかもしれない。しかし、ビズリーチの竹内真取締役兼CPO(chief product Officer)は「アルバイトの求職者は、それぞれの境遇が違い、働く場所や時間帯、職務内容に対するこだわりは多種多様であることが特徴。だからこそ、コミュニケーションの機会をつくることが重要になる」と指摘する。

完全な売り手市場に変化した

詳述する前に、まず人材市場の深刻な現状を見ておこう。「企業からの求人数を、ハローワークに登録している求職者で割った値」である有効求人倍率は、2011年の時点で平均0.68倍だったが、毎年右肩上がりに上昇。2017年1月31日に厚生労働省が発表した2016年の有効求人倍率は平均で1.36倍となり、完全に売り手市場へと変わった。

企業も、この状況を肌身で感じているようだ。財務省財務局が全国の企業、計1336社に行ったヒアリング調査によると、「人手不足感がある」と回答したのは全体の63.2%。その理由として、「新しい従業員が採用できないこと」を挙げる企業は65%程度に上る (2016年「人手不足の現状及びその対応策」について)。15〜64歳の生産年齢人口の減少に伴い、新規人材の獲得は困難になる一方だ。

正社員だけでなく、アルバイト・パートの人手不足も厳しい。特に飲食や小売りでその傾向が顕著で、人手不足が業務の縮小を招く例も増えている。2016年12月にはファミリーレストランの「ガスト」や「ジョナサン」を展開するすかいらーくが、深夜営業を大幅に縮小すると発表したことは、記憶に新しい。

ビズリーチの「スタンバイ」は、全業種・全職種・全雇用形態を対象にしているため、アルバイトについても事業者が能動的に採用活動を行うことができる。

アルバイトの求職者は、求人情報の中から条件に合うものを自分で探して応募することが一般的だったが、この機能では求職者が簡単なプロフィールと「やってみたい仕事内容」などを登録すると、逆に事業者側からメッセージでスカウトが届き、その後すぐに条件の詳細などについてやり取りを開始できる仕組みになっている。

一方的な求人広告は情報が少なすぎる

「通常の求人広告では、条件について一般的な事柄しか書いてないことが多い。しかし、人手不足を解消するため、採用することが最重要課題であるなら、アルバイト・パートの情報を『見える化』したうえで事業者側も積極的にアプローチできるようにして、お互いに交渉できる余地をつくるほうが効率のいいマッチングが可能になる」(竹内氏)

浅いコミュニケーションから始めてしまった方が、お互い効率がいい

働く条件に制限が多い立場の筆頭は、子どもを抱える主婦だろう。日本の非労働力人口における就業希望者は、2013年平均で428万人。そのうち女性は約315万人と、およそ4分の3を占めている。また、主婦が働けない理由として「適当な仕事がありそうにない」と回答した人は97万人にも上り、最多の「出産・育児のため」(105万人)とほぼ変わらない(総務省 2015年「我が国の労働力人口における課題」)。「健康上の理由」(38万人)や「介護・看護のため」(16万人)よりはるかに多い。女性の働く意欲があっても、就業に結び付いていないことが実態だ。

しかし、社会人経験もあるため学生と比べて教育コストが低く済むうえ、シニアと比べて体力もある主婦は、最近ではアルバイト人材としての期待が大きく高まっている。

ビズリーチが行った事業者向けのアンケート(回答数107)でも、「パート・アルバイトを探す際、特にどのような方からの応募を希望するか」の問いには「主婦」と答えた企業・店舗が最も多く、31%となっており、「アルバイトのプロ」であるフリーターの29%を上回りトップ。「仕事内容や求めるスキルに合致していそうか」「特にまじめに働いてくれそうか」という質問項目においても、学生やシニア、外国人に大きな差をつけている。

ところが、求人票の多くは、詳細について「応相談」などとあいまいになっていることも少なくない。こうした情報の具体性のなさが、主婦の求職者からすると応募への壁になっている。限られた条件の中で仕事を探している応募者にこそ、事業者が直接アプローチして状況を把握してしまったほうが、結果として効率的なマッチングにつながる可能性は高いといえるだろう。

いわゆる専門職や幹部候補のような高度人材以外の人に対しても「スカウト」という形で事業者からアプローチが来る文化が根付くことは、「働くこと」のイメージにも大きな影響を与えるのではないだろうか。

これまでは、一般的な求職者は「選考を受けて事業者主体で選ばれる」という選択肢しかなかった。人手不足で確実に求職者の立場が強くなっているのに、それに気づいていない人はまだ多い。待っていても相手から求められるという状況が可視化されれば、労働市場の自由競争化を後押しすることになるだろう。

「ブラックバイト」の解消にもつながるか

また、主婦に限らず、学生が巻き込まれやすい、条件が劣悪ないわゆる「ブラックバイト」の解消にもつながる可能性がある。竹内氏は、「問題だと思うのは、一度決めたらここで働かないといけないという思い込みを持っている人が多いこと。今働いている職場も、100個の選択肢のうちの1個であれば思考の幅も広がる」と話す。

「人間が追い込まれるのは、選択肢や可能性がなくなった瞬間。『スカウト』機能によってコミュニケーションが起きれば、採用マーケットにおいて人材の流動性が高まる。そうすると、企業をさらに『employee satisfaction(従業員満足度)』の改善に向かわせることになるのではないか。この点がうまくいかないとビジネス自体が成り立たない、という環境ができれば良いと思う」(同)

2019年末までに、求職者向けの「スタンバイ」はアプリのみで100万ユーザー、事業者向けの「スタンバイ・カンパニー」では導入数20万を目指すという。「採用弱者」といわれる地方の中小企業などは、これまで求職者にアプローチするすべがなかったが、事業者にとっても選択肢が広がることになるだろう。

ただ、中小企業の多くは採用ノウハウに乏しく、能動的にアプローチする機能を使いこなせるかは課題が残る。積極的に応募してくる人から選ぶほうが効率がよいと考える事業者も少なくないため、こうした意識を変えられるかが、サービス成長の肝になりそうだ。