就職市場に新展開、東北で始まる「地元志向」 新人育成に熱意ある地域の企業が狙い目だ

総合就職市場に新展開、東北で始まる「地元志向」 新人育成に熱意ある地域の企業が狙い目だ

「どこに就職するか」という問いに対しては、2つのテーマが隠れています。1つは「どの業種・どの会社に就職するか」、もう1つは「どの地域で就職するか」です。

特に、生まれ育った地元を離れて大学に通う学生の皆さんにとっては、地元に帰るのか、大学のある地域で就職活動をするのか、あるいは別の地域を選択肢に入れるのか、悩ましいところでしょう。また、将来の生き方を考えるうえで、都市部出身の学生の中にも、地方での就職に興味がある人もいることと思います。

もちろん、地域密着で活動する企業にとっても、学生の動きは気になるところ。そこで、北海道や東北地方など東日本エリアの企業と大学に就職支援活動を行っている立場から、今、地方の就職・採用の現場でどんなことが起きているのかを紹介しましょう。

大学進学で7~8割が県外に出ていく

生活拠点を地元に置くか、地元以外にするかという選択は、すでに大学進学時点で一度行われています。地元の高校から地元(同一都道府県内)の大学への進学は、東京など大都市に近いエリアほど低い。たとえば長野県の場合、県内の大学への進学(17%)よりも、東京の大学への進学(24%)が大きく上回っています。茨城県は地元が19%、東京が34%。そのほか、大都市圏の周辺地域では、大学進学時点での転出は7~8割という地域が多く、地方の活力を左右する課題となっています。

若年層の転出入は、東京一極集中のように思われがちですが、東日本全体を見ると、もう1つの側面が見えてきます。都市への集中がもう少し小さなエリア単位でも起きているのです。北海道内では、函館や小樽、旭川などから札幌への進学が集中し、東北6県では、宮城県の仙台に人が集まります。山形県の場合、県内進学は20%、宮城県への進学が19.5%。同様に岩手県は県内進学が26%、宮城県18%です。

進学だけでなく就職先も、北海道であれば札幌に、東北6県であれば仙台に集中しているのが現状です。全国から見た東京への一極集中だけでなく、さらに地方での地方中核都市への一極集中がある。地元企業や地域行政にとっては二重構造の若者の転出です。

人口減少に早くから直面してきた東北は、ある意味では、日本の社会問題が凝縮し、先取りしているエリア。しかし、だからこそ、いち早い取り組みが始まっています。

たとえばこんなケースがあります。宮城県石巻市で自動車のトータルサポート(販売、修理・整備、車検、板金塗装など)を行う、有限会社山内自動車の2代目経営者の山内正さん。9人の社員とともに東日本大震災以降も堅実に事業を行ってきました。これまで採用は専門学校を通じて募集する専門技能職だけでした。

しかし、大震災の影響もあってこのままでは新たな雇用が生みだせない、経営を考えられる人をきちんと育てたいと、2016年度生から大卒の新卒採用を始めたのです。石巻は、地理的に東北での一極集中都市・仙台に近く、求人活動では苦戦しかねない地域でありながら、無事内定者を2名出し、すでに学生たちの承諾も得ています。2名とも東北出身ではあるものの、石巻は地元ではなく、新たな転入者を生みだしたのです。

いまだ大変な状況が続く石巻で、人を育て地域活性に微力でも尽くしたいという経営者の思いと、大きな会社に入るよりも、育てたいと言ってくれる経営者のもとでいろいろ体験し、学び、成長したいと考えた学生の思いが合致した結果です。

経営者たちがタッグを組んだ

個人の奮闘だけではありません。宮城県気仙沼市では、地元企業11社が連携して採用と育成活動を展開し、2017年4月入社では11人の新卒採用を決めています。このうち2名は気仙沼出身者ですが、ほか9名は気仙沼以外からのいわゆるIターン就職です。

11社の顔触れは、創業170年の漁具販売店、冠婚葬祭企業、鉄工所などさまざまですが、経営者自らも参加して合同勉強会を開催し、精力的に情報交換を行っています。

たとえば、A社が「社長や役員が東京に出張したときには、東京在住の応募者にコンタクトをとって会うようにした。個別対応をすることで、話をする機会が増えた」と報告すれば、さっそく同様の取り組みを行ってみる。B社からは「地域外からの新卒者には、住まい探しもケアした」と聞けば、その内容を情報共有し、自社のやり方に合わせてアレンジするなど、具体的で多くの地方企業が得意とする細やかな内容です。

さらに11名の採用者に対する新卒研修は、各社独自のものだけでなく、共同で運営。研修を通じて、地元出身でない学生も、企業を超えた同期のネットワークがつくれます。受け入れ側の先輩社員やマネジメント側への研修も合同で行うなど、地域を挙げて採用活動を行っています。

ともすると採用活動での競合もありうる企業同士ですが、一緒に取り組むことで、相乗効果を生んだり、学生へのPRの機会を増やしたりするなどの効果も期待できます。

紹介したのは気仙沼の事例ですが、「地域にどう人を集めるか」という問題意識を共有し、地域で企業同士あるいは行政とも連携を取って採用をする動きは、他エリアにも広がっています。採用数が多くはないため、新卒市場全体から見ると大きな数字となって表れてくることはまだありませんが、地域ぐるみの採用は今後も広がっていくと思われます。

東北7大学が連携、相互にエントリーも

大学側の取り組みも、これまで以上に踏み込んだものになってきています。地域の若手社員を募って、面談や座談会などフェース・トゥ・フェースで情報に触れる機会を作ったり、県内企業や工場見学のバスツアーを組んだりしています。地元の企業を招いて行う企業研究講座なども増えているというのが実感です。

またインターンシップでの大学間連携は全国各地で始まっています。東北では、岩手県立大学が主幹となって、東北地方の7大学が連携し、連携大学に所属する学生は相互にエントリーできる仕組み。例を挙げると、岩手県出身で現在山形大学に通っている学生が、普段通っている山形大学を通じて、岩手県の企業のインターンシップにエントリーすることができるというものです。

文部科学省は2015年度から「知(地)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」をスタートしました。「大学が地方公共団体や企業などと協働して、学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに、その地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を断行する大学の取り組みを支援することで、地方創生の中心となる“ひと”の地方への集積を目的」として位置付けられているものです。

この補助事業を利用して、今後はさらに、大学と地元企業との連携の充実が各地で予想されます。企業と接続しながらフィールドワークを通じて地域の課題を学ぶカリキュラムや、長期実践型のインターンシップの強化充実などの取り組みも始まっています。

さまざまな働き方を知ったうえで選ぶべき

こうした大学の支援や、地元企業の熱心な採用の背景にある思いは、実は共通しているのではないかと思っています。学生の皆さんには、地方にも企業があり、働く場があること、地方で暮らすという働き方もあることを知ったうえで、自分にとってよりよい働く場を選択してほしいという思いです。

私自身の経験で言えば、転勤で北海道に行ったことで、地域密着で圧倒的な強さをもつコンビニの店舗づくり、物流の仕組みづくりのレベルの高さを目の当たりにしました。食品メーカーの開発力やマーケティング力も身近に触れてわかったことです。行ってみることで地域を知り、やってみたいテーマがみつかり、自分に任される領域が広がることで、貢献や成長を実感できるという機会も得られました。

今、学生の皆さんにとって、インターンシップや見学会、先輩との座談会など、企業を知る機会は格段に増えています。行って参加してみること、自分の目で見ることで、内省するだけでは気づけなかった発見があったり、考え方や見方に幅が生まれたりします。よく知り、納得したうえでの選択は、仕事への意欲やその後の定着にもつながります。せっかくの機会を利用して就活をしてほしいと思います。