ブラックバイト問題の語られない意外な真実 むしろシワ寄せは店長や社員にいっている

総合ブラックバイト問題の語られない意外な真実 むしろシワ寄せは店長や社員にいっている

若者を使い潰す「ブラックバイト」は、今、そこにある問題だ。私は大学教員として学生がアルバイトに振り回されていることが気になっている。もちろん、経済的に豊かではなく、奨学金やアルバイトに頼らなければ学生生活が成立しない学生が一定数存在する。「ブラックバイト」はそんな学生につけこみ、強引なシフト編成、サービス残業の強要などを行っている。

これまで「ブラックバイト」に苦しむ学生の様子は何度もメディアで取り上げられてきたが、アルバイトを募集し、雇う側の論理が紹介されることはまれだった。リクルートグループで『FromA』『タウンワーク』『とらばーゆ』『ガテン』など数々の求人メディア編集長を歴任してきたツナグ・ソリューションズの取締役、平賀充記氏のインタビューをお届けする。平賀氏はツナグ働き方研究所の所長でもあり、2016年10月に著書『非正規って言うな!』(クロスメディア・パブリッシング)をリリースした。
日本のアルバイトの現場で何が起きているのか?アルバイトに希望はあるのか?

バイト先の社員がむしろブラック労働に苦しんでいる

常見陽平(以下、常見):ご著書の『非正規って言うな!』は大変貴重な本だと思います。アルバイトを30年近くに渡って追い続けてきた平賀さんでしか書けない本です。今日はアルバイトの現場で起きていることを教えてください。

平賀:2016年は電通の自死事件が明るみに出ました。アルバイトの現場でも長時間労働や、まさにブラックバイトと言われるような状況が起こっているのかと思い、アンケート調査を行いました。

ざっくり言うとアルバイトをしている人は大体月間で98時間くらい働きたいと言っています。時給1000円だとして月間9万〜10万円。そのくらいが理想のようです。で、実際働いているのが91時間なんですよ。希望よりたくさん働かされているかと思いきや、全体でみるとほぼトントン、ないしは、やや少なめくらいの仕事量。これは意外でした。

全体的にはブラックではないけど、局地的にブラックな状況がある、これがリアルのようです

また、どのくらい残業をしているのか、「もっとシフトに入って」と言われるのか、という質問では、約半数が残業も超過シフトもない、あっても月に2~3回までという回答が7割を占めました。定量的にみると、アルバイターの労働時間はそんなに過酷ではないという印象です。

「働きすぎだと思うか?」という問いについても、Yesと答えている人は29%にすぎません。アルバイターは全体的には、そんなにブラックではないんですよね。

ただ、過重労働によって「辞めたいと思い、言ったけれども辞めさせてもらえなかった」という人も、事実3%はいるんですね。そして、「辞めたいと言っても辞めさせてもらえなさそう」と言っている人も14%くらいいるんです。全体的にはブラックではないけど、局地的にブラックな状況がある、これがリアルのようです。

昨日もマクドナルドでアルバイトしている男の子と話をしていたら、シフトは今、かっちりと決められていて、8時間以上働くのは絶対ダメなんだと言うのです。例えば、3時間のシフトで入った時に、あと2時間くらい残ってほしいということは結構あるようです。しかし、最長は8時間というように決められていると。やはりアルバイトはそんなにブラックにはなってないんです。

一方で、先日、ある飲食店の店長さんにインタビューをしたのですが、この人は「9時に出勤そして23時まで働いています」と言うのです。そして「やっと最近週に1回は休めるようになりました」と。ざっと計算すると、200時間くらい残業をしているんですね。

「採用氷河期」のただ中で

常見:そういうことなんですね。9時から23時まで、しかもデスクワークではなくずっと立ちっぱなしで、お客さんやスタッフに気を遣いながら……。

平賀:そうですね。負のしわ寄せが店長さんや数少ない社員さんにいっている感じがするんですよね。

常見:今、ブラックバイトが社会問題化しています。一方、これだけブラックバイトが騒がれると、お店の側もケアをする、と。求人状況を見ると、今は雇用形態を問わず売り手市場です。しかも、若年層は減っていく。「採用氷河期」です。アルバイター争奪戦のなか、労働環境を改善せざるを得ないはずなんです。

平賀:そうなんです。経営者からは現場に対して「ちょっとアルバイトのシフト入れすぎてない?」「もうちょっと少ない人数でも回せるんじゃないの?」という要望もあるようです。アルバイトの労働環境は改善されつつあるようですが、しわ寄せが店長、社員にいっている感があります。

常見:よくあるブラックバイト報道とは違う世界が広がっているという。

平賀:ご存じの方も多いかと思いますが、コンビニエンスストアでも同様の問題が起きています。アルバイトを採用できず、オーナーが泣く泣く夜に出勤するわけなのですが、一方で、アルバイト人件費はかからないので利益率が高まる。オーナーは自分の身体を酷使するけれど儲かるから、まあ、いいかと。

アルバイトがブラック化しにくい構造って、アルバイトに無理をさせるより店長が無理をした方が利益は出るということも大きく影響しているんでしょうね。先程紹介した店長さんも、アルバイトのシフトを組めない際は、自分がちょっと頑張れば、なんとか回って、お店の成績も上がるので「しんどいなぁ」と思いつつも「まあ、いいか」となってしまうと言っていました。

アルバイトを採れる職場はこんな努力をしている

「採れる会社」と「そうじゃない会社」の差はどこから生まれるのでしょう?

常見:「採れる会社」と「そうじゃない会社」の差がついていく時代です。答えの一つは「若者から支持される職場」なんですよね。

平賀:アルバイトの場合「時間の融通」と「通いやすさ」というのが選択基準の二大テッパンです。むしろ時給よりもその二つ。ただ、アルバイトの人気ランキングでは、コンビニの人気が下がっているんですよ。でも、「時間の融通」と「通いやすさ」という二大テッパン要素がコンビニにはあるじゃないですか。逆にスターバックスがグンと上がっています。

常見:面白い。コンビニって変な話、家の前にもあるわけで、便利な場所にあるからコンビニで、いちばんバイトしやすいはずなのに、低くなっていると。スタバって、基本、お洒落な場所にあるので数駅移動しないといけないはずでしょう。

平賀:全体感としては、アルバイトのトレンドでは、ちょっとキラキラ系ブランドに寄っていて、その要素を付加しないと、なかなか採用強者にはなれないということがあると思うんですよね。「就活に有利」といううわさからスタバでのバイトを考える子も多いですし……。

もっとも、情報伝播のスピード差があって、スタバ人気もどうなるか分かりません。「私スタバでバイトしています的な意識高い系が嫌で、スタバではアルバイトしたくない」という人も出始めているようですし。

常見:ご著書の中で印象的だったのが、アルバイトの応募で電話が復活しているという話です。ネットの時代なのに、応募は電話なのですね。でも、スマホで検索してそのまま電話ボタンが出てきますから言われてみると、合理的です。

平賀:長期間続けられる先を探している場合は、自分から電話をして、向こうの声色を聞いたりするようです。電話の対応でスクリーニングしているんですね。昔、店舗の採用担当者は、面倒くさいけれども電話の応募が良いと言っていたんですよ。電話を掛けてきた時の雰囲気で、その応募者が合うか合わないかがその場で決められると言うんですよ。逆に採用氷河期の今は、応募する側も店長の対応などを聞いて、働くかどうかの判断しているんですよね。

常見:電話はプリミティブですが、ミスマッチ解消につながる、と。

平賀:リアルタイムですしね。3回掛けてもつながらないと、もう見切るらしいんですよ。このスピード感が今っぽい。ウェブで応募すると、「待ち」の状態に入ってしまい、「いつ面接の連絡が来るかな」という、その時間が面倒くさいみたいですね。アルバイトの場合、新卒のように複数社にエントリーというものではなくて、一社しか応募しなくて、そこでダメなら次に応募となるので、リアルタイムに確認できる電話のほうがいいみたいです。

面接の時間もポイントです。私は「面接の時間を1時間とってください」とこの本で書きました。でも先程のような9時から23時まで働いているすごく忙しい店長さんからしたら、正直あり得ないのですね。実際どれくらい時間をかけますかと聞くと、だいたいみなさん15分とおっしゃるんですよ。でも15分だと雑な見極めしかできません。

常見:面接は裁判ではないですからね。実はプチ会社説明会的な要素もあります。求職者に面接されているのですね、実は。単に見極めだけでなく、動機づけをするという意味もあるのに。

僕が新卒採用のコンサルをメインの仕事にしていた頃、やはり面接が下手な企業は採れない状態にあって。採れない企業は①全員と会え②面接官のトレーニングをしろ③可能なかぎり面接にかける時間を増やせ――と伝えていました。

平賀:当社では、チェーン店の採用のお手伝いをしていまして。100店舗くらいあるチェーン店の内の、1店舗1店舗の採用率をチェックしてみると、明確に傾向が出てくるんですよ。面接官の腕前と、スクリーニングの仕方の問題です。「どれだけ落とすんだ」という店舗も中にはあります(苦笑)。

常見:可能性にかけて欲しいし、求職者の良いところを引き出して欲しいですね。求職者視点で言うと、バイト先を見極めるポイントで「面接時間にちゃんと15分以上とる職場かどうか」というのは、ありますよね。「面接15分の法則」と名付けましょう。

平賀:絶対そうですね。ある店長さんも、オープニング店舗の募集だったため、15分面接でとにかく20人そろえたのですが、3カ月経って残ったのは3人でしたという。

常見陽平(以下、常見):アルバイトの採用に絡んで面接以外にも大事なポイントはありますか?

平賀充記(以下、平賀):「初日のケア」です。これを失敗すると、間違いなく1週間たたないうちにどんどん辞めていきます。「ここに居場所がありそう」と感じてもらうことが大切です。だから、まずは名前を覚え、名札を用意する。いろいろ連れ回して皆に紹介とか、メンターの先輩を必ずつけるとか。ロッカーを用意しているかどうかというような細やかな受け入れ準備も大事です。

常見:御著書で面白かったのは、「バイトのなかでの良いコミュニケーションのカタチ」という項目です。若者は意外にタメ語でのコミュニケーションを支持していないことが印象的でした。

今どきの若者が稼げるバイトは塾講師と飲食

平賀:ちゃんと丁寧に扱ってねという。

常見:ちょっと下世話な興味なのですが……。今どき、怪しい系とかピンク系、グレー系ではなく若者が稼げるバイトは何ですかね?

平賀:塾講師と飲食ですね。

常見:もっとも、前者は中には事前準備や採点などの業務に給与が支払われないというトラブルがブラックバイト問題で話題になったりもしますが。

平賀:はい。でも時給自体は高いです。1500円くらいですかね。

常見:飲食も上がっていますね。

平賀:インテリジェンスさんの調べによると、9月の平均時給が1000円を超えたというニュースがありました。もはや「時給4桁時代」です。

常見:家庭教師などもやはり高いのでしょうか?

平賀:高いですが、実はその領域はプロ化が進んでいるのですね。今は学生の家庭教師等に来てもらっても、問題が解けなかったりすると、ため息をつくらしいんですよ。

常見:おお! でもプロの人は、学力や学習姿勢に問題がある人の対応もうまいし、モチベーションの上げ方もうまい、と。

平賀:それが抜群にうまいんですよね。プロ講師ということで、しっかり稼いでいらっしゃるミドル層の方とかいますよね。講師のレベルによって明確に金額が違っていますし。

逆に正社員に置き換わっている領域もある

常見:今、大事な論点が出たと思います。もともと非正規雇用に関しては、正社員が担当していた仕事を単価が安いという理由で置き換えていった流れがありますよね。わかりやすいのがサービス業です。一方、逆に正社員に置き換わっている領域もある、と。人材の確保という意味で、正社員化を進める企業もありますし。

平賀:そのあたりが混沌としていますね。

常見:優れた人材マネジメントを行っているアルバイト先はどこですかね?できれば社名を出して欲しいのですが。

平賀:「塚田農場」の「APカンパニー」さんですね。

常見:テスト期間は他店舗から応援を頼むなどシフトへの配慮が手厚いですし、なんとアルバイトしている学生の就職支援までするのですよね。モチベーションが上がる仕掛けもいっぱいだという。

平賀:あと、これはウチのお客さんでもあるのですが、「リゴレット」っていうレストランを展開している「HUGE」さんも。グローバルダイニングから独立した方たちが起ち上げ、現在15店舗くらいあります。「店舗主義」というものをすごく徹底していて、メニューもお店で決めてよくて。ロゴもお店によって違うんですよ。店長に権限を与えていて、ファミリーっぽい職場になっているんですよね。

お給料を決める時とかも、「僕の時給はいくらでお願いします」って自分で自己申告して、周りの人が「君はいくらがいいんじゃないの」とか。あとは鳥貴族さんですね。ここはバディ・システムというのを導入しています。先輩が新人の見守り役となる仕組みで、アルバイトのケアに熱心です。

「フリーター」という言葉ができたのが1987年でした

常見:日本のアルバイトのターニングポイントはいつでしたかね?

平賀:ターニングポイントは、まさに30年前、1986年ですよね。

常見:「フリーター」という言葉ができたのが1987年ですよね。当初の定義は、「既成概念を打ち破る新自由人種。敷かれたレールの上をそのまま走ることを拒否し、いつまでも夢を持ち続け、社会を遊泳する究極の仕事人」でした。

平賀:そもそも学生のアルバイトって学生運動絡みのところもあったのです。その活動資金集めみたいな。そこから学生のアルバイトは広まっていった。そして、主婦パート。この二つの文脈だったんです。そこに、第三の文脈としてフリーターという存在が入ってきたという。そういう流れだったのです。

常見:なるほど。

平賀:当初のフリーターは「働き方」ではなく「生き方」でした。そういうこともあり、アルバイト情報誌の『FromA』は、求人広告以外の編集記事は実は、「働き方」や「仕事探しのノウハウ」みたいな特集はあまり組んでおらず、ライフスタイルの記事が中心だったのですね。

常見:これからのアルバイトの話をしましょう。

平賀:よりアルバイト市場全体がモザイク化していきますね。働く時間の短期化は進んでいきます。長時間労働が社会の問題になっていますが、アルバイトにおいては、人手不足の中、短い時間でも働くことができる条件で採用を成功させようという動きが出てきています。また学生のアルバイトに関してはインターンシップとの相互作用が起こると見ています。学生さんにインターンシップって人気ですよね?

インターンシップの利点と問題点

常見:はい。就活スケジュールの変更に伴い、インターンシップが採用手段として注目されていることもあるのですが、社会を知る場、人脈を構築する場としても人気です。

平賀:今後は、「飲食でアルバイトするより、企業インターン行ったほうが役に立つよね」ということで、インターンシップにシフトする学生は多くなると思うのです。

常見:もっとも、ブラックバイト同様にインターンシップも問題を抱えています。そもそもインターンシップとは何か、と。セミナーのような内容のものがそう呼ばれていたりします。労働問題で言うならば、タダ働きや、不当に安く働かせることを合法化しているかのような部分もある。ベンチャーでの長期インターンシップは違法労働の温床となっていたりもします。むしろ、アルバイトだと言ってくれたほうが、賃金を支払わなければならないものとなり、わかりやすいと思います。

平賀:インターンシップというより企業でのアルバイトという感じがいいんだと思います。昔もリクルートはたくさんの学生アルバイトを使っていましたよね。そこからバンバン新卒を入れていたじゃないですか。学生アルバイトが、サービス業だけではなくて、一般の企業から注目されるようになると思うのです。もちろん新卒採用目的で。インターンシップとの線引きが難しいですが。

常見:確かに、そこで社員登用があると学生にとっては嬉しいですよね。大手企業が学生のアルバイトを受け入れるようになると、社会は変わるのではないかと思います。それこそ、総合商社のオフィスで学生がアシスタントのアルバイトをしているという。経団連企業が学生のアルバイトを増やせば、世の中変わると思います。もっとも、青田買いじゃないかという批判はあるでしょうけど。

平賀:企業の新卒リクルーティングの柱になっていくのではないかと。

常見:本日はありがとうございました!

インタビューを通じて感じたのは、アルバイトの現場も日々変化しており、雇う側も模索を続けているということである。家庭教師など、一部の職種の「プロ化」という話も興味深かった。
大企業がアルバイトから採用するという流れは賛否を呼ぶだろうが、インターンシップにお金が払われないという問題を解消する上でも、ミスマッチを防ぐ上でも一考に値するだろう。