総合「週休2日がベスト」なんて誰が決めた? ヤフーが挑む働き方改革
IT大手のヤフー株式会社が打ち出した「週休3日制」が話題になっている。同社は2016年10月に、東京本社を「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京都千代田区)に移転。そのタイミングと合わせ、全館フリーアドレス制度やオフィス以外のどんな場所でも勤務を行うことができる「どこでもオフィス」の拡大、週休3日制の検討など、積極的な働き方改革を推進している印象だ。
ヤフーが次々とこうした働き方の改革を打ち出す狙いは、どこにあるのか? 同社ピープル・デベロップメント戦略本部の湯川高康本部長に話を伺った。
新オフィス移転とともに打ち出した働き方改革
— 湯川さんが所属されておられる「ピープル・デベロップメント戦略本部」というのはあまり耳慣れない部署名ですね。これも働き方を変える新しい部署になるのでしょうか。
湯川:ピープル・デベロップメント戦略本部自体は、実は何年も前から存在していました。従業員の就業体系の構築、オフィスの構築など、従業員を単なるリソースではない「人財」として考えていく部署です。加えて、デベロップメントつまり「発達」という意味合いも重視しています。
発達とはつまり、成長していくという意味です。人は死ぬまで成長を続ける。そんな風に考えています。
— 先日打ち出した週休3日制の検討が、大きな話題となっています。湯川さんの下にも、反響は届いていますか?
湯川:おかげさまで多くの反響を頂戴しております。今回のような取材も含め、新オフィス移転と働き方について両方のテーマでお話をいただくことが多いですね。
新オフィス移転は、そもそも「働き方自体を変える」ことが大きな目的でした。
「単なる場所の移動ではつまらない」オフィスが変わると同時、働き方自体も変えていきたいと考えています。
週休3日制に関しては、現在の仕事をする中で、そもそも週休2日制を誰が最終型と決めたんだっけ? もっと効率的な働き方はあるんじゃないの? という疑問がありました。
十数年前まで、日本は週休1日でした。それが週休1.5日になり、やがて週休2日制が定着していった。都心にいると、そういう流れがあるように見えます。でも、日本全体の企業で見ると実はこの週休2日制すら50パーセントを超えたか超えていないかの定着率しかないそうです。
— えっ、週休2日制すらまだ半分近くの企業にしか普及していないんですか!
湯川:そうなんです。週休2日制を導入したのは、松下幸之助さんの率いた松下電器産業さんです。ちょうど50年前のことでした。やっと半世紀経って普及率が50パーセントを超えた程度しかない。週休2日制を普及させることすら大変だし時間がかかっているわけです。
とはいえ、この10~20年でIT、AI等がどんどん発達し、世の中便利になってきたりしているわけで、21世紀の労働生産性はもっと上げられるはずです。
そうすると、なおさら週2日の休みが最終型である必要はなくなってきます。
目的は、週休3日ではなくワークライフバランスの実現
湯川:従業員の幸せを考えた時、長い時間会社で働き続けることは幸せなのでしょうか。自分の時間、家族の時間、働く時間のトータルバランスが取れている状態が総合的な幸福度を高めるのではないかと思います。そうしたワークライフバランスを実現するには、生産性を上げること。残業ありきではなく定時勤務になるよう進めて行きたいですし、週休3日まで発展させていいのではないかと考えました。
— 主な目的は、ワークライフバランスの実現であり、週休3日の導入はその手段に過ぎないと。
湯川:そうですね、ただしくは、週休3日制の実現をゴールにしているわけではありません。従業員一人ひとりがどうやって生産性を高めていくのか? 週休3日制よりも良い働き方があり、そのほうがより豊かな人生を送れるならそちらを選択します。この発表を通じ、世の中に対して「今の労働時間ってどうなの?」とあえて問うたところがあります。
— 「賃金を下げる目的では」といった邪推も一部で聞かれました。
湯川:もちろん、そうした目的ではありません。賃金を下げるどころか、労働生産性が上がった結果を何がしか還元したいと思っています。会社だけおいしい思いをするのは違う。そのためには、労働時間の減少と、生産性の向上。週休3日制を導入して成功させるためには、この両立が必要不可欠だと考えています。
「残業を減らせ」ではなく「生産性を上げよう」を選んだ理由

— 週休3日制を導入した場合、3日目の休みは金曜日になるイメージでしょうか?
湯川:そのあたりはまだ検討中ですが、「選択肢を増やしたい」という思いがあります。例えば、育児や介護など家庭の事情で出勤日を減らして週休3日にしたいというニーズが出てくることは十分考えられます。実際に、そういう取り組みをしている企業もあるはずです。
逆に、バリバリ働きたいという方は思い切り働いてもらうというのも選択肢です。もちろん、法定休日として1日は休まないといけないので、法令違反にならない範囲でのことですが。
— 単に「残業時間をを減らせ」ではなく、「生産性を上げよう」ということですよね。
湯川:今は電車の中でも労働できる時代です。今後は、この境目がどんどん曖昧になってきていて、労働時間で測るのも難しい時代になると思います。そのため、単に残業を減らそうと言うよりも、もっと豊かな人生を送るために、生産性を上げようと伝えたほうが、従業員一人ひとりの取り組む意識は違ってくると思います。
ただ、そうは言っても生産性を測り方は思案中です。良い提案があれば教えていただきたいです(苦笑)。
例えば、エンジニアを評価するとして大量のコードを書けるエンジニアは生産性が高いと言えるのか? そうではないですよね。よりコンパクトな良いコーディングができることが「良いエンジニア」だと思います。
これは一例に過ぎなくて、実際はアウトプットの質で測ると言っても何を持って「良い」のか、千差万別です。どの企業も頭を悩ませているところだと思います。
弊社はIT企業ですので、可能な限りデータを収集して可視化を進め、最適な方法を考えていきたいですね。
— それは、貴社の川邊健太郎氏(副社長執行役員・最高執行責任者)が仰っておられた、「データドリブンで生産性を高める」(作業はなるべくAIや機械学習に任せ、人間は人間にしかできないことに集中してもらう)ことにもつながりますか?
湯川:そうですね、生産性を高めるうえで、データドリブンで考えられる余地はたくさん残っていると思います。もちろん、「隠れ残業をやって、見た目だけ生産性を上げました」ということは望んでいません。データを駆使しながら取り組んでいきたいですね。
— 週休3日制を検討するというニュースが流れた時、社内の反響はいかがでしたか?
湯川:ざわつきましたね(笑)。もちろん社内には9月に社長の宮坂から話をしていましたが、社外リリースされたことで「これは本気だな」と。発表当時、私はいろいろな拠点を回って10月に施行された新人事制度の説明をしていました。でも、社内の関心は完全にそちら(週休3日制)に向かっていました(苦笑)。
それぐらい、社内にもインパクトは大きかったと思います。ただ、それからの様子を見ていると手放しで喜ぶ感じではなく、「どうやって実現できるんだろう」「3日も休み必要?」「給与は減るの?」とか、様々な議論が噴出しました。
「給料変わらず休み増えて嬉しい、バンザイ」といった感じではないです。良い傾向だと思いますよ。そういう形で、シンプルなルールの中で従業員一人ひとりがどうやったら最高のパフォーマンスを上げられるか考えてもらうことで、会社は「才能を解き放つ場」として機能すると思います。
東京本社を「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京都千代田区)に移転したタイミングで、週休3日制の導入検討や全館フリーアドレス制と次々に働き方改革を打ち出しているヤフー株式会社。
大きな話題を呼んだ週休3日制の導入検討について伺った前編に引き続き、後編では全館フリーアドレス制、「どこでもオフィス」(リモートワーク)制の狙いについて、同社ピープル・デベロップメント戦略本部の湯川高康本部長に話を伺った。
コミュニケーション量の増加を定量計測する試み
— 貴社は東京本社移転に合わせ、全館フリーアドレス制を導入されたそうですね。その意図は、どこにあったのでしょうか?
湯川:フリーアドレス制の導入は、まさに働き方を変える一つの大きな目玉でした。現在、ヤフーでは全館、どこのフロアで業務しても構わないという方式を取っています。
導入の意図は、まさに組織の垣根を無くすことです。今回のオフィス設計ではデスクもあえて斜めに設置し、ジグザグにしか歩けないようにしています。それによって交差点を作り、人と人がぶつかるようにしているのです。結果、コミュニケーションが生まれ、新たな気づきやイノベーションが生まれてほしい。そういうコンセプトです。
部門間の移動という面では意図通りの結果が出始めています。次は、実際に様々なコミュニケーションが生まれているかどうかを見る局面かなと思います。
— コミュニケーションが実際に生まれているかは、定量的に計測されておられるのでしょうか?
湯川:はい、これは実際に実験をしており、定量調査を行なっています。一部のフロアで交通量とコミュニケーション量の2点を調査したところ、両方の点において、ジグザグに机を配置したフリーアドレスのほうが、従来よりも約2倍に増えたという計測結果も出ています。新社屋では、一部ではなく全館で行っているので、どのように効果を測定しようかと考えているところです。
現在は、社内Wi-fiに接続していると、誰がどこにいるのかわかる社内システムがあります。この仕組みを応用すれば、「生産性が高い人、パフォーマンスの高い人はどういう動き方をしているのか」のデータを収集し、分析するということが技術的には可能。
これを実際に導入するにはまだまだ課題がありますが、生産性の高い働き方、パフォーマンスの高い働き方というのを定量的に分析することで、従業員一人ひとりの働き方をより良いものにしていきたいと考えています。
— 逆に、フリーアドレス制を導入したことで困った部分はありますか?
湯川:やっぱり、上長からすると業務管理をどうしていいか、どう評価していいかわからない部分はありますね。しかしながら、たとえ1日中目の前の席に座っていたとしても1日中ずっと見ているということはないですよね。
例えば、目の前に部下がいれば話しかけなくともわかった気になりますが、フリーアドレスだといつ捕まるかわからない。また、目の前だと仕事をしたフリができても、見えないところで仕事をする以上は説明責任が生じる。従業員一人ひとりの意識もそういうふうに変わっていくことで、労務管理や評価もしていけるのではないかと考えています。
— フリーアドレス制の問題点としてチームプレーがやりづらくなるという懸念もあるようですが、そういった部分は実際に導入されていかがですか?
湯川:むしろ、顔が見えないからこそ活発なやり取りが生まれているという側面はあると感じています。チャットツールだと、ログが残るので言った言わない問題が生じないですよね。場にいなくても記録が残るし、資料も共有しやすい。ツールをうまく使いこなすことで、生産性の高い仕事はできるはずです。
イノベーションを生むための「どこでもオフィス」

— 「自由な場所で仕事をする」というところでいえば、リモートワーク制度もすでに導入済みですね。
湯川:導入してもう2年半ぐらい経ちます。弊社では、「どこでもオフィス」と命名し、海でも山でもどこでも仕事をしていいよ、という制度にしています。もともと、この制度もフリーアドレス制と同じで、新しい気づきやサービスを生み出すきっかけになってほしいという目的でできた制度です。
社内で業務することが多いとどうしても知った人とだけ話したり、担当領域の人たちだけの会話になりがちで、インプット量が減ってきます。社外に飛び出すことで普段会えない人のところで一緒に仕事をし、刺激を受けて自分の業務に還元してほしい。そういうきっかけとして使うものであり、在宅勤務というわけではありません。
もちろん、在宅で勤務すること自体を禁じているわけではなく、あくまでイノベーションを生むための制度活用をしてほしいということですね。
— ただ、必ずしも外で仕事ができるメンバーばかりではありませんよね? 社外で行なうと問題のある業務領域の方もいらっしゃると思います。
湯川:そういう声は確かにあります。例えば給与計算をしているメンバーは、取り扱うのはセキュリティレベルが高い情報なので、社外では使えません。だからといって「どこでもオフィス」が使えないかというと、そうではないですよ。
月に1回でも2回でもいい、直接的に業務と関わりのないようなセミナーを聞きに行ったり、社外の勉強会に参加したり、自分の仕事をより良くするための刺激にするなど使い方はいろいろあると思うんです。全職種、基本的にそういうことは可能だと思います。新たな気づきの機会として活用してもらいたいですね。
— なるほど。この制度の利用実績は、どれぐらいでしょうか?
湯川:現状ですと4月~9月の上半期ではだいたい毎月4割ぐらいの従業員が利用しています。平均利用日数は、1.6日という割合ですね。これまでは月2日までという制限がありましたが、2016年10月から5日に増やしました。
5日という数字には、一部の部署で「どこでもオフィス無制限」というトライアルをした結果などを元に決めています。
目指すのは、会社と従業員が対等な関係性を持つこと。

— こうした働き方改革で、どういった未来を目指しておられますか?
湯川:目指しているのは、「会社と従業員の対等な関係性」です。
一般的に、会社は雇っている側で従業員は雇われている側、上下があると思われています。そうではなく、会社は従業員に対し少しのルールとパフォーマンスを要求し、従業員は自立的に考えパフォーマンスを達成する。その対価として金銭的報酬がある。本来、会社と従業員は対等な関係であるべきなんです。
だから会社は、一方的に働けというのではなく、働き方の多様性、選択肢を増やすことで従業員一人ひとりがより高いパフォーマンスが挙げられ、才能を解き放てる環境を用意しなければなりません。
— そうすることで、お互いにメリットを追求していくことができるわけですね。
湯川:はい。ヤフーでは会社は、従業員の才能を解き放つ舞台だと考えています。ケガをするかもしれない、モノが落ちてくるかもしれない舞台だと役者さんは思い切り踊れないわけです。だから思い切りパフォーマンスを発揮できる舞台を、会社は整える必要があると思っています。
— 選択肢が増え、その選択も従業員に委ねるとなると、ルールもいろいろと整備していく必要がありますね。
湯川:ルールでがんじがらめにすると、従業員は自分で選択しなくていいので考えなくなります。そうではなく、極力ルールはシンプルにして、その中で従業員一人ひとりがどうやったら最高のパフォーマンスを挙げられるか考えてほしいですね。
極端に言えば、一人ひとりが自立し、ちゃんと会社として成長していけるパフォーマンスを出せるのであれば、ルールはなくたっていいんです。もちろん現実には法令があり、健康問題や就業規則もあるので全くルールがないという状況はありませんが。ルールがないと働けない、というのは寂しいと思いますね。
— 従業員一人ひとりが自分の頭で考えてパフォーマンスを上げていくのは、フリーアドレスやリモートワークで狙ってらっしゃる「新しい気づき」に通じるものがありそうですね!その気づきから新しいイノベーション生まれそうでワクワクします。本日は貴重なお話をありがとうございました!


