総合100歳まで生きる時代に、働き方はどう変わる?2016年11月27日 『ワーク・シフト』『ライフシフト~100年時代の人生戦略』著者・リンダ・グラットンさん来日講演
世界的ベストセラー『ワーク・シフト』の著者でロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんがこの度、新刊『ライフシフト~100年時代の人生戦略』の発売を記念し、東京・大手町で来日講演を行いました。人材論・組織論の権威であるリンダさんによる新しい生き方、働き方の提唱に、会場を埋め尽くした参加者は熱心に耳を傾けていました。
長寿化で若々しく活動する時間が劇的に増える
戦後70年が過ぎた日本。日本人の平均寿命は約70年前は50代前半でしたが、今や男性は80歳、女性は87歳まで伸びました。国連の推計によれば、2050年までに日本の100歳以上の人口は100万人を突破する見込みとのこと。当たり前に100歳まで生きる時代を迎えるとき、どんな人生戦略が必要となるのでしょうか。
リンダさんはまず「長寿化の話題はネガティブに捉えられがちですが、長く生きることは『禍(わざわい)』ではありません」と指摘します。
「日本は高齢化と低出産率の課題に直面していますが、長寿化自体は『より若々しく活動する時間が増える』ということであり、その恩恵をどうすれば個人や社会全体で享受できるのかを考える必要があります」。
“人生100年時代”では、65歳引退が非現実的に
そうはいっても、長寿化で気になるのが老後資金の問題です。100歳の人生のうち、何年間働く必要が出てくるのでしょうか。
リンダさんは『ライフシフト』で世代別に架空の3人(ジャック・ジミー・ジェーン)を登場させ、“65歳で定年”というこれまでの働き方への問題提起をしています。
最初の登場人物であるジャックは1945年生まれの70代。この世代の平均寿命は70歳前後で、“教育→仕事→引退”という3ステージの人生が最もうまく機能した人たちです。日本の高度成長期を支えた世代でもあり、その後の世代の生き方にも、強い影響を与えています。
二人目のジミーは1971年生まれの40代で、父親がちょうどジャック世代です。
「彼は父親と同じように65歳で定年したいと考えていますが、この世代の平均寿命は85歳(※イギリス国家統計局のデータによる)ですので、65歳で現役を退くとなると、年金生活が父親世代よりもずっと長くなります。ジャックの世代が65歳で引退するためには、毎年所得の4.3%を貯蓄に回せばよかったのですが、ジミーの世代は、17.2%を貯蓄しなければなりません。日本人は貯金率が高いと聞きますが、果たして17.2%を貯蓄に回せる人はどのくらいいるでしょうか。ちなみにアメリカでは、貯金可能な人はほとんどいないと言っていいでしょう」。
そして、最後のジェーンは1998年生まれの20代です。
「この世代は、二人目のジミーの平均寿命よりさらに15年長くなるので、65歳で定年という考えのままだと、引退してからの年月が35年にもなるのです。何という事でしょう!ジェーンは引退するまで毎年、所得の25%を貯蓄に回さなければならない。これは不可能に近く、70歳から85歳まで仕事をする必要があります」。
このように、65歳定年を前提にした生き方はもう非現実的であるとリンダさんは力説し、「これからはおそらく、ほとんどの人が80代まで働き続ける必要があるでしょう」と断言します。
では、80代まで働くとはどういうことなのでしょうか?
「教育→仕事→引退」という3ステージ化が崩れ、マルチステージ化へ
リンダさんはこのように説明します。
「これまでは、一人目のジャックのようにほぼ同じ年齢で“教育→仕事→引退”という3ステージを送る人が多い時代は、就職や離職も年齢で把握すればよく、企業にとっても人事管理がしやすく好都合でした。今でも多くの企業はこの様な考えに立脚しています。しかし今後は3ステージが崩れることは間違いなく、企業にとっても大きな課題となるでしょう。個人レベルでも、ほかの人の生き方と同じレールに乗り続けることは難しくなり、このマルチステージ化する人生への対応を迫られることになります」。
80代まで働くということは、心身ともに健康でなくてはいけません。
「日本人のビジネスワーカーは長時間労働が珍しくはなく、睡眠時間も短い。欧米諸国に比べて長い休暇もめったに取りません。そのような仕事のやり方を続け、80代まで健康に働き続けられるでしょうか? 自分の健康をリスクにさらしてまで仕事をする、それはクレイジーな考え方です」。
お金に換算できない無形資産を持ち、バランスのとれた生涯を
人生が長くなれば、さまざまな経験に恵まれる機会も増えていきます。
「学生に限らず、これまでとは違った環境に身を置いて世界を広げる“ギャップイヤー”の期間がどの年代にあってもいい。“100年時代”では、教育も10代~20代前半で終了では十分と言えなくなり、どの世代でも改めて教育を受けるチャンスが必要になります」。
また“100年時代”では、生涯で複数のキャリアを持つことが可能になる時間も増え、人生のどこかのステージで、自分がやりたい小さなビジネスを立ち上げることを視野に入れてもいい、と提唱します。
そして、地域貢献や趣味、友人、新しいスキルの習得など、仕事以外に費やす時間も大切です。幸せに長く人生を生きていくためには、貯蓄や不動産、年金などの“有形資産”だけではなく、お金に換算できない人間関係や評判、健康といった活力などの“無形資産”が重要になるとリンダさんは強調します。
「無形資産に関しては売買ができません。私には50年に渡って関係を構築してきた友人がいて、今、この友情をとても貴重なものだと感じています。私たちがハッピーに生きていくためには自分の時間をどう使うのかがとても大事なのです」。
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家族の関係も変わる。パートナーと役割交代をしながら、柔軟に変化を
「さて、男性の皆さん! 奥様が専業主婦で、二人とも100歳まで生きることにすると、あなた一人の力で家族全員を100歳まで金銭的にしっかりと支えられますか!?」。イベント会場に集まった男性たちに対して問いかけるリンダさん。会場はザワザワとし、苦笑する人たちも。
「有形資産と無形資産のバランスを取るには、結婚と夫婦のあり方も重要です。人生100年時代では“夫だけが働き続ける”・“妻だけが家事をする”というような、性別役割分業という考えは徐々に通用しなくなっていきます。夫婦二人で働いて、お金を稼ぐ負担をシェアすれば、老後の生活資金が貯蓄しやすくなるのは明らかです。また、長い人生ではパートナーと交互に役割を交代する期間があってもいいでしょう。皆が100歳まで生きる時代には、皆が生産的になる必要があり、そのためには柔軟に変化して協力し合うことが大切です」。
働き方も多様化する時代が来ています。
「20歳から80歳まで同じ会社で勤めあげることは現実的には難しく、今後はフリーランスやジョイントベンチャーを志す人も増えていくでしょう。小規模ビジネスも増えていくでしょうし、企業は新卒一括採用から年齢にこだわらない柔軟な採用を視野に入れる必要が出てきます」。
100年という長い人生をどう生きていくのか。政府や企業が動くまで待つのではなく、今、私たち一人ひとりが自分たちで考えて行動する、試みの時期に差し掛かっているといえそうです。