総合ヤフーも導入「通年採用」が社員と人事にもたらすプラス効果
ヤフーは通年採用の導入で超優秀学生を青田買いできる
大手のインターネット情報サービス会社ヤフーが、同社が「ポテンシャル採用」と名付けた、いわゆる通年採用の仕組みを導入すると発表した。18歳以上30歳未満を対象に、応募から2年以内に入社する条件で、一年を通していつでも応募できるという。年度ごとに在学中に採用内定を出して、卒業業後の4月に年度ごとに一括して採用する「一括採用」が一般的であった多くの日本企業とは大きく異なる仕組みだ。
ヤフーは、先般、社長が「週休3日制」の導入を目指すと言い出すなど、ここのところ、思い切った人事政策を相次いで実施しようとしている。共に同社特有の事情を踏まえたものだと思われるが、今後に期待できる意欲的な施策で好感が持てる。
「18歳以上30歳未満」という条件は目新しく感じるが、研究に注力して世間の就職活動時期に満足に活動ができなかった大学院生の採用などに効力を発揮しそうだし、学生時代の海外留学やボランティア活動経験者など多様な経験を持つ人材を採用しやすくなる。
一方、この条件を見て筆者が個人的に興味を持つのは、大学1年生、2年生の時点で内定を与え、大学の3年、4年時は会社生活と大学生活の両立を許すようなかたちで超優秀な学生を青田買いできないかだ。仮に、プログラミングの天才のような少年がいる場合、ヤフーに就職して、ヤフーに勤めながら大学卒業を目指すことが可能ではないか。交渉が成立すれば、両者にとってプラスになる公算が大きい。
なぜ、通年採用は
拡がらなかったのか
ヤフー以外の会社に目を転じると、ソフトバンクやファーストリテイリングが通年採用を行っている。また、経済同友会は通年採用への切り替えを提唱しており、世耕弘成経済産業大臣も、日本の企業が一括採用を見直してもいいのではないかと述べている。
しかし、理念として、通年採用には好ましい面があることが理解されつつも、現実には、今ひとつ拡がりを見せていない。今後、通年採用が拡がる可能性はどの程度あるのだろうか。
筆者はこれまで、通年採用を行うと、(1)「年次」を単位とした人事管理を変える必要があること、(2)採用活動の成否に不確実性が増すので「経団連就職協定&一括採用」といった企業間の“談合”が成立していると人事担当者が楽であること、(3)コストが掛かることの3点が、通年採用が広く行われないことの理由だと思ってきた。
一方、雑誌「AERA」(10月31日号「ヤフー“通年採用”の波紋」)は、1990年代にも通年採用の流れができかかったが、定着しなかったという専門家(コンサルタントで立命館大学客員教授の海老原嗣生氏)の意見を紹介している。同氏によると、通年採用を行っても、就職活動期間の中盤以降に企業側の基準にかなう学生がほとんど来なかったことが、その理由なのだという。
これは、「なるほど」と思わせる理由であり、通年採用が今後拡がるのか心配になる。通常の時期に就職活動を行って、内定を決めきれなかった学生が「通年」の後半に混じるのは仕方がない。
しかし、採用する社員の年齢やキャリアに拘らずに、ヤフーのように採用候補者の対象年齢を大きく拡げると、例えば他社から転職する社員や、20代前半に海外生活を送った人、さらには、先に述べたように超優秀な人物の青田買いの可能性など、企業側にも求職者側にもメリットがある組み合わせが新たに生じる可能性があるのではないだろうか。
通年採用によって
人事管理制度自体を変える
現在のようなレベルの人手不足気味の経済環境は、政府が目指すデフレ脱却のためにはもうしばらく継続する必要がある。この場合、企業が人材確保のための施策の一環として、一括採用と通年採用を併用するようなかたちで、通年採用が普及する可能性をある程度考えていいだろう。
加えて、企業は、人事制度を根本的に作り替える契機として、通年採用の導入を考えてもいいのではないだろうか。
率直に言って、「年次」や年齢・学歴が同じ者同士を比べるとしても、社員の能力や仕事の成果には大きな個人差がある。多くの会社で、年次をベースに、昇格・昇進や給与を決めるようなやり方は、仕事の実態に合わなくなってきているし、社員の十分な能力発揮の障害になっている。
いわゆるオールドエコノミー的な大企業や就職人気の高い企業で、こうした人事管理がこれまで成立して来た理由は、こうした企業が、仕事の内容から見て無駄に能力が高い人材を集める事ができたからで、業務を多くの社員ができる程度のレベルに設定してきたからだ。
社員の側では、仕事そのものでは個人の能力差ほどの差が付かない環境にあるために、職場における過剰な丁寧さや無駄な我慢、あるいは社内の人間関係など、本来必要な仕事以外の競争要素に力を分散しつつ、仕事はほどほどの力でこなしながら、「人事」という長期にわたる競争ゲームに参加してきたのが実態だろう。これまで、多くの大企業・人気企業は、社員の能力をフルには使って来なかったのだ。
しかし、業務への要求が高度化したり、人手不足により採用した人材の能力差のばらつきが拡大して来たりすると、「年次」ベースの輪切り型の人材管理では、無駄や不足あるいは評価に対する不満が発生する。これまでにも、日本的大企業の職場には悪平等に対する不満は存在したが、状況の変化によりそのスケールが拡大することが予想される。何よりも、手持ちの社員の能力を最大限に発揮させる上で、既存の人事管理システムに限界が来つつある。
通年採用で、入社する時期も、入社する年齢もばらばらの社員を雇うようになると、「年齢とキャリアが同じなら、能力も概ね同じだから、処遇も同じをベースにしていいだろう」という年次管理型人事システムの根底にあるフィクションが効力を失う。
通年採用には、人事管理制度を、ビジネスの実態に合った社員の能力をより効率的に発揮させるものに変える上でのきっかけになり得る積極的意味があるのではないだろうか。
社員の評価と条件交渉の
個別化につながる
実は、筆者は、採用の時期を拡大する通年採用そのものよりも、通年採用がきっかけとなって進むはずの、人事システムの進化の方により期待している。
若い頃から、年次や給与テーブルといった形式化された基準に関係なく働き、報酬や次の地位・仕事などをもらう関係に慣れるなら、仕事に向いた力のある社員は大いにやり甲斐を見いだすだろうし、その一方で、マネジメントに対する不満も持ちやすくなるだろう。そして、部下の期待や不満にいかに応えることができるかが、直属の上司から、ひいては経営トップに至るマネージャー層を鍛えるはずだ。
マネージャーは、部下に対して、仕事の成果に対する評価、能力に対する評価、今後に与える仕事や地位、そして報酬の額などについて、個別に説得・交渉し、納得させることができなければならない。こうしたプロセスを通じて、会社は、個々の社員をよりよく見なければならなくなるし、使い方と報酬について一層工夫が必要になる。つまりは、人材を最大限に活用する努力をするようになるはずだ。
日本の、特にオールドエコノミーの大企業・就職人気企業は、優秀な社員が集まることにあぐらをかいて、彼らを十分有効に使って来なかった。「我が社の社員は質がそろっていて、皆優秀だ」と自慢する経営者ないし人事部長は、単に自分が社員の能力を有効に活用しきっていないことを告白しているに過ぎない。
通年採用の普及拡大と、これが日本の人事システムを改善するきっかけになることを大いに期待したい。