日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由

総合日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由

政府は8月2日に閣議決定した事業規模約28兆円超の「未来への投資を実現する経済対策」に、「働き方改革」を盛り込んだ。政府はこれを「最大のチャレンジ」と表現し、構造改革の1番手に挙げた。今後は長時間労働に頼らずに成果を上げることが喫緊の課題となるが、現状では日本人の長時間労働の抑制はまったく進んでおらず、有給休暇取得率にも改善の兆しはない。今回は日本人が仕事を休めない事情について考えてみる。
フランス人、スペイン人、イタリア人などには長期休暇を取ることが浸透している。しかし、日本人は仲間に迷惑がかかるために休むことをためらう傾向があるようだ

一億総活躍社会を切り開く鍵は「働き方改革」

政府は8月2日に、新たな経済対策「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定した。そして、経済対策の多岐にわたるメニューの1つとして「働き方改革の推進」を掲げた上で、以下のような文言を盛り込んだ。

 「一億総活躍社会を切り開く鍵は、多様な働き方を可能とする社会への変革であり、最大のチャレンジは、働き方改革である。そのため、同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正、労働制度の改革を進め、我が国から非正規という言葉を無くす決意で臨む」

だが、会社員などの関心が高いとみられる「長時間労働の是正」に関しては、いわゆる36(サブロク)協定(※注)における時間外労働規制の再検討を開始すると書かれているだけである。6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」で「観光先進国の実現」の部分で言及されていた、「企業における労使一体での年次有給休暇の取得向上や休暇取得の分散化等の休暇改革の推進」は、今回の対策では具体的に展開されなかった。

※注 労働基準法は、休憩時間を除いて1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて働かせてはいけないと定めているが、時間外労働に関する労使協定(36協定)を結べば、月45時間、年間360時間の残業が認められ、特別条項を付け加えればさらに長時間の残業が可能となる。なお、労基法36条にもとづく労使協定のため、一般に「36(サブロク)協定」と呼ばれる。

日本の有給休暇の取得率の低さは下から2番

諸外国と比べた場合に、日本では有給休暇の消化率(取得率)が極めて低いことは、よく知られている。国別比較でよく用いられる「Expedia有給休暇・国際比較調査」の2015年データを見ると、最下位はお隣の韓国(40%)で、日本は下から2番目(60%)である<■図1>

■図1:有給休暇の国別消化率
(出所)Expedia有給休暇・国際比較調査2015

ただし、日本の消化率は、厚生労働省の公式データではもっと低く、直近データ(2014年)で47.6%。時系列で見ると、1999年までは50%を超えていたものの、2000年以降は50%未満にとどまっている<■図2>

■図2:日本の有給休暇取得率の推移
注:1999年までは賃金労働時間制度等総合調査、2000年以降は就労条件総合調査
(出所)厚生労働省

日本ではなぜ、有給休暇の消化日数がこのように少ないのだろうか。

有給取得に「罪悪感」を感じてしまう日本人

この疑問への回答になると思われる興味深い内容を、「Expedia有給休暇・国際比較調査」(2015年データ)は含んでいた。

1つは、「有給休暇取得に罪悪感を感じる人の割合」である<■図3>

■図3:有給休暇取得に罪悪感を感じる人の割合
(出所)Expedia有給休暇・国際比較調査2015

日本は18%という、突出して高い数字になっている。本来は権利の行使であるはずの有給休暇を取る際に「すみません」と言ってしまう感覚だ。

そして、そう感じる理由の第1位は「人手不足」。ぎりぎりの人繰りで仕事が回っている場合、休暇取得中に同僚や部下の仕事が増えてしまうことに、心理的な抵抗感があるということなのだろう。第2位は「お金がない」。休んでも遊びに行くお金がない、ということだろうか。第3位は「自営業で時間がない」である。

休暇中に仕事が頭から離れない人の割合も1番

もう1つは、「休暇中も仕事が頭から離れない人の割合」である<■図4>

■図4:休暇中も仕事が頭から離れない人の割合
(出所)Expedia有給休暇・国際比較調査2015

日本は13%で、韓国の11%を上回るトップの数字。「仕事漬け」的な心理状態になっており、ONとOFFの切り替えができないということだろう。電子機器の進歩がそうした心理を創り出すのに大いに貢献していると考えるのは、筆者だけではあるまい。

このほか、日本の会社では疾病休暇(病気休暇)を取得しにくいので(日数が多いと無給になるのが通常)、自分が病気になった時のために有給休暇をある程度残しておくという動機付けがあるのだろうという指摘がある。実際、筆者の友人の1人はまさにこのパターン通りの行動をとっており、疾病休暇についてはその存在さえ知らなかった。

さらに、会社が年間の「休暇パターン」のモデル例を提示しているため(銀行業界の場合に多いのは「1週間休暇+3日休暇+それらをとらなかった四半期に1日ずつ」)、それを超える日数の休暇はとりにくい雰囲気になっているという声も聞いた。

ドイツ軍は激戦のさなかでも休暇を取っていた

では、Expediaの調査には出てこないが日本とは真逆と言える、有給休暇消化率が極めて高いドイツの状況は、どのようなものだろうか。筆者が最近読んだドイツに関する2冊の本から興味深かった部分を、最後に引用したい。

驚いたことに、第2次世界大戦中のヒトラー体制下のドイツ軍でも、休暇取得制度がしっかりワークしていた。日本人にはすぐには真似のできない国民性というか、メンタリティーが、ドイツではしっかり根付いていることがわかる。

■熊谷徹 「ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか」(青春出版社 青春新書インテリジェンス、880円+税)

「大半のドイツ企業が、労働組合との間の賃金協約に基づき、30日間の有給休暇を与えている。さらに、残業時間を1年間に10日前後まで代休として消化することを認めている。大手企業の中には、33日間の有給休暇を与えている会社もある。したがって多くのドイツの会社員は、実際には40日前後の有給休暇を取っていることになる」

「もちろん日本の経営者も、社員に有給休暇を与えることを労働基準法によって義務づけられている。だが労基法による最低休暇日数は、企業への就職直後はまず10日であり、継続勤務年数が6年半を超えてようやく20日になる。ほとんどのドイツ企業では、企業に採用されてから半年間の試用期間には、有給休暇を取る資格はない。しかし試用期間が過ぎれば、ただちに30日間の有給休暇を取る権利が与えられる。つまり最低休暇日数において、日独の間にはすでに大きな格差があるのだ」

「私がドイツで『すごい』と思うのは、大半のサラリーマンが30日間の有給休暇を、完全に取るということだ。ほとんどのドイツ人たちは、本当に毎年30日間、休暇を取っているのだ」

「知り合いのドイツ人たちを見ていても、管理職を除けば、有給休暇を100%消化しない人はいない。消化できなかった有給休暇をお金で払ってもらうという話も聞いたことがない」

「また休暇の時の連絡先を上司に伝える必要はないし、平社員には、休暇の間に仕事のメールを読む義務もない。休暇の間は完全に『行方不明、音信不通』になることが許される。それは、『週末や休暇中に会社のメールを読んでいると、気分転換ができない』と考える人が多いからだ」

「有給休暇に加えて、ドイツには毎年9~13日間の祝日がある。祝日数は、州によって異なる。大半の祝日は、キリスト教にまつわるもので、カトリック教徒が多い南部地方ほど、祝日の数が多い。たとえば2015年の時点で祝日の数が最も多いのは、バイエルン州の13日」

「バイエルン州の多くの企業では有給休暇、祝日、代休を合わせると、56日間休めることになる」

■大木毅 「ドイツ軍事史-その虚像と実像」(作品社、2800円+税)

「クレフェルト(『補給戦』の著者として有名なマーティン・ファン・クレフェルト)のまとめによれば、原則として、すべてのドイツ軍人は、階級や兵科にかかわらず、年間14日の休暇(所属部隊と自宅の往復に要する時間として、別に2日)が与えられていた。ほかに、結婚や家族の死亡といった慶弔時、自宅が爆撃で破壊された場合、あるいは家族の入院などといった事態となった際には、10~20日の休暇が認められることがあった。ちなみに、休暇が与えられるのは、既婚者が未婚者に優先。加えて、既婚者のあいだでも、家庭に何か問題があるものが先にもらえることになっている。ただし、作戦開始直前、あるいは、出動が予想される場合には、指揮官には、すべての休暇を差し止める権利がある。なお、前線にある部隊の場合、休暇を与える人数は、総員の1割を超えてはならないと規定されていた」

「しかし、かように立派な規定があったとしても、戦況が厳しくなり、一兵卒といえども貴重となってくれば話は別、実際には休暇など与えられなかったのではないのか。南方の島々に兵をばらまき、休暇どころか、補給さえも充分に与えなかった総司令部をいただいていたという過去を持つ日本人の一人としては、つい、そう疑ってしまう」

「ところが、幸い1942年から43年にかけての第9軍(司令官は、ヴァルター・モーデル上級大将)の休暇関係記録が残っており、これを分析すると、この時期にあっても休暇システムが機能していることがわかる」

「第9軍にあっては、ひと月あたり構成員の約10%に休暇を与えている。前線勤務にあたる兵士には、原則として、最初の1年には12か月あたり1度、2年目には9か月に1度、3年目には6か月に1度の割で休暇が許可された。また、前線部隊の将兵は(連隊指揮所より前方で勤務するものと規定されている)休暇を得るにあたり、後方要員よりも優先されることになっていた。驚くべきことに、第9軍に関していえば、激戦のさなかにあっても、こうした休暇規定は守られていたのである」

このように見てくると、「働き方改革」のうちで有給休暇の積極的取得という問題は、日本の場合、トップダウンで進展するような容易な話ではないことが痛感される。

残念な結論だが、結局、一人ひとりが自らの意識改革を行いながら、無理ない範囲で、できるだけのことをやっていくしかないのだろう。