なでしこ銘柄もグローバル化も「信頼ある人事」から 「現地現物」で変革を加速するKDDIの「アクティブHR」とは

総合なでしこ銘柄もグローバル化も「信頼ある人事」から 「現地現物」で変革を加速するKDDIの「アクティブHR」とは

女性活躍に優れた企業を選定する「なでしこ銘柄」に4年連続で選ばれているKDDI。昨年は「勤務間インターバル制度」を他社に先がけて導入するなど、チャレンジングな人事戦略で注目を集めています。
同社の人事パーソンが、どんな思いや志をもって改革に取り組んでいるのか、大いに関心がわくところですが、3 年前、人事トップに就任した総務・人事本部副本部長の白岩徹さんの目に映ったのは、意外なことに「旧態依然とした変われない人事部」の姿でした。「人事部として何をすべきかの前に、人事部としてどうあるべきか。
そこに強い危機感を持ちました」と白岩さん。さまざまな施策を前に進め、着実に成果を上げるためには、信頼に基づく現場との連携が欠かせません。インタビュー前編では、「信頼ある人事」をスローガンに掲げ、同社人事部が自らの改革に取り組んだ軌跡に迫ります。
プロフィール
KDDI株式会社 白岩徹さん プロフィール写真
白岩 徹氏
KDDI株式会社 理事 コーポレート統括本部 総務・人事本部 副本部長
しろいわ・とおる●1991年に第二電電株式会社(DDI、現KDDI)に入社。
営業、カスタマーサービス部門を経て、2013年にコーポレート統括本部 総務・人事本部 人事部長に就任。2016年から現職。

郷に入っても郷に従わず――門外漢に託された人事部改革

―― 白岩さんは、2013年4月に人事部長に就任されました。それまでのキャリアはほぼ営業ひと筋、人事部門の経験はなかったそうですね。

前職も含め、20年以上ずっと営業だったので、最初は良くも悪くも、カルチャーショックを受けました。特に印象的だったのは、異動して最初に参加した社外の会合で、他社の人事担当者の方々とお会いしたときのことです。営業の世界は、結構ドロドロしていて、相手に手の内を見せることなどまずありません。

商談ともなれば、夜、行きつけの飲み屋で腹を探り合うのがお約束です。私自身、そういう世界に長く染まってきました。ところが、そのときの会合は朝8時からのブレックファストミーティング。お酒ではなく、生ジュースを飲みながら。

しかも参加者のみなさんは、手の内を隠すどころか、自社の人事の問題点までさらけ出し、率直な思いをぶつけあってディスカッションされている。会社には、こういう世界もあるのかと。

いい意味で衝撃を受けると同時に、自分にはこちらのほうが向いているかもしれないな、と感じたのも事実です。個人的には、隠し事ができないタイプなので(笑)。

―― この「となりの人事部」も人事パーソンのリアルな思いや経験を共有する場ですので、率直におうかがいします。人事未経験の白岩さんを人事部長に据えた会社の意図を、就任当時、ご自身ではどう受け止められましたか。

今日に至るまで、経営陣から直接、その意図の説明を受けたことはありません。ただ、その真意を私なりに解釈し、肝に銘じてきたのは、「郷に入れば郷に従え」では門外漢の自分が人事部長をやる意味はないだろう、ということです。

郷に入っても郷に従わず――つまり旧態依然とした人事の枠にとらわれずに、人事を変える、人事部を変える。そして人事の変革を通じて、会社を変える。それこそが私に与えられたミッションだと信じて、取り組んできました。

営業部門は売上を稼ぎ出して、会社を大きく豊かにしてくれます。私も以前は、営業でこの会社を動かしたいと、本気で思っていました。しかし組織をより強くするとか、企業風土を改革するとか、会社そのもののあり方を変えるようなことは、営業にはなかなかできません。それはやはり人事の役割。

にもかかわらず、その人事部門が旧態依然とした、変われない組織のままでいいのか。企業が自己変革なしには生き残れない時代だからこそ、むしろ人事自ら率先して変わっていくべきではないかと、私は腹をくくったのです。

―― 「変われない人事部」とおっしゃいましたが、事業部門にいらっしゃったとき、人事部にはどういう印象をお持ちだったのでしょうか。

人事に移る前の4年間は、CS(カスタマーサービス)本部でCS企画部長の職にありました。CS部門全体の人事を取りまとめる部署でもあるので、そこで初めて会社の人事部との接点ができたわけですが、直接応対してみると、どうもかみ合わない。

人事のプロが揃っているし、仕事自体はソツなくミスなくこなすものの、自分は会社をこう変えたいという思いのようなものが伝わってこないのです。たとえば制度改革一つとっても、どういう背景でやろうと思っているのかと尋ねると、「経営の意思ですから」という返答。

自分たちの、人事としての意思はないのかと、すごく違和感を覚えました。経営の意思を尊重するのは当然ですが、人事から働きかけて経営の意思形成を促すということもあるはずです。経営がすべて正しいわけでもありません。ところが、当時の人事部には、自ら変革をリードしようというような気概も思いも感じられなかった。実際にそう言って、人事を批判したこともあります。

当社では毎年1回、人事部主管で社員満足度調査を行っています。その結果を取りまとめたものを、社内では『解体新書』と呼んでいるのですが、各部門長にしてみれば、これは人事部からつきつけられる、いわば“通信簿”のようなもの。

自分の部署の成績は全社平均と比べてどうなのか、情報共有や組織としての一体感といった調査項目のうち、何が自部署の問題点なのかなどについて、どの部門長も人事から指摘・指導を受けるわけです。ほかの部署の結果は知らされません。

私はCS企画部長時代から、このサーベイを非常に意識していましたし、CS部門の順位が少しでも上がるように真面目に問題点の改善に注力してきました。

KDDI株式会社 白岩徹さん Photo

だからこそ、異動して最初に人事部の『解体新書』に目をしたとき、驚きとともに、思わず怒りがこみ上げてしまったのです。サーベイを主管し、各部門長にその結果を説明して回る立場の人事部ですから、さぞかし成績優秀かと思いきや、そうではない。

全社平均を上回っている調査項目は全体の2割に満たず、順位は何と最下位に近かった。それくらい雰囲気が悪く、コミュニケーションも取れていないと、人事のメンバー自身が感じていたのです。せっかく『解体新書』をまとめて説明して回っても、こんな思いも気概もない人事部の言うことを、誰が聞いてくれるでしょうか。

人事のファンクションは山ほどありますが、「何をすべきか」よりも前に、そもそも人事部として「どうあるべきか」、ここから変えていかなければならないと痛感しました。

―― 人事部を改革するために、まず何から手をつけたのですか。

CS時代には、『解体新書』で明らかになった問題点を部全体で共有、全員参加のアイデアラッシュで打ち手を検討し、問題解決に取り組みました。たとえばコミュニケーションが悪いということであれば、活性化のためにランチ会を定期的に行ってみようと。

結果、CS部門では順位が上がったので、人事部でもまずこのランチ会の導入から始めました。また、事業部門にいたのでわかるのですが、人事はほかの社員たちから、意外とよく“見られている”んです。労務管理上の手続きやさまざまな相談事などで、社員が人事部にやってくることも多い。

そのとき、もし人事のオフィスの見栄えが良くなかったら、たとえば整理整頓ができていなかったり、仕事中に部員が机で何かを食べたりしているのを目にしたら、どう思うでしょうか。人事は常に社員の鑑(かがみ)でなければいけません。だから清掃活動もしましたし、デスクでの飲食も原則禁止にしました。

子どものしつけみたいな話ですが、すべては事業部門からの信頼を取り戻し、強化するため。「信頼ある人事」が、人事部長としての私のスローガンですから。

―― なぜ、現場からの信頼強化を優先課題と考えるのでしょうか。

変革に向けて、新しい人事施策を打つとき、万人が賛成してくれることなどありえません。賛否両論が入り乱れ、陰で批判や不満の声が飛び交うのが普通です。それでも、現場との間に強い信頼関係があれば、「施策には反対だが、人事がそこまで言うなら協力しよう」となるでしょう。

たとえば、ダイバーシティやグローバル化の推進などは、私の着任前からすでに人事として取り組み始めていたことですが、それを事業部門にきちんと理解、納得してもらって、成果を加速させていくためには何が必要かと考えたとき、アイデアや理屈だけでは合意は得られない。

施策を進めると同時に、人事部自らが現場や経営から信頼される組織にならなければ、と思い至ったのです。

現地現物に徹する「アクティブHR」で経営との関係も変化

KDDI株式会社 白岩徹さん Photo

現場からの信頼強化のためのキーワードとして、われわれは「現地現物」を掲げています。後ほどご説明する当社の「KDDIフィロソフィ」の中にも、「現地現物で本質を見極める」という文言が掲げられていますが、これは現地に出向き、現物と直接対峙(たいじ)して、事の本質を見極めることが肝心だという意味です。

人事の仕事もまったく同じ。ところが、人事の旧弊では、なぜかこちらから現場へ出向かず、用があると社員を呼びつけるんです。それではダメで、足しげく現場へ通い、社内の声を直に聞いて回らなければなりません。そういうことを着任以来、私自身が率先して行ってきましたし、部のメンバーにも徹底してきました。

現場へ行けば、現場の空気がわかります。たとえば携帯電話各社にとって、毎年10月は“iPhone戦争”と呼ばれる繁忙期。特に営業はピリピリしています。そんな時期に社内アンケートを実施するなんてとんでもないのに、旧態依然とした人事は現場に出ないから、そのピリピリした空気もわからない。

現場へ出てみれば、空気だけでなく、“人”もわかります。当社は4年連続で「なでしこ銘柄」に選ばれるなど、ダイバーシティの面で高い評価をいただいていますが、まだまだ目指すところには足りません。そこで最近、女性活躍推進の対象者となる約200人の女性社員一人ひとりをもっと深く知るために、こちらから出向いて面談する取り組みを行いました。

これは大きかったですね。「現地現物」だけで事業部の信頼が得られるわけではありませんが、初めの一歩になることは間違いない。まずは誠心誠意、何度でも現場へ足を運び、相手と腹を割って話し合う。その覚悟が持てない人事部にだけは、したくなかったのです。

―― 自己変革への努力を重ねた結果、白岩さんの目から見て、人事部はどれくらい変わりましたか。現時点での評価をお聞かせください。

先ほど、私が異動してくる前は、人事部の『解体新書』の結果が最下位に近く、全社平均を上回る項目は全体の2割弱しかなかった、という話をしました。それが3年目の昨年は、すべての項目にわたって平均を上回りました。

その意味では、部のメンバーも、組織の風通しが良くなったとか、自分たちのやりたいことがやれるようになってきたとか、雰囲気の変化を少しずつ実感できているのではないでしょうか。どんどん現場へ出て事業部門の社員とディスカッションしたり、自ら率先して変化を起こしたりするような人事のあり方を、私は「アクティブHR」と呼んで、提唱していますが、

そうした文化も徐々に根付きつつあるように思います。最近は「ミニ合宿」がよく行われるようになりました。特定のテーマについて集中的に議論したいと思っても、人事部全体がアクティブになったせいか、平日はなかなかみんなの時間が合いません。そこで「ミニ合宿」と称して、休日などにメンバーが集まるわけです。

グループリーダーだけでなく、非管理職の社員まで。あくまでも自主的に、です。

経営との関係性も明らかに変わってきました。われわれの意見を聞く耳を、経営陣が持ち始めるようになったのは、やはり少しずつでも人事が信頼を得ているからでしょう。もちろん、まだ全幅の信頼とまでは行きませんが。私個人も、社長や各事業部門のヘッドから直に呼ばれる機会が多くなりました。ちょっと相談があるからと、秘書を通すことなく、私の携帯電話に直接かかってくるんです。非常にありがたいですね。