女性雇用「理想の上司がいない」「家庭と両立できない」…女性が安心して働き続けるために JALが女性活躍を強化
女性社員がイキイキと働き続け、管理職を目指せる環境を作るにはどうすればいいのか-。企業における女性の活躍推進を目指し、昨年9月に「JALなでしこラボ」を発足させた日本航空がこのほど、半年にわたり行ってきた社内研究プロジェクトの研究結果を発表した。(取材・大竹信生)
JALグループは、2023年までに女性管理職の比率を現在の15%から20%に引き上げるという目標を掲げている。グループ全体の男女比率は半々ながら、個社によって職種や人員構成、勤務時間は大きく異なり、女性をはじめ誰もが働きやすい環境を整えるのは容易ではないのが現状。様々な職位や職務に就く女性社員がこの先も安心して仕事を続け、キャリアアップを目指せる会社を作るためには何が必要か。グループ社員で構成する3つのプロジェクトチームが、『意識』『ポジション』『継続性』の3つのテーマに着目して研究を行った。
【意識】の研究
社員がやりがいをもって仕事をするには何が必要か
【ポジション】の研究
JALグループには様々な雇用形態がある。管理職や一般職、正社員やアルバイトなど、それぞれの立場から見える課題を見いだす
【継続性】の研究
長く安心して働ける会社を作るには何が必要なのか。継続的に仕事ができる環境を見いだす
管理職に就きたい社員は半数以下
【意識】の研究では、JALグループでアンケートを行ったところ、54%の女性が「やりがいをもって長く働きたい」と感じているものの、管理職になりたいと答えた人は半数以下にとどまった。その理由は「異動したら仕事と家庭の両立ができない」「今の部署のままでいい」「今の管理職を見ていて、なりたいと思えない」「身近に理想とする管理職がいない」などなど。この結果から浮かび上がったのが2つのキーワード、「ジョブローテーション」と「ロールモデル」だ。
研究を進める中で、ジョブローテーションの回数が多い人ほど、成長意欲が高いことが分かったという。様々な職種を経験して自身の能力や経験値を高めることで、環境の変化やストレス、重圧に強くなり、キャリアアップに必要な知識や自信を深めていくことが大切なのだ。
アンケートを通して、多くの女性社員に「目指したいロールモデルがいない」という事実も浮き彫りとなった。仕事の傍ら育児・介護にも追われる社員にとって、同じ境遇の上司がいないことや、「管理職は残業が多い、プライベートとの両立ができなさそう」といったネガティブな印象があるようだ。だったら、1人のロールモデルを探さずに、いろんな人から見習いたい部分だけを“いいとこ取り”するパーツモデルを作って、自分なりのロールモデルを形成することが、長く働き続けて管理職を目指すことにつながると結論付けた。
本音は「もっと難しい仕事に挑戦してみたい」
2チーム目は【ポジション】という観点に立って、「女性が管理職になるには“壁”が存在するのでは」という仮説の下に研究を進めた。社内アンケートの結果から、女性の多い職場では壁を感じる人が少ない一方、営業や整備、運航など男性が多い職場では50%以上が、壁があると回答。いくつか考えられる壁の一つが、『職場内でのコミュニケーション不足』だ。「上司は部下に積極的にかかわろうとしていない」「職場の人のプライベートをよく知らない」といった回答が目立った。
このチームが『コミュニケーション不足』の解決策として提案したのが「朝活」。毎朝10分間、グループメンバーで顔を合わせて、仕事のことからプライベートなことまで自由に話をするという試みだ。実際に研究員メンバーが所属する4部署でトライアルを実施したところ、朝活に対してポジティブな印象を持つ人が20%も増加。「朝活を通じて業務やプライベートなことへの相互理解が深まり、信頼関係の構築に役立っている」と感じている人が80%を超えたという。朝活はトライアル後も継続中だそうだ。
しかし、朝活は交流を図るきっかけにすぎない。重要なのは、上司と部下が歩み寄り、キャリアについて建設的な会話をすること。こんなデータがあるそうだ。男女ともに約7割が「今より難易度の高い仕事にチャレンジしたい」と思っており、とくに子供のいる女性はその傾向が顕著だという。その事実を上司は知っているのだろうか。女性は自身の向上心を上司にしっかりと伝えているだろうか。もしかすると、このようなコミュニケーション不足が原因で、女性はキャリアアップのチャンスを逃しているのかもしれない。朝活をきっかけに社員同士の理解を深め、キャリアアップに対する意識をしっかりと持って行動を起こすことが重要と結論付け、「最後は自らの力で壁をぶち破りましょう」とのメッセージで発表を締めた。
「介護」は他人事ではない
3チーム目の研究テーマは、キャリアアップに欠かせない【継続性】。女性のキャリアアップを阻む要因の一つとして「介護」に着目した。理由は、女性のみならず男性も直面する可能性がある問題だからだ。
日本では急激に高齢化が進んでいる。アンケートによると、JALグループ社員の約75%が今後5年以内に介護に直面する可能性があり、これらの多くが会社で中核を担う人材。研究によると、45歳を境に介護に直面するリスクが一気に高まるという。介護に直面した場合に「今の職場で仕事を続けられる」と答えた社員はたったの22%だそうだ。社員が働き続けてキャリアアップを図るために、そして社員の離脱を防いで会社の未来を安定させるためにも、仕事と介護の両立は国全体で乗り越えなければいけない問題なのだ。
すでにグループ社員の20%が介護中もしくは介護を経験しているそうだが、社内の介護支援制度の利用率は1割にも満たないという。なぜか-。15%が「個々のニーズに即していない」と制度自体の問題を指摘。「制度の存在を知らなかった」「周囲の理解を得られない」など制度以外の課題も明らかとなった。
さらに介護経験者に聞くと、彼らがもっと必要としているのは「家族の理解」「介護サービス」「同僚や上司の理解」だということが分かったという。
企業側の介護制度の整備はもちろん、介護中の社員にとって、職場におけるコミュニケーションの充実と介護に対する周囲の理解が一番心強い支えなのだ。介護経験のある社員のうち、心身に不調を感じた社員は7割を超えるとの調査結果も出ている。これでは仕事と介護の安定した両立などほぼ不可能だ。
結局は、介護者の心身の健康がすべての基本であり、さらには介護に対する社員の知識向上、同僚・上司・家族の理解を高めて初めて、多様な介護や勤務形態に即した制度設計が生きてくるのだ。
このチームは仕事と介護を両立させるための打ち手として、今後5年間で3段階のフェーズに分けた建設的な取り組みを提言した。
(1)知識向上と理解の醸成 (未経験者セミナー、管理職教育と研修、相談窓口の設置など)
(2)2018年に支援制度を再構築 (勤務時間短縮、在宅勤務の柔軟化など)
(3)2019年から定着へ (仕事と介護の両立の実践)
これら3つのフェーズを確実に実行することで、団塊世代が75歳に突入する2022年までに仕事と介護の両立が実現できているという計画だ。シナリオ通りに達成できれば、2023年までにJALグループの女性管理職比率を20%に引き上げるという目標も現実味を帯びてくる。
(1)のコミュニケーション手段として、介護経験者や介護に関心のある社員が自発的に着用できる「介護サポーターバッジ」の普及は非常に面白い取り組みだ。バッジを着用する社員が増えて介護に関する会話が増えれば、介護に対する理解と意識も高まってくるはず。JALグループはこれらの取り組みを通して社内の環境を改善し、「一人で抱え込みがちな介護」から「みんなで支える介護」を目指すのだ。バッジの配布はすでに始まっているという。
JALグループはこれら介護に関する活動で培う経験を生かし、JALの商品開発や人の心に寄り添うサービスを拡充して介護社会に貢献したいと考えているそうだ。その一例として、シニア向け機内食や思い出の場所をめぐるツアーといったアイデアを紹介していた。
『社員がイキイキと長く働き、管理職を目指せる環境を作るには何が必要なのか』-。3つのプロジェクトチームの結論に共通していたことは、結局は社員一人ひとりの「意識」が大事だということだ。積極的にいろんな職種に挑戦し、向上心を持ちながら理想とする将来像を描く。そして、能動的に社員同士が抱える問題への理解を深め、お互いを支え合いながら自分たちで働きやすい環境を作る。これは女性に限らず、男性社員も留意すべき研究結果だ。
「なでしこラボ」発表会の終わりに登壇した日本航空の植木義晴社長は、こんなエピソードを披露した。
「僕は副操縦士から機長になったときに『キャプテンを3日やったらやめられない』と言ったことがある。責任は何倍も多いが、それ以上のやりがいがある。でも、社長になって3日目に同じことは言えなかった。楽しいと言えるようになったのは3年目ぐらい。僕が社長を楽しめないようで、社員に『仕事を好きになれ』とは言えない。だから、ぜったい好きになってやるんだと、苦しみながらも頑張ってきた。今は最高に楽しい。管理職もやりがいがあるんだよ。だからみんなもキャリアアップを目指してほしい。女性のみんなが本気になって上を目指せる、そんな会社を作っていきたいと思います」
今回のプロジェクトチームの研究成果は、2023年に分かるはずだ。