総合学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か
- 本稿では、若年労働者の雇用形態や年収の状況について、学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。
- 1990年代より大学進学率が上昇し、現在、男女約半数が大学へ進学するが、同時期に非正規雇用者も増え、大学卒の2割、大学院修了の約1割が不本意な理由で非正規雇用者として働いている。
- 平均年収は、性・年代・雇用形態が同じであれば高学歴ほど多い。また、同じ学歴であれば非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多い。年収300万円という区切りで見ると、非正規雇用者の男性は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40~44歳まで、大学・大学院卒の25~29歳までは300万円を下回る。
- 非正規雇用者の男性で大学・大学院卒では、30~34歳以上で年収300万円、40~44歳以上でおおむね400万円を上回るが、同年代の中学卒や高校卒の正規雇用者の男性の年収を下回る。非正規雇用者の男性で大学・大学院卒の30代以上では年収の平均値は300万円を超えるが、300万円未満層は約4割で、決して少なくない。
- 現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著。近年の日本社会では、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与え、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就ける時代ではない。
- 将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきであり、「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。
■目次
1――はじめに
2――学歴別に見た若年労働者の状況
1|大学等進学の状況
~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
2|若年労働者に占める正社員以外の割合
~高学歴ほど低いが大学卒20.4%、大学院修了12.3%
3|正社員以外の若年労働者の働き方選択理由
~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
4|正社員以外の若年労働者の今後の希望
~大学卒の54.4%、大学院修了の70.7%が「正社員」希望
3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で
年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る
4――大学・大学院卒の年収300万円未満層の推計~30歳以上の非正規雇用男性で4割前後
5――おわりに~学歴よりも正規雇用者か非正規雇用者かが年収に影響、若年非正規の待遇改善を
1――はじめに
本稿では、若年労働者の状況について、さらに学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。1990年代以降、大学進学率が上昇する一方、非正規雇用者も増えている。大学を卒業しても、必ずしも安定した仕事に就けるわけではない。現在、大学卒や大学院修了の非正規雇用者はどれくらい存在し、当該層の年収の状況はどうなっているのだろうか。
2――学歴別に見た若年労働者の状況
1|大学等進学の状況~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
まず、近年の進学状況を確認する。大学進学率は、男女とも1990年代から大きく上昇し、2015年では男性は55.4%、女性は47.4%であり、男性ではやや頭打ちの状況である(図表1)。女性では大学進学率の上昇に伴い、短大進学率は1996年より大学進学率を下回って低下し、2015年では9.3%である。なお、大学院進学率は、男女とも微増・横ばいで推移しており、2015年では男性15.0%、女性6.2%である。
3|正社員以外の若年労働者の働き方選択理由~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
正社員以外の若年労働者が正社員以外として勤務した理由は、「正社員求人に応募したが採用されなかった」(27.4%)が最も多く、次いで「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」(16.7%)、「元々、正社員を希望していなかった」(15.4%)と続く(図表3)。
学歴別に見ると、「正社員求人に応募したが採用されなかった」は高専・短大卒や大学卒、大学院修了で多く、「元々、正社員を希望していなかった」は中学卒で多い傾向がある。なお、大学卒・大学院修了では、「正社員求人に応募したが採用されなかった」と「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」を合わせると約6割を示す。つまり、大学卒や大学院修了の約6割は不本意な理由で正社員以外の立場で働いていたことになる。
3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る
雇用形態による違いに注目すると、性別や年齢階級、学歴が同じであれば、平均年収は非正規雇用者より正規雇用者の方が多く、年齢とともに両者の差は拡大する。また、その差や年齢に伴う差の拡大は高学歴ほど大きい。例えば、高専・短大卒や大学・大学院修了の男性では、年収のピークである50~54歳では正規雇用者の平均年収は非正規雇用者の2倍以上になる。
大学・大学院卒の非正規雇用者に注目すると、男性では同じ年齢階級の中学卒や高校卒、高専・短大卒の正規雇用者の年収をおおむね下回る。女性では40~44歳までは中学卒の正規雇用者の年収を上回るが、45歳以上では逆転も見られる。また、高校卒や高専・短大卒の正規雇用者の年収は下回る。
また、年収300万円という区切りで見ると、正規雇用者では、男性は学歴によらず25~29歳以上、女性は高専・短大卒や大卒・大学院卒の25~29歳以上、高校卒の35~39歳以上、中学卒の45~49歳以上で300万円を上回る。
4――大学・大学院卒の年収300万円未満層の推計~30歳以上の非正規雇用男性で4割前後
なお、図表6で示した通り、大学・大学院卒の非正規雇用者の男性では、30代以上で平均年収が300万円を超える。しかし、図表7を見ると、当該層で年収300万円未満の割合は4割前後であり、年収の平均値こそ300万円を超えるが、4割という決して少なくない層が年収300万円に満たずに、家族形成の壁にぶつかりやすい様子がうかがえる。
一方、大学・大学院卒の正規雇用者の男性で年収300万円未満は、20~29歳で約2割、30~34歳で1割弱、35~39歳以上で5%以下であり、年収に起因する家族形成の壁にはぶつかりにくいようだ。
1 ただし、この仮定は、既出レポートでも記載の通り、男性正規雇用者の所定内給与額と年間賞与その他特別給与額から推計した年収を参考にしているため、非正規雇用男性や女性における年収300万円未満層の人口は実際より少ない可能性がある。なぜならば、非正規雇用男性や女性では、正規雇用男性と所定内給与額階級が同等でも、年間賞与その他特別給与額は少ない可能性があり、その場合、実際の年収は男性正規雇用者で想定したものより少なくなってしまうためである。
5――おわりに~学歴よりも正規雇用者か非正規雇用者かが年収に影響、若年非正規の待遇改善を
1990年代以降、大学進学率は上昇し、現在、男女とも約半数が大学へ進学するようになっている。同時期に非正規雇用者も増え、現在、若年労働者では大学卒の約2割、大学院修了の約1割が非正規雇用者である。また、それらの多くは不本意な理由で非正規雇用者として働いている。
また、学歴別に平均年収を推計したところ、男女とも年齢階級や雇用形態が同じであれば、年収は高学歴ほど多くなっていた。また、いずれの学歴でも非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多くなっていた。
特に男性で家族形成の壁がある様子がうかがえる年収300万円という区切りに注目すると、男性では、正規雇用者は学歴によらず25~29歳以上で300万円を上回っていたが、非正規雇用者は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40~44歳まで、大学・大学院卒の25~29歳までは年収300万円未満であった。
また、前述の通り、非正規雇用者の男性では大学・大学院卒で30代以上であれば、平均年収は300万円を超えて比較的家族形成の壁にぶつかりにくいようであったが、実際に年収300万円未満の雇用者人口を推計すると、当該層の約4割が該当しており、決して少なくない層が家族形成の壁にぶつかっている様子がうかがえた。一方、大学・大学院卒の正規雇用者の男性では、年収300万円未満層は30代後半以上では5%未満であり、年収に起因する家族形成の壁にはぶつかりにくいようだ。
以上より、現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かという雇用形態の違いの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著である。つまり、近年の日本社会では、学歴よりも、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与える。ひと昔前は、大学を卒業すれば、安定した仕事に就きやすかったのかもしれないが、長らく続く景気低迷により新卒時の労働環境に恵まれない世代では、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就けるわけではない。ただ、本稿では触れていないが、少子化による大学全入時代では大学卒業者の質の問題も見る必要があるだろう。
大学卒業者の質の問題は別の議論として、将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきだ。第三次安倍内閣では「働き方改革」を重点課題として表明している。「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。






