総合なぜ再雇用がもてはやされる?
業務理解し「即戦力」/処遇で社員に不満も
転職が珍しくない時代になったが、最近は転職などでいったん辞めた人を再び迎え入れる企業が増えているという。なぜ、再雇用がもてはやされるのか。
同僚と打ち合わせをする佐々木さん(中央)。「再雇用してもらった恩義もあり、前にも増して一生懸命働いています」(東京都新宿区のアドウェイズで)
クルーズでは、再雇用したい退職者に「クルーズ号乗船往復チケット」を宝箱に入れて郵送する
「思った以上に皆、温かく迎えてくれてホッとした」。NTT西日本の丸野健太郎さん(41)は2016年1月、7年ぶりに古巣に戻った際の感想を語る。新卒で入社したが、家族の希望もあり、09年、転勤のないベンチャー企業に転職していた。
社員約100人の企業で、市場調査やコンサルティングなど幅広い仕事を経験できた。だが、40歳を前に再度、大きな組織で働きたいと考えた。
そんな時、NTT西日本が退職者を再雇用する「リ・チャレンジ採用制度」を始めた。外で力をつけた元社員に、自社にはない考え方や価値観を新風として吹き込んでもらうのが狙いだ。丸野さんは関心を抱き、15年夏に応募。書類選考や面接を経て内定を得た。
待遇は同期の出世組と同等で、現在は部下9人を率いて新規事業を担う。「ベンチャーではスピード感や顧客目線を徹底的に意識し、成果重視で働いた。今の職場で生かせる点は多い」と丸野さんは話す。
インターネット広告会社のアドウェイズも元社員の再雇用に積極的で、これまでの再雇用者は40人を超す。今年2月には、岡村陽久社長がブログで「出戻りは5回まで」と明言し、話題となった。
営業担当の佐々木茂綱さん(37)は10年、出身地での市議選挑戦のため離職。地元の建設会社に転職したが、落選を機に15年に戻った。「アドウェイズなど3社で働いた経験から、隣の芝生が青く見え始めた後輩にこの会社の良さや外の厳しさを伝えられる」と話す。
ネットサービス事業会社のクルーズは、退職者のうち再び戻ってほしい人の自宅に、「2年以内ならいつでも復職可能」という特別なチケットを郵送する。
元社員の再雇用については、育児や介護、夫の転勤などのため、仕方なく離職した女性に限定し、運用する企業が多かった。だが最近は、転職や留学など本人の強い希望により退職した人も受け入れる企業が登場している。
人事担当者向け情報サイト「人事のミカタ」編集長で、労働市場に詳しい手塚伸弥さんは「売り手市場が続き、採用が以前より難しくなっている上、採用した人が本当に定着、活躍してくれるかは見通しにくい。その点、元社員は在籍中の仕事ぶりや人柄が分かっているし、職場の風土や仕事の進め方も熟知しているので、即戦力として安心して採用できる」と話す。外の荒波にもまれたことで、かえって古巣への帰属意識が高まり、他の社員に好影響を与える例も多いという。
課題もある。人材サービス会社のエン・ジャパンが16年1~2月、220社を調査したところ、再雇用者の受け入れに76%の職場は好意的な反応だったが、13%は批判的だった。「再雇用者が、退職中に入った社員に先輩ぶる」「不在の間に頑張った社員から『なんで?』の声が強い」などがあがった。
手塚さんは「元の職場に戻れた場合は、職場で謙虚な姿勢を見せることが重要だ。企業もまた、給与面や配属、処遇などで今いる社員との公平性を保つ配慮をすべきだ」と指摘する。
社員が成長する機会補う
ニッセイ基礎研究所主任研究員の松浦民恵さんの話
企業には特有の文化があり、仕事の進め方などが微妙に異なる。その職場で通用する知識を既に持っている元社員は、企業にとって大きな魅力だ。社員から見ても、再雇用制度があれば、パワーアップのためにいったん外に出るというキャリアも選択できるようになる。
この制度が注目されるのは、デフレで企業に余裕がなくなった点も大きい。拡大路線で社内に多様な仕事があった高度成長期と違い、今は組織がしぼんで新規事業も少なく、企業が社員に十分な成長機会を与えられない。その点を、外で鍛えられた元社員の再雇用で補っているのではないか。
企業67%、再雇用の経験あり
エン・ジャパンの調査では、回答した220社中、元社員を再雇用した経験のある企業は67%。このうち、再雇用制度も設けている企業は12%だった。再雇用の理由(複数回答)では、「即戦力を求めていた」(75%)、「人となりが分かっていて安心」(65%)が上位を占めた。
離職した女性に目を向けて
◎取材を終えて 「1人採用するのに100万円」。ある企業の人事担当者の言葉が印象に残った。求人媒体や紹介会社の利用などに費用をかけても成果に直結するとは限らず、採用後の教育、研修費用もばかにならないと聞いた。
採用に悩む企業に積極的に取り組んでほしいのが、育児や夫の転勤などで離職した女性の再雇用だ。彼女らにはブランクがあるが、育児や家事、地域での交流などを通じて新たな視点や多様な価値観を培っている。何より在籍中の「実績」がある。メリットは大きいはずだ。

