総合真山仁が「最悪」と語る役職定年制 40代で「お役御免」の時代は訪れるのか
日経ビジネスの8月8・15日号の特集「どうした50代!君たちは ゆでガエルだ」では、50代が会社のなかで置かれている厳しい現実を浮き彫りにした。年功序列・終身雇用の人事体系が崩れるなか、取材を通じて賛否両論、様々な意見が出たのが、55歳前後の管理職から強制的にポストを剥奪する「役職定年制度」だ。
ヘッドハンティングの専門家からは「役職定年は50代でも遅い」との指摘があった一方、「ハゲタカ」で知られる作家の真山仁氏ら識者からは否定的な意見もあがった。多くの企業で導入が広がる現状を踏まえ、我々はこの制度の是非をどのように考えるべきなのか。
役職定年制度とは、企業内で部長や課長などの管理職ポストにある社員が一定年齢に達すると、そのポストを外れ専門職などに異動する人事制度。人事の新陳代謝を進め若手の登用などをしやすくすることを目的としたもので、1990年代から大手企業を中心に広がってきた。中央労働委員会の「賃金事情等総合調査」によると、2009年時点で対象の218社のうち約半数が同制度を導入していた。いったん導入した後に廃止した事例もあるが、対象年齢を引き下げるなど推進する企業が目立っているのが現状だ。
今回の特集では、役職定年に直面し、「こんなはずじゃなかったのに」と嘆く50代社員の思いを紹介した。だが、長年ヘッドハンターとして役員や幹部社員のスカウトに携わってきた縄文アソシエイツの古田英明社長は、「今の50代は100人中、97人ぐらいは完全に勝負が終わった人たちだ」と厳しい言葉を投げる。いわゆる「プロ経営者」としてスカウトされて経営を任されたり、思い切った転職で、自分のキャリアをステップアップさせる人たちが、ほとんど見当たらない現状を指摘し、その要因としては、50代はこれまでの仕事人生で挑戦の場が少なく「圧倒的に経験が足りない」とも分析している。
経営を担えるかは45歳までに決まる

現状、55歳前後での役職定年を定める企業が多い点に関しても、古田氏はさらに突っ込んだ意見を持つ。「会社で活躍できるかどうか、経営を担える人材かどうかは遅くとも45歳ぐらいまでに決まっている。部長、さらに役員に上っていく人はほとんどがそう。それ以外の人達にとっては、55歳で役職定年になっても次の人生プランを考え準備するだけの余裕はない。ならば、会社側も例えば役職定年を45歳に設定して、転身の道を開いてあげることの方が有意義ではないか」
古田氏の言葉の裏には、日本が「失われた20年」を経てさらに地盤沈下が進むなか、企業や社会が、若者が十分に活躍できる環境を整備できていないことへの危機感がある。「たいていの仕事は30代、40代で回すことができるのが実態。50代は会社にいるならば邪魔をしないでほしいというのが部下の正直な気持ちだと思う」と指摘する。
役職定年制度よりもさらに厳しい、「職務等級制度(ジョブグレード制度)」の導入が増えているのも、そうした危機感を企業が持ち始めた表れともいえる。職務内容に応じて報酬などの処遇が決まり、年齢要素は一切考慮されない制度で、社内外から必要な人材を臨機応変に登用するのにメリットが大きいとされ、世界的には標準的。グローバル化を推進する大手を中心に、こうした動きは今後一層加速するとの見方は強い。
一方、特集で50代に「未来への『捨て石』になれ」と説いた作家の真山仁氏は、同世代への視線は厳しいものの、役職定年制度には否定的だ。そもそも、同制度には人事の新陳代謝だけでなく、従来型の人事体系で増え続けてきた人件費を抑制する狙いも大きかったとされる。だが、真山氏は「組織にとっても働く者にとってもプラスになるべき会社の在り方として、役職定年制度は最悪のやり方だ」とまで指摘する。
若者も「飼い殺し」を見ている

真山氏が特に問題視するのが、若手も含めた組織の競争力の低下につながりかねないという懸念だ。「55歳になったら、『あと5年会社にいてもいいけど課長は終わり』と言われ、給料もがくんと下がる。いわば『飼い殺し』の状況を若い子はみんな見ている。目先の人件費を削りにいったことで社員のモチベーションを低下させ、それが結局、企業がどんどん貧困になっていくことにつながる」と話す。
さらに、真山氏は欧米と異なり産業界における人材の流動性の低さも課題に挙げる。「米国のように転職市場が成熟している国であれば、55歳で会社を辞めたとしてもきちんとした受け皿がある。でも、日本の状況はみんながやる気をなくし、どんどんマイナスになっていくだけ。ひいては、3年、5年先に企業が競争に勝てなくなることにつながるのではないか」
古田氏と真山氏の役職定年制度に対する評価は大きく異なるように見えるが、共通するのは企業がどのように人材を活用すべきなのか、経営者がどのように組織の競争力を高めることに心を砕くべきなのかということに対する問題意識だ。では、当の企業側はこうした人事制度の課題についてどのように捉えているのだろうか。
1997年に役職定年制度を導入したキリンホールディングス。同社の社員は57歳で役職を離脱し、60歳までは「シニア経営職」という立場につく。経営職ではあるが部下は持たず、自分の得意分野で経験を活かして業務に従事してもらうというのが会社側の方針だ。他方、1985年からは「ライフデザインセミナー」と題し、キリンビールに籍を持つ50代の希望者を対象に「経済」「生きがい」「健康」などをテーマにしたセミナーを開催し、「第2の人生」に役立つ情報提供の取り組みも進めてきた。
人事担当の三好敏也取締役は、役職定年制度について「もともとは一般的に、大量退職を控えていた『団塊の世代』をどのように処遇するかという観点で出てきたもの」と話す。「働き方が多様化したり、実力主義をどのように反映させるか試行錯誤が進んだりするなかで、本人の希望と会社が求めるもののバランス、仕事の役割と処遇のバランスを巡って複雑な課題が出てきているのは確か」と説明する。
国内事業会社の人事制度も刷新

加えて、キリンホールディングスは国内の事業会社に関する人事制度も、2015年に大きく変更した。キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの酒類・飲料の3事業会社 の社員について、原則課長級以上の管理職につくタイミングで中間持ち株会社のキリン社に転籍するか、従来の事業会社に籍を残すかを選ばせるようにしたのだ。キリン社に移れば海外を含め幅広い業務や事業分野を経験できる一方、業務成果などに応じて役職や報酬が大きく変わるなど厳しい評価にさらされる。一方、事業会社籍のままでいれば専門的な業務に長く従事する一方、全社横断での活躍や評価は望みにくくなる。
三好取締役は「今の50代にとっては、新しい人事制度も含めある意味でより厳しい環境に置かれるということではある。ただ、企業を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、50代の社員は自らが置かれた立場を見つめ、残されたキャリアをどのように過ごすのか真剣に考えることが求められている。もちろん、会社側も社員をサポートする努力を惜しんではならない」と語る。
日経ビジネスが、今回の特集で「ゆでガエル」世代と命名した50代。急激な経済情勢、人事制度の変化にさらされ、窯のお湯は煮えたぎってきた。今こそ新しい生き方へと踏み出すときだ。40代以下の世代にとっても、こうした先輩の苦境は全く他人事ではない。キャリアの在り方、人事制度の在り方について全世代的な議論を深めることが必要になる。