日本とアメリカの人事制度の違い

総合日本とアメリカの人事制度の違い

読者の皆さんにとって人事とはどのような立ち位置で、会社にとってどのような意味を持つものでしょうか? 今回弊社では、日本企業とアメリカ企業のカルチャーを知り尽くすHRのスペシャリスト、ミスミグループの有賀誠氏に、日本とアメリカの人事制度の違いについてお聞きしました。

有賀氏のバッググラウンドは非常に興味深いもので、製造、ファッション、ITといった業界で生産管理や海外事業、経営企画、人事等に携わってこられました。2009年、日本IBM人事部門理事を経て、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長に就任。現在は、ミスミグループで執行役員として人材部門を統括されています。有賀氏は、米国での駐在員経験に加え、米国ミシガン大学のMBAプログラムで経営戦略と組織管理について学ぶことにより、人や組織に関心を持つようになったそうです。その後、「企業の一番重要な資産は人」という信念を掲げ、現在はグローバルなビジネス展開を支える人事の仕組みづくりを担っていらっしゃいます。

<有賀誠氏プロフィール>

argiga_20160731_02.jpg1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。日本鋼管(現JFE)にて製作所生産管理や米国事業に携わった後、日本ゼネラル・モーターズで人事部マネージャー、日本デルファイでアジア・パシフィックエリアの人事本部長、三菱自動車では常務執行役員人事本部長として人事に従事。その後、ユニクロ執行役員、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長を経て、日本IBM人事部門理事、日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、現在は㈱ミスミグループ本社の執行役員人材開発統括。

 

Q1.日本の人事制度とアメリカの人事制度の違いは何でしょうか?

現在の日本企業の課題は、経営者人材としての潜在能力を持つ人材をいち早く見つけ、気づきとストレッチの機会を提供することでしょう

日本で働くホワイトカラー (white collar) の処遇には今も年功的色彩が強く、一方、工場や店舗で働くブルーカラー (blue collar) は能力主義制です。しかし、アメリカはその逆であり、ホワイトカラーは能力主義、一方強力な労働組合の存在もあり、ブルーカラーは年功序列になっています。日本とアメリカで働き方のシステムは真逆なのですが、それぞれに良い面があると思います。

年功序列制は家族の関係にも似て、先輩が後輩を育て、若手が年長者を支える中、一定のバランスと一体感を持って会社全体が動くことができます。効率的なオペレーションには向いている仕組みだといえるでしょう。対して能力主義制は、大きな夢や希望を持って業務に勤しむポテンシャルを秘めた若い人材を見つけて将来のリーダーを早期に育成することが可能であり、経営者人材の養成を容易にします。

多くの日本企業では会社が社員のキャリアパスを決め、社員は会社の指示によって働いているように感じます。一方アメリカでは、会社が社員にキャリアパスを選択させ、社員は自らキャリアを構築することが推奨されます。現在の日本の人事制度では、世界で通用する一流のリーダーを育てることが難しいかもしれないと思います。自分自身のキャリア・プランすら作れない人間に、企業戦略が作れるわけがないからです。

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上図は、有賀氏が描いた日本とアメリカでのホワイトカラー、ブルーカラーの違いを表した図。Seniorityは年功序列、Performanceは実績を指す。

Q2.海外への事業展開を考える日本企業は、どんな人事制度を持つべきでしょうか?

海外展開における3つの戦略

海外に事業展開をする際に、人事的には組織のステージを見極める必要があります。そのステージには3段階があり、”International”、”Multinational”、”Global”の3つです。ヒューレット・パッカードを例に見てみましょう。

60年前のヒューレット・パッカードは、アメリカで製造した製品やビジネス・モデルを海外に輸出またはトランス・プラントするという業容でした。これが”International”の段階です。そこから30年後には日本や欧州が技術力やノウハウを身につけ、それらが緩く結びついている”Multinational”の段階に入りました。そして21世紀に入り、ビジネス・モデルからも組織からも「国」という概念がなくなりました。基礎研究はアメリカ、ソフトウェアの開発はインド、ハードウェアのアセンブリーは中国、日本の顧客のためのカスタマイゼーションやアプリケーションを日本で、といった協業体制です。真に”Global”な段階に入ったといえましょう。

ただ、上記のような”Global”なビジネス・モデルや組織は、日本企業には難しいと考えます。ヒューレット・パッカードでは時差や国を超えるための強力なITインフラを構築しており、また170ヶ国の社員が公用語として英語を使います。日本で日本人だけで日本語で経営会議を行っているようでは、せいぜい植民地管理のようなことしかできないでしょう。これは、先ほど述べた”International”にすぎません。

日本発グローバル・ビジネス・モデルの成功には、”Transnational”という考え方が有効かもしれません。これは、すべてにおける世界共通をあえて目指さず、共通の握りの部分だけを明確にして、あとはそれぞれに任せるというスタイルです。この方が、人材も育つと思っています。

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上図は、有賀氏が描いたInternational、Multinational、Globalを表した図。

Q3.日本企業の多様性において、”女性の進出”をどう捉えますか?

日本政府が掲げる『女性活躍推進法』は素晴らしい考えだと思いますが、多くの企業が苦戦していると思います。その理由として3つの要因が挙げられます。

模範となるロールモデルがいない

アメリカ企業の多くには女性のビジネスリーダーが見られますが、日本では未だ男性社会の企業が目立っています。しかし、そんな中でも一生懸命仕事をする日本人女性をロールモデル化し、日本社会に生きる女性を勇気づけることが必要だと思います。

柔軟性に欠けている

アメリカでは、多くの企業が自由に育児休暇やフレックスタイム制などを利用することができますが、日本はどうでしょうか? 部署の仲間や上司の顔色をうかがい、自由なワークスタイルを実現することが難しいように思えます。その上、未だに日本社会の象徴的な”残業”=”美徳”が根底にあるため、ワークライフバランスが取れていないということも、大きな要因なのではないでしょうか。

メンタリング文化が重要

アメリカに関わらず海外では、若い社員たちがエグゼクティブ・レベルの経営者からメンタリング(mentoring) を受けるケースが良くあります。女性社員も多くの経験を積んだメンターからアドバイスをもらうことで、自身の成長を促進することができると思います。

私は日本でもいつかワークフォース・ダイバーシティーを実現させることができると思います。アメリカもウーマンリブ(Women’s Liberationの略)運動から50年間をかけて今に至っているわけで、変化には時間がかかります。これから優秀な女性リーダーがどんどん増え、女性が輝く社会になれると信じています。そして、女性が働きやすい職場が実現できたとしたら、それは男性にとっても働きやすい職場に違いないのです。

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Q4. 有賀さんが考える理想的なHRの人材とは?

私たちは『T型』と『I型』という2つのタイプに分けることができます。人事には『T型』の人材が必要だと思います。T型とは、ある分野を得意としながらも、広い事象に対応ができる人です。それには、人事以外の業務経験(営業や技術)を持つ、複数の業界を経験している、人事業務の中でも色々なことをやってきた、等も大事でしょう。一方、一つのことに長けている専門家やスペシャリストである『I型』も存在してよいのですが、その数が増えてしまうとローテーションが難しくなったり、他の人がその仕事を経験することができないという弊害も起こりかねません。キャリア的な広がりという意味でも、『T型』を推奨したいと思います。

Q5. 最後に、日本企業のHRリーダーに向けてアドバイスをお願いします!

ミシガン大学MBAプログラムで勉強をしていた際、”CK Prahalad”という戦略論の大家の授業を受ける機会がありました。Prahalad教授は、私たちが卒業する直前の最後のクラスでこのように言いました。「ビジネス・リーダーとしての信念が一番重要です。どのような時でもその信念を忘れずに一生懸命頑張ってください。組織にこびへつらうような存在になってはいけません。」 この言葉は私の人生を大きく変えました。会社や上司がどのような要求を出してこようとも、「会社にとって、お客様にとって、社員にとって正しいことは何か」という自分なりの信念持ち続けることが大切です。皆さんも、ぜひ”ビジネス・リーダーとしての信念”を探し、掲げ、実践し続けてください!