総合人事部が目覚めれば生産性は「10倍」上がる 八木洋介LIXIL副社長が語るワーク・ルールズ
世界20言語・地域で発売され、日本でも話題作となっている『ワーク・ルールズ!』。グーグル社の人事トップ(上級副社長)であるラズロ・ボック氏が同社の人事労務制度や採用基準、働き方に関する文化、メンタリティに至るまで余すところなく著し、ベストセラーになっています。
人はハートで動く
――前編では、250人の人事部員全員に『ワーク・ルールズ!』を配布して、それをもとに社内コンテストなどを行った話を伺いました。大企業というよりベンチャー企業がやっていそうなことに挑戦されているようにも見えます。
現代は「人の活力」なんですね。大きな会社になったからといって、メールを1通送ったり、ウェブサイトに何かを書いて物事が動くかといえば、動かないんですよ。ベンチャーだろうが、巨大な会社だろうが、人がどうやって動くかというと、ハートで動くんです。
私たちがウェブサイトなどで発信できることはロジックです。若干そこにハートを入れることもできますが、書かれたものというのは、言葉の持つ情報だけなんです。ですが、話をすれば、そこに声という情報が加わる。トーンから何から全部伝わっていくわけです。今、こうして話していることが文章になるのと、抑揚があって、スピードを変えて、繰り返しを使って話すのとでは、伝わり方は全然違いますよね。
人を動かすには、ロジックも大事だけれども、ハートだと思っています。経営というのはロジックをいくら積んでいっても答えは出ないのです。もちろん、100を3つに絞ることはできるかもしれない。でも、最後、3つのうちの1個を選んで「よし、やろう!」というときには、絶対にハートが必要です。だから、ハートのこもったコミュニケーションで人の活力を引き出すことが重要なのです。
――とはいうものの、御社はグローバルで8万人近くの社員がいらっしゃいますよね。企業の規模は関係ないのですか?
そう思いますね。現社長の瀬戸欣哉は、ものすごいアントレプレナーです。彼は、大企業のトップをやったことがないと言われている。けれども、新規事業で新しいことをやってきて、スタートアップで成功してきた、素晴らしいリーダーです。
だとすれば、規模なんて関係ないですよね。だいたい、私自身が、この会社を大きいと思っていません。ちょうど建築中の国立競技場が8万人収容というので、いつも「たかだかスタジアム一杯分じゃないか」と思っています。
たとえば競技場の中で、100メートルを疾走するのを見て、観客はものすごく興奮しますよね。だったら、私たちみたいに世界中の人たちを、快適な設備や建材でハッピーにしようと思っている会社が、どうして8万人をエキサイトさせることができないのか。
――お話を聞いていると、LIXILはもちろんですが、『ワーク・ルールズ!』にあるように、最先端の取組みをしているグーグルもハートが詰まった会社だと思えてきました。
私もそう思いますね。超優秀な人しかいなくて、なおかつそこにハートが入っている。だけど、気をつけなくてはいけないのは、グーグルには超優秀な人材しかいないことです。LIXILは、優秀ではないとは言わないけれど、普通の人の会社なのです。業態もデジタルではなくて、キッチンやドア、タイルや窓など、いろいろなものをきちんと一生懸命に作って、仕事をしている人たちの会社です。
そういう人たちが心をワクワクすることを意識しないといけません。とはいえ、グーグルがやっているからといって、無料で夕食を食べられるカフェスペースを作る、といったことを真似しようとは思っていません。LIXILにはLIXILの「ワクワク」があってしかるべきだと考えています。ただ、グーグルが持っている、人の活力を最大限に引き出そうという発想には大賛成です。
人間の生産性は5倍にも10倍にもなる
――そもそもの本質論ですが、人事の仕事とは何なのでしょうか?
物事を変えていくというのは、人が変わることですよね。人事の仕事は人に寄り添う仕事だからこそ、人事が一番初めに変わらなければいけない。そして、変わりたくない人、抵抗している人に「変わったほうがいいよ」と伝えていくのが私たちの仕事です。
多くの企業は、伝えるためにルールを作ります。守らないと評価しない、おカネをあげない、とやるわけです。そんなことより、「変わったら、どんないいことがあるのか」「なぜ変わらなければいけないのか」をワクワクする形で伝えていくのが、私は人事の役割だと思います。それは、今いる人たちのアウトプットを最大に引き出すことです。
「これはルールだからやってください」と言うのと、「私たちはこんな素晴らしいことをやろうとしているから頑張ろう」と言うのと、どっちがやる気になるかはわかりますよね。
今、目の前にお茶がありますが、お茶に「いやぁ、お茶君、君は偉いね」と言っても、残念ながら味は変わらない。でも、私が社員に意識的に「君はいい仕事をしている」と言えば、明日から5倍ぐらい仕事しますよ(笑)。さらに「これは面白い」と思えば、アウトプットは5倍や10倍どころじゃないですよ。それが人間の本質なのです。
人に寄り添う人事は、面白い、やってやろうという気持ちを引き出すのが仕事だと思います。ルールを作ることではない。人事管理が仕事だと思っているとルールづくりに精を出し過ぎてしまいます。
――人事がやる気を引き出す。この考え方は、巨大企業であればあるほど、他の会社との差が出そうです。
ものすごく出ますよね。GEにいたときに、マニュファクチャリングの生産性を一度はかったことがあります。結果は、1人当たりの売上げが競合の2倍ありました。やる気の出る集団を作れば、GEでも倍になるのです。社員みんなを活性化できたら、5倍はいくでしょうし、LIXILだってGEと同じくらいの結果は出せるはずだと思っています。
「行列のできる人事」をめざす
――お話を伺っているだけで、僕自身の生産性も上がりそうです(笑)
人間はそういうものだと思うんです。私の人事の考え方で、「人が集まっていたら行け。集まっていなければ集めて、話をしろ。人事の人間が話をすることで、やる気の出る体制を作れ」というのがあります。
人事と言えば、「あいつらと話をしたくない」とか、「人事に異動した瞬間に友だちがいなくなる」などの、「あるある」がありますよね(笑)。そういうのは最悪です。人事には、人がいっぱい来てくれなければいけない。だから、私は「行列のできる人事になりなさい」と言っています。私のところには、夫婦喧嘩の相談に来る人もいますからね(笑)。
それから、呼び込むよりも行くほうが、相手はよっぽどやる気が出ます。やる気を出してもらうことは、簡単なことなのです。特に頭を使わなくても、ただ相手の所に出掛けて行くだけで違いが出せるのです。この本に出ているグーグルも、誰でも気がつきそうなことをやっていて、難しいことをしているわけではありません。
――人事は、自分から能動的に動いていく熱い仕事なのですね。
そうです。だから、人事の仕事が人事管理だと思っているところがおかしい。人事の仕事は、人と組織を通して会社のパフォーマンスと業績を上げることに尽きるのです。
その手段として、ルールを作るというのも確かにあるかもしれませんが、パフォーマンスを上げることこそ大事ですし、パフォーマンスを最高にしたければ、最高の人材に最高の仕事をやってもらうことです。
LIXILに来たときに、女性管理職比率が0.9%であることを知りました。「LIXILで働く女性はそんなに能力が足りないのか?」と言えば、決してそうではありません。だとすると、変ですよね。ならば、仕事ができる女性にも管理職になってもらえばいい。今は、女性管理職比率が7%になりました。人事はそういったことに取り組めばよいのです。
年齢が高いから偉いわけではありません。一番できる人に一番いい仕事をやってもらうように動いたり、環境を整えたりといった取組みを続けています。今は、100点満点で10点ぐらい。まだまだ完璧には程遠いとは思っています。
ただ、相手が7、8点だったら10点でも勝つのです。だから、必ずしも100点満点は取らなくてもいい。
日本中にすごい会社がそんなにあるわけではないし、私の頭の中では10点でも勝てると思っています。あのGEでも30点ぐらいだろうと思っていますから。さすがにGEが100点だと、追いつくのは難しいですが、30点ぐらいなら、いつかは追いつきたいですね。
「日本的人事」なんてどうでもよい
――八木さんの評価が自社他社ともにまだまだ低いことに驚きました。でも、考えてみると人事系のマネジメントや手法、企業文化についてなど、一般化しにくいこともあり、情報が少ない印象です。そのあたりの情報はオープンになっていくのでしょうか?
どんどんオープンにしていけばいいと思いますが、みんな真似できないんですよね。だから、オープンにしても怖くないのです。私は、LIXILでやっていることをどんどん話していますが、誰も真似しようとしないですからね。結局、どこへ行くかというと、ほとんどの人は「日本的人事」へ行くのです。
人事は会社を差別化する1つのファンクションなのです。日本的人事というのは、「日本の人事はこうだよ」ということ。だから日本的人事をやることは、「人事は差別化しません」と言っていることに等しい。こんなバカな話はありません。人事は経営資源の中で一番面白いものですし、何をやるかによって、ものすごくアウトプットが変わるものですから。
たとえば、システムなどを工夫することでよその会社に対して生産性が5~10%ぐらい変わることがあるかもしれません。でも人間は、先ほど申し上げたように5倍、10倍変わるわけです。ここを差別化しなくて、何を差別化するのでしょうか。私は、よそと違うことをやることによって差別化するのが一番の価値だと思います。だから日本的人事なんて、どうでもよいと思っています。
私は、「この会社に一番合った、この会社の社員が一番活力を出す人事をやろう」と言っています。だから日本の会社が一生懸命いろいろなルールを作っているときに、私はルールはいらないと言っているわけです。ルールがあればあるほど、人間というのは、やる気をなくすんだと。
人間はやはりサボってしまうので、ルールがなくてよいというものではないでしょう。だから、最低限のルールと、頑張ろうという意欲をどうやって引き出すかに人事の工夫というものがあるし、毎日いろいろなことが起こっていく中で、どういう言葉を発して、人の心を動かすことができるか。これこそが人事の最も大切なところだと思います。
