総合介護休業法の改正で、介護離職は防げるか
2016年3月末、「育児、介護休業法」等の改正案が成立しました。このうち介護休業については、社会問題となっている「介護離職」を防ぐため、仕事と介護を両立しやすい形に法制度が改められたといいます(2017年1月より施行予定) 。
万が一、親や親族が要介護状態になったとき、仕事と介護を両立するためにはどうすればいいのか。厚生労働省の委託を受けて「介護離職」に関する調査を行うなど、法改正の一翼を担った三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の矢島洋子さんに聞きました。
介護休業と時短勤務等の組み合わせで長期的な介護に対応
―― 育児・介護休業法の改正によって、介護休業制度はどう変わるのでしょうか。
矢島:改正育児・介護休業法の一番のポイントは、「介護休業の期間の限度は、これまでと同様93日間ですが、最高3回まで分割取得できる」ようになったことです。また、所定外労働の免除は介護が終了するまで、その他時短勤務等は介護休業とは別に3年間と、長期にわたって柔軟な働き方が選択できるようになります(下図)
現在の介護休業法と改正後(2017年1月施行)の内容を比較。(編集部作成/赤字は改正された部分)
※1 同一の介護状態につき93日。例えば、介護休業を1回取得後、別の病気等で介護状態が重くなる場合などは介護休業を再度取れる(改正後も同じ)
※2 介護の対象家族1名につき5日。例えば2名介護する場合、年間10日休暇を取れる
※3 図の日数は取得期間の一例
※4 時短勤務、フレックスタイム、時差出勤、介護サービス利用費用の助成のうち、事業主はいずれか1つを選択して制度化する義務を負う
介護休業は「介護準備のための休業」と考える
―― 介護休業を分割して取れるといっても、93日までではそれを過ぎて離職ということにならないか心配なのですが。
矢島:介護休業という言葉から、「自分で介護をするための休業」と誤解している方が多いのですが、介護休業法でいう介護休業は、「介護が必要となった場合、介護の体制づくりをする」ことを目的に設定されている休業なのです。
介護は子育てと違い、いつ終わるか分からないものです。例えば10年、20年続く場合、親や親族の介護を本人が行うことを前提にしてしまうと、休業期間を3年としても不足です。また、介護終了までずっと休業できるとするというのも、本人にも会社にも負担がかかり現実的ではありません。
このため同法は、労働者の方が「仕事と介護を両立する」ためのサポートを目的としています。そして介護休業については、介護保険の手続きや住宅の改造、いろいろなサービスの手配、親族間の役割分担など、介護と仕事を両立していく準備をするための休業と位置付けているのです。
その前提で、実際に仕事と介護を両立している人の休業の取り方をみると、「介護準備のための休業」にはそれほどの期間を使っておらず、取得期間は1カ月に満たない期間が多い状況です。そこで改正法では介護休業期間の上限は延長せず「分割取得」を可能にし、これまで介護休業に含まれていた時短勤務等を、それとは別に取得できる形に改正されたのです。
今後、改正法が施行されて休業を分割取得できるようになったら、例えば、最初に数週間から1カ月程度休業をとって介護の体制を整えて仕事に戻り、必要な場合は所定外労働の免除やフレックスタイム、時短勤務、在宅勤務、1日や半日単位の休暇などを利用して仕事と介護を両立させる。その後、何かのタイミングで要介護者の状態が変化することがあれば、その状態に合った介護体制に見直すために、再度介護休業を活用する……ということが可能になります。本人が長期の休業を取って、自ら介護に専念してしまうよりも、こうした形で、働きながらサービス等も活用して介護を続ける、という考え方でスタートしたほうが離職を防げる可能性が高いと思います。
介護が必要になる前から、会社の制度を知っておく
―― 改正によって、仕事と介護の両立がしやすい職場環境が実現しそうでしょうか。
矢島:最近では、長い休みよりも、従業員のニーズに合わせて柔軟な働き方で、働きながら介護をすることができる両立支援制度の必要性が高いことが、企業にも認識されてきています。介護休業の分割取得を可能としている企業もありますし、所定外労働の免除や短時間勤務制度も導入している大企業は少なくないため、各企業の制度移行にそれほど支障はないと思います。
―― 中小企業はどうでしょうか?
矢島:仕事と介護の両立支援制度というと、大企業は余裕があるから対応できて、中小企業は対応しにくいというイメージが強いようです。しかし、制度が充実していればいいのかというと必ずしもそうではありません。例えば、出産や育児で辞める女性は中小企業のほうが少ないのです。これは、中小企業のほうが、制度はなくても、必要に応じた柔軟な働き方ができていたためとみられます。ですから、介護についても「柔軟に働ける」という視点から見ると中小企業のほうが両立しやすいという可能性もあります。
ただし、中小企業の場合、会社による考え方の違いが大きいため、正直なところ柔軟な対応ができない企業もあります。しかし、平均的にいうと、大企業より柔軟に働ける企業が多いと思います。
―― 介護離職を防ぐため、今後、雇用側にはどんなことが求められますか。
矢島:私たちが介護離職に関する調査を行ったところ、仕事をしながら介護をしている人のうち会社に相談した人は10%前後という現状が見えてきました(下グラフ)。つまり、「働きながら介護していても、会社に相談する人はとても少ない」ことが分かったのです。
ですから、今、企業に求められているのは、現在、介護のことで悩んでいる従業員はもちろん、まだ介護に直面していない従業員にもしっかりと、『仕事と介護の両立』に関する情報提供を行うことです。介護に直面する前の段階で、「介護に直面した場合、会社としてはみなさんに辞めずに働き続けてほしいと考えています」「介護体制をつくった上で、柔軟な働き方で仕事と介護の両立をはかってください」というメッセージを従業員に周知することが非常に重要だと思います。
■介護をしながら就労している人(離職した人)が「介護について相談した人」の割合/仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、2012年度厚生労働省委託調査)より。
注)自分が介護している要介護者すべてにかかわる相談。「離職者」は、離職前の状況について聞いている
介護に直面したときは、会社の上司と自治体の窓口に相談を
―― 今、介護に直面している人へ、仕事を辞めずに両立していくためのアドバイスをお願いします。
矢島:現在は、介護に直面したとき、ご家族の中でしか話し合っていない人が多いのが実情です(上グラフ)。しかし、一番大事なのは「仕事と介護の両立を支援するサービスや制度の正確な情報があるところ」に相談することです。仕事の面では会社の上司や人事などに相談することが大事ですし、介護の面では、介護が必要な方が住んでいる自治体の地域包括支援センターか高齢者介護の担当窓口に相談することをお勧めします。
一般的に、介護にいたるきっかけは、親御さんが病気などで具合を悪くして入院……から始まることが多く、病院から紹介を受けたケアマネジャーと相談して介護保険の適用を考える人が多いようです。
そのまま、要介護認定を受けて、介護保険の利用を開始してしまうと、紹介されたケアマネジャーや介護事業者に納得がいかなければ変更することができることや、自治体では介護保険以外にも、ゴミ捨てなどの生活支援サービスやおむつ費用の助成などのサービスを提供していることなどを知らないままになってしまうこともあります。ですから、併せて自治体の窓口にも行って、介護に関する制度やサービスについてしっかりと聞いてみることが大事だと思います。
―― 会社や自治体などには、具体的に何を相談したらいいのでしょう。
矢島:会社では、「介護を担いながら、どういう働き方の選択が可能か」を、まずは上司と相談しながら設定するのが大事だと思います。仕事と介護の両立のためには、残業をしなくて済むことや1日や半日単位の短い休暇といった柔軟な働き方ができることが重要で、こうした働き方が実際にできるかどうかは、実は、会社の制度以上に、上司の理解や裁量にかかっているからです。
しかし、例えば「親の介護があるので、これから先は週に2~3回しか会社に伺えません」では、正社員として仕事上の役割を果たすことは難しくなってしまいます。子育てで認められている短時間勤務は週30時間の勤務ですが、この程度の時間を下限として、フルタイムに近い時間働くための「介護体制」をつくることも重要です。介護における自分の役割を決め、会社で働く時間は、任せられる介護サービス利用や親族間の連携体制をきちんとつくって、介護における自分の役割を果たすための支援を会社に相談することが大切だと思います。
親や親族の理解を得て、仕事と介護を両立する道をつくりたい
―― 仕事と介護を両立するためには、親御さんや親族の方にも状況を理解してもらうことも大事そうですね。親が元気なうちから話をしておいたほうがいいのでしょうか。
矢島:面と向かって切り出しにくい話題ではありますが、最近は、介護や終活などをテーマにしたテレビ番組や新聞・雑誌の特集記事なども多くなっていますから、それらをきっかけに「どこでどんな風にケアされたいのか」といったことを話すチャンスをもつのも大事なことだと思います。
親御さんの世代も元気なうちはなるべく子どもの手を借りないで過ごしたいという方が多いのですが、例えば、配偶者が亡くなって心細くなったり、今までできていた身の回りのことができなくなったりすると、お子さんに頼りたいという気持ちが強く出てくるようです。それに引きずられるように「自分で全部やらなきゃと思ってしまう」お子さんも多いよう。
しかし、自分の生活のこともよく考えて、共倒れにならないよう「仕事と介護を両立させるため、介護保険サービスなどを利用して親族同士も協力しながら介護していきたい」という旨を、親御さんや周りの親族の方々にも理解してもらえるようにしておきたいですね。
私はもともと介護問題についてリサーチしてきて、専業主婦の方がひとりだけで介護をしている様子をたくさん見てきました。それでつくづく、介護だけの生活は精神的に非常に厳しいという思いをもっています。仕事と介護との両立に直面すると、「両立は大変だから介護だけしたほうがいいんじゃないか」という考えになりがちです。しかし、介護だけに向き合うほうがかえって精神的にも経済的にも厳しくなることがあるということも理解して、何とか、今までの仕事を続けながら介護をする道を探してほしいと思います。