東大留学生ガッカリ、「日本での就職」の現実 日本企業で働きたいのに働けないのはなぜか

総合東大留学生ガッカリ、「日本での就職」の現実 日本企業で働きたいのに働けないのはなぜか

日本の就職活動期は、私たち外国人留学生にとっても将来を考える重要な時期である。多くの留学生は、日本での就職だけでなく、母国や他国での就職、大学院進学も含めて検討する傾向があるが、それでも留学先に選んだ国で働きたいという学生は少なからずいる。

日本政府も従業員の国際的な多様化については、進歩的な考えを持っているようだ。安倍晋三政権は目下、「留学生30万人計画(日本への留学生を2020年までに2008年の14万人から30万人に増やす計画)」を掲げ、勉強だけでなく、将来のキャリアプランニングの面でも留学生が暮らしやすい環境を作ることに力を入れている。最近の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事によると、同政権は卒業後の残留率を現状の30%程度から50%にまで引き上げる計画で、留学生の日本での就職を後押したい考えだ。

日本での就職のハードルは高い

しかし、留学生にとって現実はそんなに甘くない。経済産業省が3月に公表した「内なる国際化研究会」の報告書によると、学部生の70.4%、大学院生(修士課程)の64.1%が日本での就職を希望しているにもかかわらず、実際に就職するのはそれぞれ29.7%と28.5%にとどまっている。また、留学生約83.0%が日本に住むことは魅力的だと評価している一方、働くこととなると魅力的だと答えるのは22.0%と一気に消極的になる。

私の周りを見ている限りでも、この調査結果に違和感はない。なぜなら、一部の大学が設けている留学生向けの特別プログラムで学ぶ留学生だけでなく、普通に受験して通常の学部に入った留学生にとっても、日本で就職することはものすごく難しいからだ。その理由は以下の通りだ。

1. ビザ

在学中に仕事が見つかれば問題はないが、日本には就職活動用のビザがないため、留学生が卒業後に仕事を探す場合には「特定活動」と呼ばれるビザステータスに変更しなければならない。申請には、パスポートや戸籍謄本などの身分証明、直前まで在籍していた大学からの推薦状などのほか、1カ月ごとに就職活動状況に関するレポートの提出が必要で、手間も時間も非常にかかる。

2. 就活時期

日本での就活スケジュールは、誰もが3月に卒業することを前提としており、時間的な柔軟性に欠ける。私を含め9月卒業の留学生の多くは、就職活動の時期も、卒業の時期も企業の予定とうまくマッチしない。

3. 日本語

楽天やグーグルなど英語が日常的に使われている企業への就職を希望しない限り、相当高い水準の日本語力が要求される(外資系企業でさえ、だ)。就活をするにあたってまず大変なのはエントリーシート。いくつもの企業に対して、説得力のある回答を日本語で書くのは容易ではない。いざ書類審査を通過して面接に進めたとしても、英語で面接できる会社はほとんどない。今どきの若い日本人でさえ満足に使えない敬語を外国人が操るのは至難の業だ。

4. 情報不足

就活は情報収集力に左右されるといっても過言ではない。これは留学生にとっても同じだが、たとえば私たちがもっとも知りたい「外国人にとって働きやすい会社なのかどうか」という情報を知り得るのは非常に難しい。各企業のホームページで外国人従業員の人数を調べたり、日本の学生と一緒に会社説明会に参加したり、「マイナビ」など就活サイトをチェックしたりするが、これを「読みこなす」にも相当の日本語力が必要だ。

それでも、留学生が必要とする情報を得ることは難しい。たとえば、企業のホームページ上に記載されている外国人従業員数は、しばしば海外支社の社員の数が含まれており、本社でどれくらい働いているのかわかりにくい。

東京大学の留学生、オースティン・ゼンと日本国際化推進協会(JAPI)が昨年共同で行った「日本で働くことについての調査」(日本の留学生819人が回答)によると、就活において留学生が知りたいのは、「労働時間」(65.4%)や「任されるタスク」(57.2%)、「評価の基準」(50.7%)、「要求される日本語のレベル」(42.0%)などだが、こうした情報を事前に知り得ることは、たとえばOGやOBに会わない限りわからない。私自身も何人か会っているが、日本人の学生に比べれば先輩の数は極端に少ない。

就職できてもなじむのがまた難しい

無事(?)就職できたとしても、外国人が日本の会社になじむのは難しいようだ。JAPIの調査によると、外国人が直面する困難のトップは長時間労働(57.6%)で、その後外国人差別(53.9%)、コミュニケーション様式(42%)、遅い昇進(27%)、評価基準(25%)――と続く。

前述の経産省の報告書にも、「3週間ほど前に突然異動を命じられるが、異動の意図について会社からの説明はない。また人事部とキャリアについて相談する機会もない」(運輸業)、「就活時の面接では自分が話すだけで、企業担当者が何を自分に望んでいるのか、まったく分からなかった。入社後も同じ」(サービス業)など、実際に日本企業に就職した外国人の「戸惑いの声」が掲載されている。結果、せっかく就職したにもかかわらず、わずか数年で退社し、日本を去る外国人も少なくない。

日本企業と外国人にこうした「ミスマッチ」が生じる要因の一つは、日本企業による外国人労働者に対する信頼感の低さではないだろうか。

日本企業への就職を目指す外国人は複数言語を操り、高学歴(修士号や博士号取得者も少なくない)で、総じて能力が高い。そして、その能力を生かして日本企業や日本経済に貢献したいと思っている。にもかかわらず、結局のところ日本企業が求めているのは、そうした能力ではなく、「通訳」としてどれだけ使えるか、ということに、多くの外国人は入社してまもなく気づくのである。

たとえば、ある大手メーカーで働く外国人によると、彼らの多くは自分の母国(もしくは得意とする言語が話される国)に送られ、現地の状況や顧客の要望などを報告することだけを求められる。また、別のメーカーに勤める外国人も、「外国人顧客との商談でどういったことが話されたのか、事細かに報告することが仕事」と嘆く。この場合において外国人の役割は、商談での通訳と、本社への詳細な商談内容の報告である。

これでは、外国人が苦労して大学や大学院で得たスキルや知識を生かす機会はほぼない。もちろん、企業や上司にもよるかもしれないが、私が話を聞いた外国人従業員の多くは、「日本企業は外国人社員を育てることには興味はなく、今そこにある仕事を終わらせる要員としてしか見ていない」と感じているようだ。

将来に対する不安もある。日本企業で働いた場合、経営陣、上司ともほぼ全員日本人だ。一生懸命働いて、日本人と同じくらい稼げたとしても、日本人と同じように出世できるのかわからない。今の日本企業における外国人社長や取締役の数の低さを見れば、外国人、ましてや「生え抜き」の外国人が出世できるかは微妙だ。これでは、どんなに日本の文化や日本人が好きでも、キャリアのために日本を離れることが頭をよぎる。

就職後の現実に不満を感じる外国人自体にも責任がないわけではない。そもそも、日本文化や日本企業、就職活動への理解をもっと深めていれば、就職してから労働時間や昇進について「こんなはずではなかった!」と感じることは少ないのではないだろうか。

ミスマッチを解消するには?

外国語以外のスキルを評価されないという点に関しても、企業側から言わせれば外国人にそれ以上何のスキルを求めるというのか、という話かもしれない。あるいは、外国人を増やすことは単になんちゃってグローバリゼーションや企業の社会的責任(CSR)の一環に過ぎず、従業員としての価値を見いだしているわけではないかもしれない。

しかし、いつまでもこんな状況が続くのが良いはずがない。ミスマッチを解消するには、互いの理解を深めることが必要だ。

そこで、まず日本企業に知ってもらいたいのは、私たち外国人はリスクではなく、アセット(資産)だということだ。私たちが有する能力やスキル、多文化への対応力などは、今後日本が世界市場へ打って出ていくために必ず役に立つはずだ。そのためには、単なる通訳としてだけでなく、私たちを企業の戦力として扱い、育ててもらいたい。

一方、日本企業に勤める(または勤めたい)外国人も、語学能力以外に自分のどんなスキルがその会社の役に立つのか、希望する仕事やポジションにつけないのは能力不足なのか差別なのかしっかりと考えてみるべきだ。そのうえで、労働時間や職務内容など自分が抱くイメージと違った場合は、(あっさり母国に帰ってしまうより)改善策を求めるべきではないか。

安倍政権にもリクエストがある。もし、本気で外国人の留学生を増やし、外国人労働者を増やそうと考えているのなら、企業や外国人の声にもっと耳を傾けてほしい。そして、それぞれの希望や違いを把握した上で、外国人と日本企業双方にメリットがある就活の推進や労働環境の整備に努めてもらいたい。それこそが、日本企業における多様化を進める第一歩となるのではないだろうか。