総合休日出勤が当たり前のノルウェー、それでも生産性は高まる
「休日出勤」と聞くと、心底憂鬱になる人は多いだろう。ところが、世界を見渡すと休日出勤が当たり前の国がある。北欧のノルウェーだ。ではノルウェーの人々は憂鬱な気持ちで、休日出勤をこなしているのかと言えば、そんなことはない。むしろ、休日出勤してまで働くことで、「生産性が高まる」と思い込んでいる。
そんな事実を知ったのは、ワークスアプリケーションズが主催した「日本・ノルウェーの働き方に関するメディアセミナー」でのことだった。このセミナーで、同社が実施した「日本及びノルウェーのオフィスワーカーを対象とした『働き方』に関する意識調査(*1)」の結果が、公表されたからだ。
何はともあれ、調査結果を見てほしい。まずは、休日出勤の頻度に関する調査結果だ(図1)。
ノルウェーでは休日出勤の頻度が高い。頻度が1カ月に3日以上になる回答者は、日本の6%に対してノルウェーは27.5%と、全体の4分の1以上を占めている。
日本人の感覚からすると休日出勤は、「任された仕事が平日のうちに終わらず、仕方なくこなすもの」というマイナスイメージが強い。このため、休日出勤が多い働き方は生産性が低いと考えがちだ。図1の調査結果で日本人の休日出勤が少ないのは、こうした背景があるからだろう。
その感覚から言えば、ノルウェーの働き方は生産性が低いということなる。では、ノルウェーの人々は自分たちの生産性について、どう感じているのか?その疑問に応える調査結果が、次のグラフだ(図2)。


「休日出勤が多い」にもかかわらず、ノルウェーの人々は勤務先や自分自身に対して、「生産性が高い」と感じているのだ。
むしろ日本人のほうが「休日出勤がほとんどない」にもかかわらず、「生産性が低い」と感じてしまっている。これは一体、どういうわけか?それを解き明かすのが、次の2つの調査結果である。
休日出勤が多くても生産性が高まる環境を整備
まず1つは、勤務先がリモートワーク(働く場所をオフィスに限定しない働き方)を認めているかどうかの調査結果(図3)。
ノルウェーではリモートワークを認めている企業が、日本よりも圧倒的に多いことが分かる。
続いて2つめの調査結果は、労働形態に関するものである(図4)。
ノルウェーでは、労働時間を自己裁量で決められる「フルフレックス」や「フレックス」が、労働形態の主流になっている。
実は、ノルウェーではリモートワークと柔軟な労働形態が一般的で、それゆえに働き方が日本とは根本的に異なっているのだ。ノルウェー企業の日本市場進出を支援している、在日ノルウェー商工会議所専務理事のミカール・ルイス・ベルグ氏が、ノルウェーの1日の働き方を、こう紹介してくれた。
「8時に出社して仕事を始め、昼の30分だけランチ休憩をとる。ランチ後は16時まで仕事をして、その日は帰宅。帰宅後は家族のために時間を使うが、22時になったら自宅のパソコンに向かい、リモートワークで30分から1時間ほど仕事をこなす」
リモートワークの環境が整っているおかげで、自宅でも会社と同じように仕事ができるのである。しかもフレックスを採用しているので、1日24時間という枠の中で、どの時間帯に仕事するのかを自由に決められるのだ。
ノルウェーでは「休日出勤=出社」ではない
働く場所も時間帯も自由に決められるノルウェーでは、「休日出勤」といっても日本とは働き方が大きく異なる。例えば、こんな1日の働き方がある。
「金曜日。週明けの会議で使うプレゼン資料がまだ完成していないが、この日は15時30分と早めに帰宅。その後、家族旅行に出かけて週末を子供たちと一緒に過ごす。子供たちが寝付いた後は、自宅から持ち出したノートパソコンを起動。週明けに使うプレゼン資料を、リモートワークで作成する」
ノルウェーで休日出勤が多いのは、日本のように仕事が平日のうちに終わらなかったからではない。仕事以外に使う時間を作り出すために、敢えて平日の勤務時間を短縮し、短縮した分を休日出勤で補っていたのである。
しかも、休日出勤と言っても「出社」するわけではないのが、ノルウェー流の働き方だ。リモートワークの環境が整っているので、家族と一緒に過ごしているその場所で、仕事をこなせる。
「ノルウェーが、現在のような働き方をするようになったのは、仕事と生活の調和、つまり『ワークライフバランス』を重視する考えが定着しているからだ」と、在日ノルウェー商工会議所専務理事のミカール・ルイス・ベルグ氏は説明する。
日本でワークライフバランスが進まない2つの壁
日本でも、ワークライフバランスを重視した働き方への転換は、だいぶ以前から言われ続けてきた。だが、今なお生活よりも仕事を重視する傾向は強く、図2の調査結果を見ても分かるとおり、生産性は低いままだ。一体何が壁になっているのか?調査結果が報告されたセミナーでは、有識者によるパネルディスカッションが行われ、この壁が議論の1つになった(写真1)。大きくは2つの壁が立ちはだかっている。
まず1つめは、勤務時間をきちんと管理すべき法制度になっていること。日本の労働基準法では、社員の勤務時間をきちんと管理することが求められる。ところが、フレックスやフルフレックスという柔軟な労働形態を採用すると、途端に勤務実態を正確に把握するのが難しくなる。
2つめの壁は、日本人の気質とも言える集団主義が、働き方にも根付いてしまっていること。集団主義ゆえに増えるのが会議だが、プロジェクト進捗報告といった単なる情報共有のための会議も多く、必ずしも生産性の向上につながっていないのが実態だ。
働き方を選べる環境を作るためには、まずやってみる
いずれの壁も、日本では働き方の根幹にかかわることで、簡単には乗り越えられそうにない。だが、既にリモートワークを全社導入し、週1~2日出社するだけで業務が回せるようにした企業もある。リクルートホールディングスだ。同社の働き方変革推進室室長である林宏昌氏は、「議論する前に、まずはやってみてほしい」と話す。
「どう働きたいかは、社員一人ひとりで異なる。それを議論して統一的なものにしようとするのは無理がある。まずはやってみて、良し悪しを洗い出す。悪いことについては、僕らがやってみた感覚では、ITの活用や業務設計の変更で乗り越えられる」(林氏)。
確かに、ライフワークバランスと一言でいっても、何にどう時間を使いたいかは人それぞれだ。社員の数だけあるライフワークバランスの一つひとつにフィットした働き方を構築することなど、到底できない。「働き方を自分で選べる、あるいは自分で組み立てられる環境」を作るしかないのだ。そのためには、林氏が指摘するとおり、まずはやってみることが重要といえるだろう。
ちなみに、リクルートホールディングスは、2015年12月に社内の人事規定を変更している。在宅勤務規定を撤廃し、新たにリモートワーク規定を設けた。これにより、社員は上限なくリモートワークできる体制が整った。リモートワーク導入後のアンケートでは、9割の社員が「満足」と回答したという。生産性への効果については、「高まった」の回答が半数を占めた。