総合「連合」は労働者のために今、何をしているのか 神津里季生「連合」会長 × 山本一郎 特別対談
6月某日、東京・御茶ノ水の連合(日本労働組合総連合会)本部。神津里季生会長を山本一郎氏が訪ねた。労働者の関心が高まっている「社会保障」の諸問題について、連合の考え方や取り組みを聞くためだ。特別対談その1をお届けする。
山本一郎(以下、山本):いよいよ7月10日を投票日とする、今年の参議院選挙が始まります。選挙に向けて、改めて連合(日本労働組合総連合会)の政策パッケージを確認したのですが、すごくまともなことを主張してらっしゃいますよね。これが世の中にあまり知られていないのはもったいないと考え、今回、神津会長にお話をうかがおうと思ったんです。

1956年、東京生まれ。1979年、東京大学卒業後、新日本製鐵に入社。新日本製鐵労働組合連合会会長、日本基幹産業労働組合連合会委員長などを歴任。2013年から連合事務局長を経て、2015年、第7代連合会長に就任。(写真:菊池くらげ、以下同)
神津里季生(以下、神津):ありがとうございます。労働組合は地道な活動を続けてきた組織なので、アピールが弱いところがあるんですよね。そもそも連合が何をしているのか、世間には知られていないのではないでしょうか。
山本:たしかに「連合」という組織については、政治に詳しくない国民にはあまり知られていないかもしれません。労働組合の親玉、まとめ役ぐらいの認識が主でしょうか。
神津:私たちは、「働くことを軸とする安心社会の実現」を目指して、それを支える社会保障制度と税制改革のトータルビジョンを策定し、実現に向けた取り組みを進めてきました。
山本:そこをもう少し噛み砕いてご説明いただきたいと思うのですが、ここで仰る「働くことを軸とする安心社会」とは、どういう社会のことを指すのでしょうか。
働くことを軸とした5つの「安心の橋」とは
神津:働くことにもっとも重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと、多様な働き方を通じて参加できる社会。そして、社会的、経済的に自立することを軸とし、それを相互に支えあい、自己実現に挑戦できる、セーフティネットが組み込まれている活力あふれる社会です。

1973年、東京生まれ、1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。東京大学と慶應義塾大学で設立された「政策シンクネット」では高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントも行う。
山本:誰であれ、働かずに生きていくことはむつかしいですから、働くこと、働き方に価値を置いて、生活や社会、人生の大事なこととして改善に取り組んでいくのは必要なことですよね。ちょうど低成長時代になって、連合が果たしている機能は、今の日本社会で足りない部分を具現化していますよね。ブラック企業、非正規雇用の増加、待機児童、介護問題など、日本が現在抱えているさまざまな社会問題は「働くこと」と不可分ではない。
神津:そうなんですよね。それらの多岐にわたる問題を解決するための政策パッケージとして、連合では働くことを軸とした5つの「安心の橋」というものを提唱しています。1つ目の橋は、教育と働くことをつなぎます。貧困の連鎖を断ち切り、学ぶ場から働く場へ円滑に移行できる制度を確立するというものです。2つ目の橋は、家族と働くことをつなぎます。これは、子育てや介護を社会全体で支え、男女平等参画社会を構築するための政策です。3つ目の橋は、雇用と雇用をつなぐ、つまりライフステージに応じた柔軟で働きがいのある仕事に就ける環境を整備する、ということです。4つ目は、失業から就労へつなぐ。職業紹介や職業訓練、所得補償などの一体的な支援で、復職をサポートします。
山本:今の日本社会だと、1回職を失うとレールから外れてしまって、再就職が難しかったり、仕事に就けても不安定な雇用条件でしか雇ってもらえなかったりしますからね。いろんな調査がありますが、不本意非正規もそれなりの割合いますし、大学卒業して正社員になれなかった子たちが、ある程度歳を経て、キャリアを積んだ後で正社員になろうと思ってもなかなか見つからない、というのが現実だったりもします。
神津:そういう状況を変えていきたいんです。そして5つ目が、生涯現役社会をつくる、退職後と働くことをつなぐ橋です。高齢者の知識や経験を社会に活かし、老後の安心を保証する制度を構築します。これらの政策を実現するために、労働者の代表として審議会で議論をしたり、法案策定に携わったりしているのが連合の活動です。
景気回復より社会保障。国民の意識が変わりつつある
山本:今って、若い労働者が組合活動に積極的に参加しないですよね。むしろ、労働組合の活動が煩わしいとか、面倒くさいという声は耳にします。それは彼らにとって、組合費を払う代わりにどういうメリットがあるのかなかなか見えないからだと思うんです。でもこうした連合の政策を聞くと、まさに自分たちに必要な政策を実現しようとしていることがわかる。また、現状抱えている職場の悩みが、連合の持っているノウハウで解決できる部分もたくさんある。
神津:そうですね。労働相談ダイヤルには、セクハラやパワハラ、賃金未払いなど、さまざまな悩みが寄せられています。そうした相談には法的な面も含め、解決策を提示しています。新たに労働組合をつくり、労働者の権利を主張していくということもありますね。

山本:そういう組合活動に対するお考えも踏まえて選挙の話に戻るんですが、最近の調査では有権者が選挙候補者に期待することとして、1位に社会保障がきているんですよね。
神津:これはいい傾向だと思います。以前はだいたい、景気回復など経済対策がトップでしたから。
山本:日本人の考え方も変わってきているのだと思います。しかし、社会保障の財源になるはずだった来年4月の消費税引き上げが、先月、再延期されてしまった。もちろん、増税の是非についてはいろんな議論はあろうかと思います。ただ、どんな政策をやるにも財政の裏づけは必要で、その財源がないからと、セーフティネットは引き下げられ、給付型奨学金など育児や教育関連の政策も後回しになってしまっているのが実情です。本当に必要なところに、お金がまわらない仕組みになっています。
神津:安倍首相は、足元の景気を支えるための経済対策として、10兆円規模とも言われる補正予算をつけると言っています。でも本当の意味での「経済対策」というのは、その先送りされている社会保障に、10兆円を使うということだと思うんですよ。
山本:2年半後には消費税の引き上げを実行すると言われていますが、おそらくそのタイミングでも上がらないでしょうね。消費税が景気を中折れさせて税収改善には繋がらないという議論も出ていますし、いわゆる「アベノミクスの出口戦略」のないまま、今回の選挙でも何となくアベノミクスの看板をちょっとずつ下げていっているという印象があります。
神津:難しいですよね。経済がパッとしないのはたしかにそうですが、いつになったら増税可能なくらいパッとするのかと。この状況でGDP600兆円なんていう目標を掲げること自体が、確信犯的ミスリーディングです。いつか経済がよくなる、という錯覚を与えている。
山本:どこまでいっても、経済が右肩上がりするという幻想から抜けられないんですよね。もちろん、できる経済政策はきちんと打った上で、なおゼロ成長、低成長なのは少子高齢化が進む以上仕方がないのですが、新産業ビジョンはここ何年も派手に打ち出し続けても経済全体を上向かせるほどの成果は出ていないのが気になります。

ないがしろにされた「社会保障と税の一体改革」
神津:もはや、経済は縮小していくことを前提にして、そうした時代の成長とは何かという議論をするべきなんです。この部分を唯一リカバリーできたのが、2012年の、民主党・自由民主党・公明党の三党間において取り決められた三党合意でした。
山本:社会保障と税の一体改革ですね。財政を立て直し、国の中でどうお金を回すか真剣に考えた上での、政治的決断でした。けれど、蓋を開けてみればすべては先送りになり、問題は解決しないままです。社会保障費は2013年度末に全体で110兆を超え、そのうち国庫負担は44兆円にのぼり、本来ならばこの財源をどうするかという議論をしないといけません。しかし当面はモルヒネを打つように、アベノミクスをやり続けている。歳入は硬直化していて、公債残高を日銀が引き受けることでなんとかしてしまっている。必要な政策を打ち続けないと経済が失速するという理屈は分かりますが、本来の肝であった税の一体改革は、どこにいってしまったのでしょうか。
神津:三党合意で決めたことを先送りするのは、やってはいけないことです。社会に対する約束をやぶるということですからね。連合の会長として思うのは、我々としてはやはり政策が命だということ。政治というと、どうしても政局や政争といったところに焦点が当たりがちなのですが、政策をないがしろにすることだけはやめてほしい。そこは、各政党に粘り強く訴えかけていくしかないですね。
山本:ここは勘違いされがちだと思うのですが、連合って政治団体だと思われていたりしませんか? 特に、民進党(旧民主党)とのつながりが強いので、野党勢力の中心支援団体のように見えているのではないかと。
神津:そうなんです。ここではっきりさせておきたいのですが、我々は政治団体ではないんですよ。たしかに主張している政策の内容は、民進党が一番近いので民進党と連携しています。でも、自民党をはじめとするいろいろな党にも、私たちの政策を話しに行っていますし、それらの政党にも私たちの考えに賛同してくださる議員の方はいらっしゃいます。基本的には自分たちの持っている政策をもとに、そこに協力してくれる方々とコミュニケーションをとっていくという方針です。
(次回へ続く)