女性雇用女性の上司のほうが脅威に感じる!?女性管理職の増加で試される男性社員の意識変革
政府の主要な議題にもなっている“女性活躍”政策だが、アメリカでは着実に女性がリーダーを務めるビジネスが増えているという。
■女性が運営するビジネスが全米規模で増加
女性オーナーによる事業所、あるいは女性経営者による企業の数が増えていることが、米国女性ビジネス協議会(National Women’s Business Council)の調べで明らかになっている。2007年に比べて、2012年の時点で女性が運営するビジネスが全米規模で28.8%増加しているということだ。そのうちの90%は個人経営のビジネスであるという。女性の経営リーダーが増えている一方で、独立、起業する女性もまた増えているということになる。
米・ウェストバージニア州クラークスバーグを拠点する情報サイト「The Exponent Telegram」の記事では、3人の女性ビジネスリーダーを紹介している。
ウェストバージニア州内の優れた小規模ビジネスパーソンを表彰する「2016 Small Business Person of the Year」に輝いた女性ビジネスリーダーのアリア・ハイネスさんは、ITサービス会社の「Allegheny Science and Technology」社のCEOである。2009年に創設された同社の共同創立者に加わっていたハイネスさんだったが、周囲の協力のもとで経営の中心人物となって同社の業績を伸ばし、その後CEOの座に就任したということだ。
同じくITサービス関連会社の「MPL Corporation」の女性社長であるリンダ・ウェリングスさんは、最初は同社に週2日勤務の秘書として働きはじめたという。それまでは専業主婦であったウェリングスさんが働きはじめた理由は、子どもたちに手がかからなくなって何かはじめてみたいというシンプルなものであった。
最初はクリスチャン教育に携わりたいと考えたそうだが、ポジションに空きがなかったこともあり当面は同社でパートタイム勤務をすることにしたのだ。しかし働きはじめてすぐ、ウェリングスさんに多くの仕事が集まりフルタイム勤務となった。実は同社のオーナーは優秀なビジネスリーダーに会社を譲渡することを考えていたようで、なんとパート入社から1年目のウェリングスさんが、同社の資産を買収するかたちで経営権を譲られることになり社長に就任したのだ。
ウェリングスさんは大学で経営を学んでいたこともあり、その素地はあったともいえるのだが社長就任後は、ウェスト・バージニア・ウェスレヤン大学に通いあらためて経営を学びなおしたということだ。そして同社は順調に業績を伸ばし、ウェストバージニア州から表彰を受けるほどにまで注目を浴びている。
医療の世界でも女性CEOが誕生している。ワイオミング州ウェストンにある「ストーンウォール・ジャクソン・メモリアル病院」の女性CEO、アバハ・ストルネイカーさんは、大学卒業後に同病院で看護師助手として働きはじめたのがキャリアの第一歩だ。「当時私は正規の看護師になることを望んでいましたが、まさかCEOになるなんて夢にも思っていませんでした」とストルネイカーさんは語る。
同病院で医療についてさまざまなことを学び、正規の看護師になったストルネイカーさんには病院運営の補佐を任されるチャンスが巡ってきたということだ。病院運営に携わりながら再び大学に通いヘルスケア管理の修士課程に進み、知識と経験を同時に深めていったという。そして病院運営スタッフとしても昇進を重ね、CEOにまでのぼり詰めて今年で3年半になるということだ。
女性リーダーの紹介記事ではあるのだが、社会に出てからも“学び続けること”の重要性が強調されることにもなった。男性のビジネスパーソンにとっても大いに参考になる話だろう。
■女性リーダーが企業収益を15%向上させた
文化的背景、人種など多様なメンバーで組織を構成すべきであるという“ダイバーシティ”が叫ばれているが、それでも企業は基本的に組織づくりにおいても利益を追求していることはいうまでもない。したがって気になるのはこれまで男性がリーダーだった組織が、女性リーダーに変わった場合、組織にどのような影響を与えるかという点だろう。そもそもそう考えること自体、ある意味では女性差別に繋がるものとも言えるのだが、アメリカですら現状ではまだまだ男社会であるビジネス文化において、現状ではどうしても気になるところだ。そして今年2月に興味深い研究が発表されている。女性のビジネスリーダーの存在とその会社の業績には強い関係があるというのだ。
米ワシントンのNPO、ピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)によって、世界91カ国、2万1980社を対象に行なわれた調査によれば、まだまだ現在の企業社会は“ダイバーシティ”に欠けていることが浮き彫りになった。約60%の企業で女性の役員がおらず、50%の企業で女性の経営幹部がいないということだ。逆に女性CEOを擁する企業はまだ全体の5%にすぎないという。国別で最もビジネスの現場に女性リーダーが占める割合が高かったのがノルウェーで、アメリカは中間の位置にあるという。そして残念ながらもっとも女性のビジネスリーダーが少ないのが日本で、女性は会社役員の2%、経営幹部の3%を占めているにすぎないという。
まだまだ企業社会に“ダイバーシティ”が求められていることが明らかになったわけだが、同時に興味深い報告も提示されることとなった。最高経営責任者クラスの役職において、それまではまったく女性がいなかったいくつかの企業が、女性の比率を3割にしたところ企業収益が15%向上したというのだ。この収益向上が何によってもたらされたのかはまだわからないが、組織の生産性が顕著に向上したわけではないということだ。しかしながら研究では女性幹部の増加と、企業収益の向上には統計学的に確かな結びつきがあると結論づけられている。
企業収益を増やす女性ビジネスリーダーの“秘密”については解明されていないものの、いくつかの指摘が挙げられている。ひとつは、男社会にはない女性ならではの“人脈づくり”である。男社会ではゴルフや接待などが人脈づくりとして重視されているが、女性ならではの守備範囲で重要人物や相手企業と接触し“パイプを繋ぐ”ことができているのではないかと考えられるのだ。これまでの男性中心の企業文化では“盲点”といえる人脈づくりの手法だけに、まだまだ開拓の余地があるのかもしれない。
今回の研究を主導した同NPOのマーカス・ノーランド氏によれば、女性の“算数”得意さも挙げられるのではないかということだ。小学生時代においては、概して女子のほうが算数の成績がよいため、実は男性よりも商売に向いているのかもしれないのだ。高等教育の数学ではなく、臨機応変な“算数”の能力が経営のリーダーとしての大きなアドバンテージになっているのではないかということだ。ともあれ、特に日本などでは今後の企業文化の“ダイバーシティ”の推進が急務の課題であることは間違いないだろう。
■男性の上司よりも女性の上司のほうが“脅威”に感じる!?
組織の文化多様性の充実、そして女性活躍社会に向けて現在さまざまな努力が行なわれているが、そんな流れに少しばかり(かなり!?)水を差す研究が昨年発表されている。男女平等参画社会の実現のためには、男性の側にもかなりの意識改革が要求されていることが指摘されたのだ。
イタリア・ミラノのルイージ・ボッコーニ商業大学の研究チームが昨年、社会心理学系学術誌「Personality and Social Psychology Bulletin」で発表した研究によれば“男性らしさ”の持つ力の行使は、女性への理解がある男性ですら気づかぬうちに行なっており、現状で大半の男性陣が持つこの“性質”を変えるのはほぼ不可能という、かなり絶望的な報告が発表されたのだ。いったいどういうことなのか?
実験では、大学生76人(男子学生52人、女子学生42人)に、自身がサラリーマンになったと想定して賃金交渉をコンピュータシミュレーションで行なってもらった。その際、賃金交渉相手が男性マネジャー、女性マネジャーの2つのパターンでシミュレーションを行なった。そして交渉後に、それぞれの交渉でどのような印象を受けたのかについて、コンピュータ画面上に表示された単語を選ぶかたちで質問を受けたのである。
男子学生のシミュレーション結果が興味深いものになった。男子学生が男性マネジャーに対して要求した賃金(年棒)が平均で4万2870ドル(約472万円)なのに対し、女性マネジャーを相手に交渉した場合、4万9400ドル(約544万円)と強気の交渉に出る者が増えたのだ。一方、女子学生はマネジャーが男性であれ女性であれ、約4万1346ドル(約455万円)と性別によるい違いはなかったという。
男子学生が女性の上司に対して、女性差別的になって強気な態度に出ているのかといえばそう話は単純ではなく、交渉の印象を探った質問で、男子学生は男性の上司よりも女性の上司に対して脅える気持ちが強く、ナーバスになっているという分析結果が導き出された。つまり男性の上司よりも女性の上司のほうが“脅威”に感じるため、その反動として強い自己主張を行なうというのだ。
続く2つの実験ではさらに男性の女性上司に対する“敵意”が浮き彫りなる結果で、もし男性社員に臨時ポーナスを配分する権利が与えられた場合、敏腕な女性上司には分け前を少なくする心性が働くというなんとも理不尽(!?)な実験結果となったという。男性陣はかくも女性上司が大嫌いだったのである。そして最後の砦とばかりに“男らしさ”を笠に着て女性に対して優位に立とうとする男性の“習い性”は、人類の歴史の中で培われてきたものであって、おいそれと無くすことはできないというのだ。男性にとっては耳の痛い話ではないだろうか。
「もし男性陣のこの態度が変わらないとするならば、組織とうまく調和するためにも、女性上司はもっと周囲に従順にならざるを得ず、あまり仕事上の野心を見せないように務めなければなりません」と、研究を主導したエカテリーナ・ネチャーエフ助教授は語る。そしてこの女性上司と男性社員の“対立”は職場の組織に悪影響を与えるものにもなりかねないということだ。
とはいえ、有能な女性に高い地位を与えて企業経営を活性化していくという各国政府の基本方針が揺らぐことはないだろう。労働力不足が叫ばれている中ではなおさらである。“女性活躍社会”は女性の努力以上に、男性の側にいかに意識の変革ができるのかが試されていると言えそうだ。