総合ホワイト企業はなぜ労務管理がしっかりしているのか?
「ホワイト企業」と呼ばれる優良企業は、労務管理が行き届いているケースが多いと言われています。それはなぜなのでしょうか?社会保険労務士の筆者が、ホワイト企業の労務管理がしっかりしている理由についてご説明します。
ブラック企業、ホワイト企業とはどんな会社か?
「ブラック企業」「ホワイト企業」という言葉に明確な定義はありませんが、“法律を守っているかどうか”がポイントになります。
一般的にいわれるブラック企業とは、社員への待遇が酷く、明らかに「労働基準法違反」をしている企業のことです。労働者を酷使し、大量採用、大量離職という特徴も見受けられます。
一方、ホワイト企業は労働基準法等、労働諸法令を順守していて、労働者を大切にしている企業といえます。入社後の福利厚生がしっかりと整っていて、入社した社員の離職率が低いという特徴があります。
離職率、時間外労働時間数、有給休暇取得率を判断基準の参考に
ブラック企業かホワイト企業かを見分ける判断基準としては、離職率、時間外労働時間数、有給休暇取得率が挙げられます。
離職率が高い(入社3年以内で15%以上)、時間外労働時間数が多い(月平均45時間以上)、有給休暇取得率が低い(平均取得率が年間10日以内)などの傾向がブラック企業には多くみられます。ただし、時間外労働が多いこと、有給休暇取得率が低いことについては、成長意欲が強く、仕事が好きでやる気に満ち溢れている人が多い会社という場合もあるかもしれません。一概にそれだけでブラック企業と判断するのは難しいでしょう。
一方、ホワイト企業は、離職率が低く、時間外労働も少なく、有給取得率は高い傾向にあります。
日本企業は始業時間には厳しく、終業時間にはルーズな傾向があると言われることがありますが、度を超えるとブラック企業に該当するのではないでしょうか。ホワイト企業では、終業時間の管理もしっかりしていて、時間内にしっかり成果を出すことが求められます。
ホワイト企業は固定残業代(みなし残業)を導入していないことが多い
「固定残業代(みなし残業代)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、固定残業代とは、「残業代があらかじめいくらと固定されている賃金」のことです。
例えば、契約書に「基本給は15万円、固定残業手当5万円、残業代は固定残業手当に含む」と記載されていた場合、残業があってもなくても残業手当は固定なので、固定残業手当はもらえます。問題なのは、どんなに長時間残業しても、この固定残業手当5万円しかもらえない場合です。
先に申し上げておきますと、このやり方は違法です。残業手当を固定残業手当として支払うこと自体は違法ではありませんが、その固定残業手当は何時間分の残業手当なのか、あらかじめ決めておく必要があります。
例えば、月20時間分の残業が固定残業手当に含まれている場合、実際に行った残業が月20時間を超えた分からは固定残業手当とは別に、新たに時間外労働手当(残業代)が支払われなければならないのです。
長時間の残業を固定残業手当に含めてしまえばいい、と考えるブラック企業もあるかもしれませんが、100時間分の残業を5万円の固定残業手当とするようなことはできません。時間外手当(残業手当)は1時間当たりの給料(時給換算額)に1.25倍以上割増した賃金を支払わなければならないとされています(※)。また、1時間当たりの給料が最低賃金を下回ってもいけません。このように、固定残業代を導入するとしても様々な法令の制約を受けます。
ブラック企業は「違法な固定残業代」を手当として導入していることが多い一方、ホワイト企業では固定残業代という制度を導入していることが少なく、導入していたとしても、あらかじめ固定された時間の枠を超えた時間外労働(残業)に関しては、別途時間外労働手当(残業代)を支払う、という制度が整えられています。
ホワイト企業は事業主による職場情報の提供を行っている(若者雇用促進法)
若者雇用促進法の各施策が平成27年10月より順次施行され、平成28年3月1日より事業主による職場情報の提供が義務化されました。コンプライアンス意識の高いホワイト企業ではいち早くこの法令に対応し、新卒者の募集を行う企業は、応募者等からの要求があった場合、以下の3つの職場情報の情報提供を行っています。
提供する情報:
1.募集・採用に関する状況(過去3年間の新卒採用者数・離職者数、平均勤続年数など)
2.職業能力の開発・向上に関する状況(研修の有無及び内容、自己啓発支援の有無及び内容など)
3.企業における雇用管理に関する状況(前年度の月平均所定外労働時間の実績、前年度の有給休暇の平均取得日数など)
企業には情報提供の義務がありますので、応募先企業の離職率や時間外労働時間数、有給休暇取得率について問い合わせれば、回答してもらえます。ただし、待遇ばかり気にしていると悪印象を与えないよう、質問の仕方には気を遣いましょう。
ホワイト企業が行っている労務管理の特徴とは?
それでは、ホワイト企業が行っている労務管理とはどのようなものなのでしょうか?筆者が社労士として関わった優良企業の特徴を見ていきましょう。
① 就業規則や労務管理書類がきちんと整備されていて、社員にも周知されている
社内のルールである就業規則や、法定3帳簿(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿)がきちんと整備されていることはホワイト企業の特徴です。就業規則は、社員に周知されて初めて効力を有するものになるので周知が徹底されていることが多いといえます。そして、就業規則はただ単に作って周知するだけでなく、社員が安心して働けるよう、社員のモチベーションを下げない内容になっています。公平な評価による、公平な処分の規定が盛り込まれています。
② 給与形態が明確である
賃金規定(給与規定・賞与規定)がきちんと整備されていて、社員も納得のできるものとなっていることが多いです。どのような働き方をして、どこに向かって努力を積み重ねれば評価され、それがどのように給与や報酬に反映されるかを明確にしているといえます。
③ コンプライアンスを徹底している
ホワイト企業は、法令順守(コンプライアンス)を徹底しています。コンプライアンスを徹底することは結果的に会社を守り、従業員を守り、会社が健全に発展することと知っているため、コンプライアンス意識が高いのです。
④ 長期的な視点に基づいて人材採用・育成を行っている
短期的な視点での大量採用・大量離職では、常に新しい人の採用や教育に時間やお金が取られ、結果多大なコストがかかってしまうものです。ホワイト企業では長期間働いてもらうことを前提に、人材採用・育成を行っていて、社員教育や研修制度が充実しているので、社員をスキルアップさせる仕組みが整っています。
⑤ 専任の人事労務担当が社内にいる
ホワイト企業では、専任の人事労務担当が社内にいることが多く、従業員が安心して働ける環境づくりや従業員満足度アップのための施策を行っています。何か困ったことがあれば、社内の人事労務担当に相談できるというのも一つの安心材料です。また、社内に専任の人事労務担当がいないとしても、社外の専門家(社労士等)に委託をしているケースが多く、人事労務管理に関するコンプライアンス意識が高いことも特徴に挙げられます。
労務管理をしっかりすることによって企業側にもメリットがある
コンプライアンス(法令順守)を守ることにより、従業員の安心・満足度が高まり、社員のモチベーションアップに繋がります。モチベーションがアップすると、行動的になって前向きに仕事に取り組めるので、生産性も向上します。この3要素を押さえることで、企業側にもあらゆるメリットが生まれるのです。
たとえば、社内ルールを明確化し生産性が高まることで、働きやすい環境になる、労使トラブルを未然に防げる、といったメリットがあります。そして働きやすい環境があれば、社員のモチベーションの維持・向上につながるので、人材のリテンションと企業の永続的な発展が望めます。また、コンプライアンスを遵守することは、企業のイメージアップになるので、優秀な人材を新たに確保することも可能です。
まとめ
労務管理をしっかり行うホワイト企業は、長期的な視点に立って経営を行っています。労働者側が働きやすい環境を整えることで、企業へのロイヤリティが高まり、結果的に企業側のメリットにもつながっているのです。労務管理が徹底される会社ほど、経営が安定し、優秀な人材を多く輩出しているといってもよいでしょう。転職活動をする際に、労務管理の観点をひとつの判断軸にしてみてはいかがでしょうか?
※参考:法定時間外手当(残業代)の計算方法
残業時間数×時給に換算した単価×1.25
⇒1.25を下回ることはできませんが、上回る数値であれば問題ありません。