総合ついに表面化した潜在的労働力不足
前回、人口についてもう一度書いてみようと考えた一つの理由は、人口構造の変化は「確かな未来」における「確かな課題」であるにもかかわらず、それが解決に向かっているどころか、むしろ深刻化しているように見えることだ、と書いた。今回はこの「人口問題の深刻化」という点について述べてみたい。
これも前回述べたことだが、私は、人口構造の変化を考える時のポイントは、生産年齢人口(または労働力人口)が減少し、それが全体の人口に占める比率が低下する「人口オーナス」だと考えている。人口オーナスの下では、多くの課題が表れるはずだが、それは現実の経済社会の各面において次第に色濃く表れてきている。
人口オーナスがもたらす5つの課題
現在進行中の「人口オーナス下の経済・社会」では、次のような5つの課題がほぼ必然的に表れる。人口オーナスの度合いが強まりつつある中で、その5つの課題は、解決されないままどんどん深刻化しているというのが私の現状診断だ。順番に説明しよう。
第1の課題は、働く人の数が減ることによって成長が制約されることだ。「人口オーナス」とは、働く人が絶対的にも、相対的にも減少することなのだから、これは自明のことだ。この点は、アベノミクス下の景気回復が続く中で労働力不足問題として顕在化しつつある。この点については後でもう一度述べる。
第2の課題は、国内貯蓄が減少することによって投資が制約されることだ。人口オーナスになると、勤労世代が相対的に減り、高齢世代が増える。人生のライフサイクルと消費・貯蓄行動を考えると、勤労世代は「貯蓄をする人」であり、高齢世代は「貯蓄を取り崩す人」である。すると、人口オーナスが進めば必然的に経済全体の貯蓄率は低下する。貯蓄の減少は国内投資の制約要因となり、生産性の上昇を妨げることになるだろう。
この国内貯蓄の減少は既に相当進行している。OECDのEconomic Outlookの巻末に掲載されているStatistical Appendixによると、日本の家計貯蓄率は、1998年には9.4%だったのだが、その後みるみる低下し、2014年にはなんと0.6%にまで低下すると見込まれている。ほとんど貯蓄率ゼロの世界だ。貯蓄率には多くの要因が作用するが、人口オーナスの進展による勤労世代の減少・高齢世代の増加がその最も大きな要因であることは間違いない。
第3の課題は、年金・医療・介護などの社会保障制度が行き詰まることだ。日本の社会保障制度は、基本的には、現在働いている人々が、現在の高齢者に対する給付を負担するという「賦課方式」を取っている。何度も言っているように、人口オーナスというのは、人口に占める働く人の割合が低下することである。すると、人口オーナス状態では、社会保障を負担する人が減って、給付を受ける高齢者が相対的に増えていく。すると必然的に賦課方式の社会保障制度を維持することは難しくなるのは当然のことだ。
これはもうずいぶん前から分かっていたことであり、その対応の方向も明確だ。払う人が少なくなって、受け取る人が増えるわけだから、対応策は、払う人の負担を増やすか、受け取る人の受益を削るしかない。しかし、依然として有効な対策がとられるには至っていない。まさに「確かな課題」であるにもかかわらず対応していない典型的な問題だ。
第4の課題は、地域が疲弊することだ。地域で人口オーナスが進むと、地域の働き手が少なくなるため、地域の活力が衰えることになる。前回述べたように、人口オーナスの程度は、従属人口指数(非生産年齢人口/生産年齢人口、これが高いほどオーナス度が大きい)によって見ることができるのだが、都道府県別にこの従属人口指数の状況を見ると、概ね発展性の高い都市部(東京、神奈川など)で人口オーナスの度合いが低く、発展性が低い地方部(島根、秋田など)でその度合いは高い。
こうした発展性の格差は、発展性の低い地方部から発展性の高い都市部への生産年齢人口の移動を引き起こす。すると、地方部の人口オーナスはますます加速してしまう。つまり、人口オーナス度合いの差が発展性の格差を生み出し、その格差が人口移動を引き起こすことによって人口オーナスの地域差をさらに大きくし、それが発展性の格差をさらに拡大させるという悪循環が生じているのである。
こうした地域の疲弊現象は、最近、増田寛也氏を中心とする日本創成会議の「人口減少問題検討分科会」が、「提言 ストップ少子化・地方元気戦略」という報告の中で、地域の人口推計を明らかにして一躍話題になった。増田氏らのグループは、このシミュレーションを踏まえて、2040年には全市町村の29%に当たる523の市町村が「消滅可能性の高い」状態となるという衝撃的な推計を明らかにしている。私に言わせれば、これはまさしく人口オーナスがもたらす悪循環によるものであり、このまま行けば本当にそうなるだろうと思う。
そして第5の課題は、民主主義が機能不全に陥ることだ。人口オーナスになると、有権者に占める勤労者の比率が低下し、高齢者の比率が高くなるので、高齢者寄りの政策が実行されやすくなる。いわゆる「シルバー民主主義」である。人口オーナスの下では社会保障経費が増大し、大きな財政負担となるのだが、シルバー民主主義は、その財政再建や社会保障制度改革を阻害することになる。
このシルバー民主主義も、まさに現在進行中の大問題である。例えば、年金については、インフレ時には給付を引き上げるのだから、デフレで物価が下がったら給付を切り下げるのが当然なのだが、特例としてそれが行われてこなかった(2013年10月と14年4月で解消)。また、医療についても、70~74歳の医療費は、後期高齢者医療制度の創設に伴い、2008年度から自己負担割合を2割に引き上げる予定だったが、制度発足直前に1割に凍結してしまった(2014年4月から新たに70歳になった人から2割負担に引き上げ)。いずれも政治が高齢者の票を失うのを恐れたからだ。全くシルバー民主主義そのものである。
大労働力不足時代へ
こうした5つの課題の中で、以下では、最近特に問題が明瞭になってきた労働力問題に即してもう少し追加的に述べておこう。
まず、人口オーナスそのものの進行について概観すると、日本の生産年齢人口のピークは1995年の8730万人で、その後は一貫して減少を続けており、2013年(10月1日現在)にはついに7900万人となった。この点は最近、「32年ぶりに生産年齢人口が8000万人割れ」と大々的に報道されたので(4月16日各紙)、印象に残っている人も多いだろう。生産年齢人口が全人口に占める比率も、同じ期間で69.5%から62.1%に低下している。
少子化傾向が変わらなければ、こうした生産年齢人口の減少はこれからも続く。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2012年1月)によると、生産年齢人口は、2030年に6770万人(人口の58.1%)、2050年には5000万人(同51.5%)へと減少していく(出産・死亡中位)。
この生産年齢人口を使って人口オーナスを説明すると、しばしば「なぜ15歳から64歳と区分するのか」「65歳以上でも働けるではないか」といった質問を受ける。確かに、(私みたいに)65歳以上でも働いている人は多いし、生産年齢人口でも働いていない人は多い(学生や専業主婦)。
しかしもともと、生産年齢人口というのは、単に年齢で区分しただけの数字に過ぎない。「15歳から64歳」という区分を使うのは、それが国際的な定義だからで、全く便宜的なものだ。生産年齢人口が64歳までだからといって、定年をそれに合わせる必要はないし、その定義を使っている人が「働くのは64歳までとすべきだ」と考えているわけではない。
このことは、仮に生産年齢人口ベースで人口オーナスが進展しても、労働力人口ベースでは人口オーナスはそれとは違った動きを示す可能性があることを意味している。つまり経済にとって問題なのは、生産年齢人口ではなく、労働力人口なのだから、生産年齢が減っても、女性や高齢者の労働力率を引き上げて、労働力人口の減少を抑制することによって、経済的影響を相当緩和できるということである。
同じような議論をすると、生産年齢人口の定義を変えて、生産年齢人口を増やしても、それによって労働力人口が増えるわけではない。経済財政諮問会議の下に設けられた「選択する未来」委員会では、50年後を見据えた経済社会の在り方を検討しており、最近その中間整理を発表した。
その中で、「これまでは15歳以上から65歳未満までを生産年齢人口と捉えてきたが、過去10年余りの期間で高齢者の身体能力は5歳程度若返っていることを踏まえれば、70歳まで働く人(新生産年齢人口)と捉え直し、仕事や社会活動に参加する機会を充実させていく」と提案している。
しかし、もともと生産年齢人口と労働力人口は別物なので、新しい定義をしたからといって労働力が増えるわけではない。生産年齢人口の定義がどうであれ、働く意欲と能力を持っている人ができるだけ働けるような場を準備していくことが重要なのである。
そこで、労働力人口の推移を見ると、1998年の6793万人をピークに減少し続けてきており、2013年は6577万人となっている。15年間で216万人も減ったことになる。
私は、『人口負荷社会』(日経プレミアシリーズ)を書いた時、今後はどう転んでも労働力は不足するはずだと考えた。その部分を述べた章のタイトルを「大労働力不足時代へ」としたことからもそれが分かるだろう。しかし、現実には労働力不足は発生しなかった。逆に、若者の雇用情勢が悪化し、政府は雇用機会の確保に腐心する状態が続いた。これは、人口面から労働力の供給は減っていたものの、経済実態面から労働力の需要がもっと減ったからである。つまり、表面化はしなかったものの、潜在的な労働不足要因は常に底流として、次第にその勢いを増しながら流れ続けていたのである。
その潜在的労働力不足は、ここにきてついに表面化してきたようだ。日本の景気は、アベノミクス登場の2012年11月頃から回復しつつあるのだが、その中で雇用情勢はかなり急速に改善しつつある。2012年10月には4.1%だった失業率は、2014年3月には3.6%に低下し、0.82倍だった有効求人倍率は1.07まで上昇してきた。
こうした中で女性労働力や外国人労働力の活用策などが急遽議論され始めたが、泥縄的だとの印象を免れない。いずれも長期的な課題に対する構造的な政策としてもっと早くから準備しておくべきことであった。
この労働力不足問題に象徴されるように、これから日本の経済社会では、人口構造の変化によって生み出される諸問題が次々に、いろいろな形態をとって噴出してくるだろう。それは、経済社会の底流として、人口オーナスという流れが、次第に勢いを増しながら確実に流れ続けているからなのだ。