新卒「離職率10%未満」ホワイト企業だけの会社説明会、就活生の心に刺さったか
経団連に加盟する大手企業の会社説明会の解禁(3月)から選考開始(6月)までのスケジュールが昨年に比べ2カ月短くなった今年の新卒採用。一方で中小企業にとっては学生と接触する時間も削られるため、採用担当者からは「説明会に学生を呼び込むだけで一苦労」とぼやく声も聞かれる。そんななか、離職率の低さや休暇の取りやすさなど労働環境が良い中小企業を集めた合同企業説明会が大阪で開かれた。ブラック企業ならぬ“ホワイト中小企業”のラブコールは学生たちに響くのか。(石川有紀)
離職率に注目
「僕らがあこがれたシャープが経営危機になるなんて、大手だって何があるかわからない。うちは中小でも、若いうちから活躍できて、成長性もある」
「うちは公共事業の入札が多いから、高いレベルの法令順守が求められる。限りなく“ホワイト企業”を目指している」
3月中旬、企業ブースに集まった学生たちを前に、採用担当者がざっくばらんに「働きやすさ」をアピールした。大阪労働局が主催した一風変わったこの企業説明会の名称は「離職率が低い業界・企業研究会」。大阪の中堅・中小企業40社が集まり、平成29年春卒業予定の学生に就職を呼びかけた。
違法な過重労働やパワーハラスメントなど労働問題を抱える「ブラック企業」は、就活生が避けたい企業として、インターネット上の噂も絶えない。今回の企業説明会はこれとは逆の発想で、離職率を指標として労働環境改善に取り組んできた“ホワイト中小企業”の採用を後押ししようという初めての試みだ。
企業の参加資格は、直近3年度の新卒採用者の離職率10%未満▽週1回以上のノー残業デー実施▽前年度の平均残業時間が20時間以下-などでいずれかを満たすこととした。このため、説明会でも有給休暇や育児休暇の取りやすさ、繁忙期の残業の程度など、普通の就職活動では学生が聞きづらい実態を重点的に説明する企業担当者が多くみられた。
BtoB優良企業も
この説明会が開かれたのは平日の午後にもかかわらず、約120人の学生が参加した。知名度が低くても「働きやすさ」の看板で良い学生が来るのだろうか。そんな疑問を学生にぶつけてみると、意外にも堅実な答えが返ってきた。
メーカー事務職を希望する奈良女子大の学生(21)は「BtoB(企業間取引)の会社は普段知ることがないので、視野が広がった。女性の育休や産休も熱心に説明された」と話した。この日は3社のブースに足を踏み入れたという。また大阪教育大大学院で学ぶ中国人留学生(25)は「大勢の学生がスーツで大企業を目指す日本の就活は不思議だった。中小でもグローバル進出している企業もある」と情報収集に熱心だった。
中小企業にとっては新卒採用は厳しい状況が続く。背景には少子化もある。さらには景気回復に伴い、働く人の数に対して企業などが求める働き手の数が上回っているため、人手不足になっている。つまりは中小まで人材が行き渡らないのである。昨年は、経団連の選考解禁時期が8月に後ろ倒しになった影響で、大手企業の内定を得た学生たちの中小企業への内定辞退が相次いだ。その結果、新年度ギリギリまで追加選考をする企業もあった。
今年は選考解禁が6月に早まったものの、中小企業の間には「大手の選考を待っていては、良い学生を確保できない」との焦りがある。早い段階でより多くの学生と接点を持つため、昨年よりも合同企業説明会や大学での会社説明会に多く参加する企業もあるが、「応募以前に学生に話を聞いてもらうのにも一苦労」という状況だ。
「内定多めに」
就職情報サービスのマイナビの29年卒の大学生を対象にした調査によると、学生の就職観のトップは文理男女を問わず「楽しく働きたい」(前年比2・3ポイント減の29・9%)。最近はワークライフバランス(仕事と家庭の両立)への意識も浸透しているため「働きやすさ」への関心は高いとみられる。ただ、売り手市場が続くなか、大手志向の学生も増えている。「絶対に大手企業」と「自分のやりたい仕事であれば大手企業」と回答した学生は前年比5・5ポイント増の48・4%と、中小企業には厳しい状況が続きそうだ。
大阪労働局が開いた今回の説明会に参加した大手空調機メーカー子会社は、28年の新卒採用で計画の8割程度と苦戦した。採用担当者は「親会社と両方内定を得て、結局親に行ってしまうこともある」と大手企業グループならではの苦労を語る。今年は計画数より多めの内定者を確保して、内定後の懇親会や研修で「結びつきを強めたい」と策を練り直す。また、28年新卒の内定者の半数が辞退してしまったという道路機械メーカーの採用担当者は「今は仕事もプライベートも充実させたいという学生が多い。まずは会社を知ってもらい、より多くの応募者を獲得したい」と強調した。
6月には大手企業の選考が解禁される。学生たちの「働きたい」企業に中小が名を連ねるには、発信力をどう高めるかが課題になってくる。
