「週3日勤務」で社員も企業もハッピーに?

総合「週3日勤務」で社員も企業もハッピーに?

平日働いて土日休む、いわゆる週5日勤務が変わりつつある。ユニクロを運営するファーストリテイリングは昨秋、約1万人の正社員を対象に、週4日勤務を導入した。日本IBMは、週3日勤務を含む短時間勤務制度を導入している。一方、リクルートは「社内起業」という形で社員の兼業を推し進める。「兼業禁止」ならぬ「専業禁止」を掲げる企業まで登場した。このように思い切った「働き方」革命は、社員と企業に何をもたらすのか。三菱総合研究所の江崎さんに解説してもらった。

年間休日140日、「ホウレンソウ」禁止…「日本一社員が幸せな企業」のマネジメント術

 未来工業の創業者・故山田昭男氏(2010年8月撮影)

未来工業の創業者・故山田昭男氏(2010年8月撮影)

  現在、日本の多くの企業では、就労日数や時間によって社員の業務を管理している。しかし、社員の時間を縛るマネジメントには限界も見える。一方で、社員を信頼し、自律性を尊重することは、個人の創造性と生産性を最大限に引き出す可能性を秘めている。それが、社員と組織の成長を促すことにもつながる。

 例えば電気設備資材や管材等を製造・販売している岐阜県の中小企業「未来工業」をご存じだろうか。「日本一社員が幸せな企業」として知られるこの企業は、社員を大切にする社風や、タイムカードでの就労時間管理をしないなど、独自のマネジメントで有名だ。社員へのノルマや細かい管理は一切ないにもかかわらず、業績は常に安定し成長を続けている。

 その理由はどこにあるのか。給料は地域でも上位、年功序列、全員正社員、70歳定年制、制服なし、企業負担の海外旅行……。ユニークな制度の数々とともに、メディアで幾度となく紹介されるのが、創業者・故山田昭男氏の言葉だ。「社員をやる気にさせる」「社員に気持ちよくしっかりと働いてもらう」。これが作業の能率を上げる秘訣ひけつという。

 成果主義や能力主義を嫌って「評価」はしない。そのかわり、「常に考える」ことを徹底させる。単なるホウレンソウ(報告、連絡、相談)は禁止。社員自らが考えた改善提案を推奨し、自分で成果を出すことを求める。こうした社員の自由な発想、自主性と自律性を尊重することにより成長を促し、組織としての創造性を保ち続けている。

 また、就労時間が短いことも特徴だ。年間休暇140日、1日7時間15分勤務で残業は原則禁止。残業を前提にすると仕事が間延びするため、定時で終わることを前提にすれば、効率もチームワークも向上するという考えだ。社員が「常に考える」仕組みを取り入れることによって、他社との差別化を図りながら高付加価値の製品を生み出し、労働時間の短さをものともせずに成功を収めている。

「専業禁止」の企業も…兼業・副業のメリットとは

 兼業や副業がもたらすメリットは?(写真はイメージ)

兼業や副業がもたらすメリットは?(写真はイメージ)

 日本の多くの企業は、社員を業務に専念させるため、副業の禁止や許可制とする就労規制条項を設けている。副業禁止は、いわば長時間労働の拘束と企業への忠誠心の要求だ。就労時間以外の個人の時間は自由とする欧米企業とは対照的に、個人は企業に尽くし、企業が社員の生活すべてを囲い込む。そんな労働環境は、就職ではなく就「社」とも言われた日本の雇用システムの中で当然視されてきた。

 ところが10年ほど前から、マスメディアで兼業・副業が肯定的に取り上げられる機会が増えてきた。背景には、就労時間短縮による副業機会の増大、キャリア展開を求める若者の増加、本業収入の低下による補填ほてんの必要性の高まりなど、複合的な要因がある。

 社会経済環境の変化に伴い、企業と社員の関係も変化してきた。低成長時代の中で、社員を囲い込んで雇用を保障することは難しい。むしろ副業を認める代わりに本業の時間を短縮して集中してもらうことにより、組織を身軽にさせるという戦略をとる企業が増え始めたのだ。

 社内起業も「兼業」の一つの形だ。「リクルート」(東京都)は以前から社内起業を積極的に推し進めている。企業は優れた人材を育てて世に送り出し、送り出された社員は有望なビジネスパートナーとなって企業に貢献する。

 また、オンラインショップ等の事業を手掛ける「エンファクトリー」(東京都)は、「兼業禁止」ならぬ「専業禁止」を掲げて、社員の兼業を推奨している。副業の内容を社内でオープンにすることを前提に、複数事業の掛け持ちを奨励している。実際に、社員の半数以上が別の働き口を持っている。副業のために本業の仕事を減らすことはできないが、就労時間中に副業を行うことは禁止されていない。

 結果、副業の比率が高まって退職する社員もいるが、退職後は同社の「フェロー」の名刺を持つことが認められており、会社との関係を維持したまま独立できる。退職後も協業、情報交換をして企業と緩やかにつながることで、企業も優秀な社外人材に仕事を依頼できる。

 こうした例から、「兼業」を持つことは、個人にとっても、企業にとってもメリットがあると知られるようになり、今後の展開が期待されている。

 兼業のメリット

兼業のメリット

給与はどうなるか

 個人が働き方と給与体系を自分の意思で選択できるようにすることが、モチベーションの維持・向上につながる(写真はイメージ)

個人が働き方と給与体系を自分の意思で選択できるようにすることが、モチベーションの維持・向上につながる(写真はイメージ)

 では給与はどうなるだろうか。兼業を認めたり、出勤日数や勤務時間を個人の裁量に任せたりした場合でも、業務内容と量(あるいは求める成果)を軽減しないのであれば給与は同等であるはずである。冒頭に挙げたユニクロのような変形労働時間制は、同じ40時間を4日間に割り当てるもので労働時間の縮減ではない。

 一方で、例えば勤務日数を週5日から3日とし、実質的な業務が6割になれば、単純に考えて給与も6割となる。ここで重要なのは、個人が働き方と給与体系を自分の意思で選択できるようにすることである。時間の使い方と収入のバランスは、個人の価値観や判断に委ねられるべきではないだろうか。

 例えば「サイボウズ」(東京都)では、それぞれの社員が勤務時間(3段階)×場所(3種類)=9種類の働き方が設定されており、ワークスタイルごとに想定されるアウトプットに応じて給与のレンジが異なっている。個々の社員は自らのライフスタイルに合わせて、働く時間、場所、そして給与のレンジを選択する。

 働き方の自由度が高まり多様になると、それに見合った評価や処遇の仕組みも必要となる。社員の納得性が高く、モチベーションを維持・向上させる処遇のあり方が模索されている。

勤務日数が減れば、地方が元気に?

 勤務日数や就労時間の短縮で、ライフスタイルが変わる可能性も(写真はイメージ)

勤務日数や就労時間の短縮で、ライフスタイルが変わる可能性も(写真はイメージ)

  週の前半は東京で働き、後半を地方で暮らすといったライフスタイルが注目を集めるようになっている。勤務日数や就労時間の短縮が進めば、こうした生き方もさらに広がるだろう。定年後に地方へ移住して余生を送るというシナリオではなく、現役世代のうちから複数の活動拠点を行き来して地域コミュニティーに関わり、地方創生に貢献することも可能となる。

 また、時間を拘束されない働き方や短時間勤務を前提とした働き方は、あらゆる人々にとって自分に合った就労形態を選べるようになる。働き方が柔軟になれば、シニアや女性をはじめとする潜在的労働力の活用が促進される。また、より生産性の高い業種に労働力がシフトし、社会の活性化につながる。

「週3日勤務」が生む、優秀な社員

  冒頭に紹介した未来工業の1か月の実働時間を計算すると135.9時間になる。厚生労働省の毎月勤労統計調査による同業種の平均値166.5時間と比較すると、週5日でフルタイムを前提とする勤務形態でありながら、企業に拘束される時間が1年間で367時間(約15日)も少ない。

 たとえば「週3日勤務」のように一つの企業で働く時間が短くなる、あるいは企業による束縛や干渉を受けず就労時間を自分で決めることができるとしよう。あなたは、それ以外の時間を何に使うだろうか。他の企業で働く、勉強する、家族や友人と過ごす、趣味に没頭する、地域コミュニティーの一員として活動する……。もちろん企業でさらに働き、その道を究める、という選択肢があってもよい。

 未来工業創業者の故山田氏は「(社員には)自分の好きなことに時間を使ってほしい」「自分の時間を大切にしてほしい」と語った。企業が定める就労時間の制約がなくなる、または小さくなることは、企業からの自立を意味する。選択権が自分にあるならば、自らの時間の使い方すなわち生き方をデザインする意欲と実現する力を持たなければならない。自由にはある種の厳しさが伴っていることも忘れてはならない。

 副業を規制し、就労時間外までも社員を縛るという企業のマネジメントは過去のものとなるだろう。社員のやる気、生産性、創造性を最大限に引き出すマネジメントの根底にあるのは、企業と社員の信頼関係といえる。副業、兼業の奨励も同様であり、企業は社員を信頼して、その自律性を尊重する。企業には、人材を成長させる機会の提供と自律性の高い社員を引きつけてつなぎとめる魅力、すなわち個人の力を引き出す仕組みが必要となる。

 企業に依存せず、主体的に考え行動できる多様な価値観を持った人材が集い、自律的に働くことができる組織こそが、創造力を発揮し、時代の変化に応じて変革し続けることができるのではないだろうか。