経済復活に避けて通れない「柔軟な雇用制度実現」

総合経済復活に避けて通れない「柔軟な雇用制度実現」

金融、財政、構造改革に関する施策を通じて日本経済を再生させる努力を3年にわたって続けながら、アベノミクスはいまだに日本人を長期にわたるデフレマインドから脱却させることに成功していない。これはなぜだろうか。

その理由の一つは、経済成長の重要な推進力である個人消費がいまだに伸び悩み、消費者マインドが低迷していることである。消費者マインド低迷の理由は何だろうか。最も重要な要素を指摘するとすれば、筆者は雇用システムにあると考える。

低い生産性と高コストな年功序列型労働システムを抱えるなか、政府の旗振りにもかかわらず、企業は大幅な賃上げや正社員雇用への投資に消極的だ。

企業はその雇用ニーズを満たすため、パートタイマーや契約社員、派遣社員など、いわゆる非正規労働者への依存を深めている。全労働者の4割近くを占めるこれらの労働者は、一般に正規雇用の労働者よりも低賃金で、雇用も保障されていない。フルタイムで勤務しながら、生活するのがやっとという人も少なくない。

 安倍政権の誕生以来増加した雇用の大半が、そうした条件下での雇用だ。高水準の有効求人倍率にもかかわらず、賃金があまり上がらない理由もここにある。その点からみれば、消費者マインドが低い理由は容易に理解できる。

硬直化した雇用システムがもたらすマイナスの影響は他にもある。現状日本では、リスクは高いが成長が期待できる新興企業が、優秀な人材を確保することは、簡単ではない。必要な人材を確保できないため、資本をなかなか呼び込めないという悪循環がある。

最大の課題は「ジョブ型正社員」の導入

こうした状況を打開するにはどうしたらよいだろうか。

安倍晋三首相は、労働市場の改革をアベノミクスという政策のパズルにおける要のピースだと認識している。

生産性の向上のため、女性の労働参加の拡大を重視しているのは、周知の事実だ。また、金融など特定分野におけるいわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入する規制緩和法案を提出している。

 さらに首相は今年の初め、雇用契約形態にかかわらず、同一の職務に対して同一の賃金が支払われるべきだとし、「同一労働同一賃金」を促進する措置の導入を明言している。

これは数多くの非正規労働者の労働条件を改善する重要な取り組みである。だが、企業が非正規労働者への賃上げを埋め合わせるため正規雇用労働者の賃金を減らすだけに終わる、といった意図しない結果を避けるよう、政府には慎重な対応が求められる。

パートタイムや契約社員で働く人々との懇談会で、出席者の発言を聞く安倍晋三首相(右)=2016年3月8日、藤井太郎撮影
パートタイムや契約社員で働く人々との懇談会で、出席者の発言を聞く安倍晋三首相(右)=2016年3月8日、藤井太郎撮影

 こうした努力はいずれも適切なものだが、何といっても最大の課題は、正規雇用システムにおける柔軟性を高め、職務や勤務地、勤務時間を限定する「ジョブ型正社員」を企業が雇いやすくすることだろう。

リストラ時の解雇手当を決めておく制度も

議論されているアイデアのひとつが、企業再編等に伴う、いわゆるリストラ時に支払う可能性が生じる解雇手当をあらかじめ決めておく新しい任意労働契約の導入である。これにより、企業にとっては正社員を雇用するコストの予測可能性が高まり、非正規雇用の正社員化の流れを後押しすることにもつながろう。

雇用制度を変革することも大事だが、より広い視野に立つと、リスクをとって起業することやイノベーションの重要性に対する社会の認識を変えていくことが、必要である。

このため、政府には、企業経営に関する学校教育を充実させるなどの努力を強化することが求められているが、残念ながらこの分野で日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国内で最下位となっている。

2015年11月25日付の毎日新聞東京夕刊
2015年11月25日付の毎日新聞東京夕刊

 リスクテークが報われ、生産性と実績に応じた報酬が得られる、より柔軟な労働環境を日本で実現させるまでの道のりは険しい。しかし、日本が将来に向けて持続的な成長を実現するには、避けて通れない道のりである。