総合(アベノミクス「分断」の現場:中)非正規、求人増えたけど給料は…
横浜市内の女性(34)は昨年8月、近くの介護施設のデイサービスでパートとして働きはじめた。
1日8時間のフルタイム勤務で週休2日。腰痛もちの体で、車いすに乗ったお年寄りに肩を差し出してトイレに座らせたり、リハビリのため一緒に体操をしたりする。お年寄りを送って記録をとると、あっという間に終業時間だ
。残業することもあるが、それでも月収は手取りで11万~12万円ほどだ。
5歳の長男と暮らすシングルマザー。自身の服はもっぱら数百円のセールもの。長男の楽しみはマクドナルドでの食事だ。いつも、おもちゃのおまけがついたセットメニューを頼み、ケチャップを口のまわりにつけながら、ハンバーガーをほおばる。「ママも食べる?」と笑顔を向けられると、思わずうつむく。
「かわいそうな思いをさせているな、息子の友だちはいつも食べているのかな、とつい考えてしまう」
いまの職場はハローワークで探した。介護の求人がたくさんでてきて「人手不足なんだ」と驚いた。ところが、正社員待遇など条件がいい職場は、働く時間が長男の保育園の送迎時間と重なったり、夜勤があったりして選べなかった。
もともと介護は希望した仕事だし、この仕事にやりがいを感じてもいる。ただ、「せめて手取りが20万円あれば」と思う。長男は来年、小学生になる。いまの悩みは「ランドセルを買ってあげられるかな」。
高齢化に伴って、ホームヘルパーやケアマネジャーなど介護関連は、人手不足が続く職種の一つだ。2月の職業別の有効求人倍率(パートを含む常用労働者。季節調整値とは異なる)は2・86倍で、全体の1・23倍を上回る。
一方で、介護の働き手は非正規が約4割。税金や保険料を差し引く前の月収は22万円と、産業全体の33万円を下回る。政府は月1万2千円相当の賃金アップにつなげる加算金を設けたが、まだ水準は低い。
結婚した男性が、給料が低いため家族を養えないと転職することもあり、介護業界では「寿退社」と言われている。神奈川県の介護施設の関係者は「ハローワークに半年ほど求人を出し続けても、応募がこないことがある」とあかす。
有効求人倍率(季節調整値)が24年ぶりの高水準となるなど、アベノミクスのもとで雇用指標は数字では改善している。ただ、それは介護関連が押し上げている面がある。
■正社員との格差是正、企業は慎重
働き手の暮らしをどう良くするか。アベノミクスによる「経済の好循環」をめざす安倍政権は、企業に賃上げを促し、個人消費の拡大につなげようと、労使が話し合う場に介入した。いわゆる「官製春闘」だ。
過去最大の金融緩和や円安の効果で企業の業績は改善し、この3年は賃金を底上げするベースアップがある程度実現した。ただ、その恩恵は大手の正社員に偏り、非正規や中小・零細にまで広がっていない。
政権は非正規の待遇改善をうたい「同一労働同一賃金」の実現も打ち出したが、企業は慎重だ。連合は昨年末、暮らしの底上げをテーマにした集会を東京・日比谷で開き、「格差問題がこれだけ拡大している世の中をどう立て直すか。社会全体の問題という意識を持たねばならない」(神津里季生会長)と呼びかけた。非正規が期待する有期から無期への転換など「安心して長く働ける職場環境」への道筋づくりは、これから始まる。
首都圏で暮らす40代の女性は派遣会社の契約社員として大手証券で働いていたが、2015年8月、突然、雇い止めを告げられた。社員向けのパソコンのトラブル対応窓口で20人の担当者を束ね、重い負担がかかり、元々悪かった体調がさらに悪化。診断書を会社に提出した直後のことだった。
生活は一気に困窮。収入が途絶え、電気やガスが止められた。非正規が加入できる労働組合が派遣会社と交渉し、傷病手当を受けられるよう計らってくれた。生活保護も受け、何とか生活した。「体調を崩して落ちた穴は、思った以上に深くて暗かった。働けないと冷たく放り出されるのが非正規なんだと、身にしみた」
消費増税や社会保険料の引き上げなど負担増は続く。国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費も、実質では政権交代前より低い水準だ。
