「セカンドキャリア」という前向きな非正規雇用も実は多い

総合「セカンドキャリア」という前向きな非正規雇用も実は多い

政府は「非正規雇用労働者の正社員転換・待遇改善に向けた取組」を経済団体や企業等に要請しました。非正規労働は、「(正社員と比べて)雇用が不安定、賃金が低い、能力開発の機会が少ないといった課題がある。希望や意欲・能力に応じて正社員への転換・待遇改善を強力に押し進めていくべき」という見解からです。

1990年以降における、日本の雇用環境の特徴的な変化と言えば非正規社員の増加ですよね。それ以前の非正規社員は学生のアルバイトや主婦のパートタイマーが家計の補助的に稼ぎを担う存在に過ぎませんでした。

日本の非正規雇用のあり方はこの25年で大きく変わっています

 

そんな状況に変化をもたらしたものを振り返ると、2つ思い出すことができます。

1つ目はフリーターです。「フリー(英:free)」に、ドイツ語のアルバイター(独:Arbeiter)を連結した「フリーアルバイター」の造語として登場。坂本龍馬が激動の幕末の時代に脱藩し、夢のために生き続けたように、補助的でなくそれなりに働き稼ぎながら、自由で独立心のあるワークスタイルとして誕生しました。1987年には、リクルート社のアルバイト情報誌「フロムエー」がその名の認知度を大きく広げました。

当時の仕掛け人となったのが、フロムエーの編集長であった道下裕史氏。学校を卒業してすぐ会社に就職するのではなく、アルバイトをしながら、「作家になりたい」「映画監督やカメラマンを目指そう」などと夢に向かってがんばっている人に対する応援の意味も込めて命名されたようです。

そして2つ目が派遣社員。当初(1986年)は、労働者派遣法で通訳、航空機操縦士、プログラマーなど専門技術を持つ者のみが対象でした。その後は規制緩和で徐々に業務が拡大。さらに対象業務を原則自由化。人材派遣を専門的に行う会社に登録する人材が劇的に増えました。

以上、この2つの動きは非正規社員を劇的に増やすこととなりました。そして、2015年に非正規社員の比率が4割に達したことがわかったのです。

2015年11月4日に厚生労働省が発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、非正規社員が占める割合が初めて全体の40%に達しました。1990年には20%だった(総務省「労働力調査」)ことを考えると、25年間で倍増。さらに男性で非正規社員割合の推移をみていくと、1984年の7.7%から2014年には21.8%上昇。「非正規社員=学生、女性のワークスタイル」ではなくなりました。

ちなみにネット上では、非正規社員を生み出す今の社会構造は「貧困層の増加を加速させた元凶」「非正規社員になると正社員への道は閉ざされる」といったネガティブ意見が大半。非正規社員になった理由を問うと、

「正社員になれないから、仕方なく非正規社員で働いているのです。このような状態になったのは社会が悪い。政府に問題がある」

と、話す方が多いかもしれません。

実際、正社員になれずに困窮、なんとか正社員になる道を模索している人はたくさんいます。取材した20代コンビニ勤務のNさんは、アルバイトとして働いて10年以上が経過。店には正社員が1人もいません。おそらく、このまま働いていたら一生正社員にはなれません。

Nさんが学生時代に就職活動をしていた時期は求人倍率も低く、希望していた食品メーカーは1社も採用をしていなかったとのこと。そこで、学生時代にバイトしていたコンビニでの仕事を卒業後もしているのが実情のようです。正社員で勤務した経験がないので、このまま非正規社員で働きるしかない…とあきらめの境地に至っている状況です。

最近では、ニュース番組でも「急増する中年のフリーター」を題材にした特集をよく見かけます。飲食業界でフリーターとして勤務している30代後半の方は年収250万円ほど。生活はギリギリで貯金をする余裕はないそう。引っ越しやビラ配りのアルバイトをかけもちして年収300万円という、まもなく40歳の男性は、結婚は無理だとあきらめているという話を番組の中でしていました。Nさんのような方は、決して珍しくないのです。

4つのタイプに分かれる非正規雇用

さて、非正規社員はNさんのように正社員に「なりたくてもなれない」人が大半なのでしょうか。非正規社員として働く理由に注目してみましょう。

一般的には本当は正社員になりたいが、なれないため非正規社員で働く「不本意型」が多いと思われています。ところが、必ずしもすべての方がそうとは言い切れないようです。総務省の調べ(「最近の正規・非正規雇用の特徴」)によると、不本意型は僅か2割。残りの8割は、時間の都合のつけやすさや家計の補助を得ること等を理由として非正規雇用を選択しています。

ちなみに、前向きに非労働力人口で就業を希望する人が多いのは35~44歳の女性とのこと。では、男性はどうでしょうか。リーマンショック後に景気が急激に悪化した2009年は、正規・非正規雇用共に減少し、雇用者全体(正規・非正規雇用者の合計)も減少。それ以降は非正規社員も増え続けています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの分析では、「非正規雇用」は4つのタイプに分けられるとそうです。

タイプ(1) 24 歳以下/男女 :主に「学生バイト層」
タイプ(2) 25~54 歳/女性 :主に「主婦層」
タイプ(3) 25~54 歳/男性 :不本意な就労が多い「中年フリーター層」
タイプ(4) 55 歳以上/男女 :退職者を含む高齢者の「セカンドキャリア層」

増加傾向が明らかなのはタイプ(4)。1990年代から3倍近くの伸びを示しています。高齢化の進行を背景に、1990年代半ば以降、55歳以上の非正規雇用者が急速に増加。さらに、「改正高年齢者雇用安定法」の施行を受けて、2006年4月以降、定年の引き上げや継続雇用制度の導入といった措置がとられ、定年に達した後の雇用者を嘱託などの非正規で雇用する動きが進んだことも、タイプ(4)の非正規雇用者数を押し上げています。

タイプ(4)の非正規雇用者679万人のうち、男性が44%、女性が56%で、男性では清掃や自動車運転などの従業者が多い一方、女性では飲食物の調理や介護といったサービスの職種に就く人が多いとのこと。

もちろんタイプ(3)も増えました。フリーターがブームだった頃に20歳前後だった世代が、そのまま非正規として働き続けたことで増加。以前であれば、働き盛りとされる25~54歳男性はほぼ全員が正規雇用に就いていました。しかし、近年では本来のフリーターの定義から外れる「中高年フリーター」として勤務しているのです。

こうした不本意な層とセカンドキャリアを謳歌している層が混在している状況にもかかわらず、一緒くたに「非正規雇用の問題」を議論するのは相応しくありません。非正規社員として働く様々な人たちの状況や事情を十分に理解し、行政も企業もそれぞれの人たちが幸せに働けるように議論すべきです。

それができて初めて、非正規社員として働くことを不本意に思っている方々に、ふさわしい対策が取れるようになるのではないでしょうか。