元ブラック役員はどうやって「社員が17時に帰る会社」を作り上げたか

総合元ブラック役員はどうやって「社員が17時に帰る会社」を作り上げたか

離職率100%企業での経験が原動力

昨年来、違法労働を行う企業に対する風当たりが強さを増しつつある。ABCマート、ドン・キホーテが違法長時間労働の疑いで厚生労働省内に設置された過重労働撲滅特別対策班、通称カトクに摘発され、ワタミの過労自殺訴訟の和解では初の懲罰的慰謝料が認められた。カトクによる摘発、ワタミが受け入れた厳しい和解条件は一罰百戒というべきもので、いかにブラック企業が社会問題化しているかを示している。

納得のできない労働条件、職場環境に対して、問題意識や責任感の強い社員ほど違和感を持つ。職場を選んだのは自分の責任、仕事をこなせないのは自分の責任だと考え、懸命に折り合いをつけようとするが、不信感がオーバーフローしてしまった瞬間、その会社で頑張り続ける意欲が消失してしまう。こうして、心が折れて退職するケースは言うに及ばず、過労に伴う突然死、自殺に追い込まれてしまうことすらある。

長時間労働、パワハラなどで心身をすり減らし、やむなく会社を辞める社員が後を絶たない。某大手アパレルチェーンでは過酷な研修、恒常的な長時間労働を指摘する声が多く、希望を持って入社した人材が疲れ果てて退職するケースが相次いでいる。新卒を大量採用し使い捨てする企業などは、この上なく罪深い存在と言わざるを得ないだろう。

本書の著者は、従業員43人で年商75億円という高収益企業を経営する女性社長。自らがブラック企業の取締役だったという経歴の持ち主でもある。なんと離職率100%の会社で仕事をした経験を原動力に、長時間労働、残業をせずに収益を上げる会社を作り上げた。しかし、超ホワイト企業というべきいま現在の姿は一朝一夕で実現したわけではない。

業績を伸ばしていくために、残業・長時間労働は必要ない。本書はこの真理を実証しているが、社員が専念すべき仕事にあてる時間をいかに作りだすかを突き詰め、自前でやる必要のない業務は専門業者にアウトソーシングするなど、体制整備に取り組んだ。

トップの粘り強さが会社を変える

かつて、オリジナリティに富んだ製品を生みだしたパイオニアは、指名解雇という米国流の愚策を強行したことで社内の雰囲気が悪化し、それにつれて業績も下方線をたどった。会社をよくするも悪くするも、経営陣の考え方にかかっているのだ。

とはいえ、会社のカルチャーを改善していくためには、社長が粘り強く取り組むことが欠かせない。社員がどうすれば生き生きとして働くことができるか。その答えは簡単に見つからないからだ。著者が悩んだように、社員の求めるものは給与だけではなく、単に残業がなければいいというわけでもない。

コンサルタントなど外部の助けを借りながら取り組んできた、著者の試行錯誤の軌跡は、モチベーション理論の一つである、マズローの欲求5段階説を見事なほどにステップアップしたことに驚かされる。

すなわち、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、自己実現の欲求である。働きに見合った給料を得るのはもちろん、周囲に認められたい、自分自身の能力を高めたいといった社員の欲求を満たす環境を作り上げる。これが、脱ブラック企業を果たし、優良企業を作り上げる上で欠かせない条件といえるだろう。

著者が経営する会社は従業員が35人の時点で新卒の採用に踏み切り、社内の雰囲気が目に見えて改善したという。社員に成長してもらいたい、全員が存分に力を発揮してほしいという経営者の欲求がバックボーンとなっているが、著者自身の経営者としての成長の軌跡でもある。

安倍政権は一億総活躍社会の実現を政策課題として掲げているが、掛け声倒れに終わらせないためにも、民間の取り組みを大いに参考にすべきだと思われる。

 

『ほとんどの社員が17時に帰る10年連続右肩上がりの会社』岩崎 裕美子著 クロスメディア・パブリッシング