「肉食採用」に大胆転換、地方企業の胸の内 脱ハローワーク・リクナビ依存で何が変わる

総合「肉食採用」に大胆転換、地方企業の胸の内 脱ハローワーク・リクナビ依存で何が変わる

「手間をかけてでも、本気で採用力を強化したい」。そんなことを真剣に考える企業が、地方にどんどん増えている。

2月中旬、鹿児島市内にて地元企業8社が新しい人材採用企画をプレゼンした。「かごしま採用革新プロジェクト」の活動の一貫で、冒頭のような採用力強化を考える経営者や採用担当者が集まり、昨年10月から5回に渡るワークショップを重ね、各社の案を練り上げてきたものだ。

今、働き盛りの世代で地方への移住を考える人が増えている。地方への移住希望者と地方自治体のマッチングを行うNPO法人・ふるさと回帰支援センターによると、昨年は特に20代、30代からのUターンに関する相談が増加したそうだ。

17人中14人が内定辞退…ほとんど選考の余地なし

「採用革新プロジェクト」参加者の中にも、UターンやIターンで鹿児島に移り、いきいきと暮らし、働いている様子が伺える人たちがたくさんいた。

一方で、鹿児島の高校卒業者の県外就職率は、2014年に42.9%で全国1位。鹿児島といえば、西郷隆盛や大久保利通に始まり、最近では京セラ創業者の稲盛和夫や、バスケットボール漫画『SLAM DUNK』の作者・井上雄彦など、あらゆる分野における人材排出県である。教育熱心な土地柄でも知られるが、優秀な人材は県外に出ていく傾向があるようだ。

そんな中、地元の中小企業はなかなか欲しい人材を獲得できずにいる。プレゼン中、「今年の新卒採用では、17人に内定を出して14人が内定辞退。本当に悔しかった」と語る担当者もいた。聞けば、この会社ではハローワークや大学に求人票を出して応募者を待つというのが、これまでの採用方法だった。

新卒者は大学から紹介のあった学生の9割に内定を出すというような状況で、ほとんど選考の余地がない。紹介される学生側も「ぜひこの会社で働きたい」という思い入れがあるわけではないから、ほかに条件のいい就職先が見つかれば、あっという間に辞退されてしまうのだ。

真剣な面持ちでワークショップに取り組む「採用革新プロジェクト」の参加者

ほかの会社でも採用手段はハローワークや知人の紹介に限られることが多く、コストをかけるとしても「リクナビ」のような就職ポータルサイトに掲載するところまで。そうなると、たとえ魅力的なポストを用意しても多数の企業の中に埋もれてしまい、地方の中小企業は不利である。

今回のプロジェクトを運営する株式会社マチトビラの代表・末吉剛士さんは、このような採用方法を「従来型の横並びな“草食系採用”」と位置づける一方、このプロジェクトを通して「欲しい人材を自ら取りに行く“肉食系採用”」を生み出し、鹿児島発で全国の地方企業の人材確保に活路を開きたいと意気込む。

まず各社の企画に共通するポイントは、「欲しい人材」の明確化だ。10月に行われた初回のワークショップでは、講師の菊池龍之さん(株式会社コヨーテ 代表取締役)がそのことを具体例とともにレクチャーした。

その後、各社は採用したい人材の「ペルソナシート」を作成している。ここで言う「ペルソナ」とは、「こんな人に働いて欲しい、または一緒に働きたいと思う理想の人物像」のこと。イメージする人物について、職業的なスキルや経験だけでなく、年齢、性別、家族構成、趣味、価値観、ライフスタイルなど、かなり細かい「キャラ設定」を行ったのだ。

明確な「キャラ設定」から生まれたユニークな企画

「ペルソナシート」を作成すると、ハローワークや就職ポータルサイトに情報を載せ、応募者の書類選考をし、面接を経て採用を決める、という方法が必ずしも有効ではないことが見えてくる。

昭和14年創業の老舗である「下園薩男商店」の三代目・下園正博さんは、来年オープン予定の直販店でギフト部門の運営を担う人材を求めている。欲しい人材像として作成したのは、「芸大を出て東京の大手企業で働く25歳の独身女性」というペルソナだ。

当初は、近隣在住でデザイン関係の経験がある30代の女性を採用したいと考えていた。しかし、狭い地域でそのような条件に合う人がいればすでに知り合っているはず。しかしまだ出会っていないということは、見つけるのは難しいと気づき、もう少し若くても東京の企業で鍛えられた経験のある女性に目を向けたそうだ。

そこからどんな採用プランが導き出されたのか。ユニークなのは、採用広告やWebサイトなどで設定した人物の感性に訴えるようなメッセージを発信しつつ、同時に会社と地元の案内を兼ねた「観光就職ツアー」を実施するというアイデアである。

会社に興味をもってもらうことに成功したとしても、東京に暮らす若い女性がすぐに移住と転職を決断するのは難しいだろう。そのような「採用される側」の目線に立ち、会社や生活の場となる土地を知るための時間をじっくり取ってもらおうという企画なのだ。

「肉食採用」のプラン化のため、アイデアを蓄積

同じく県外で経験を積んだ人材獲得を狙うのが、鹿児島市でお茶の製造・販売を行う「下堂薗」。三代目の下堂薗元さんは、Uターンして鹿児島のために働きたいという人材を採用するために、「ふるさと納税」をもじった「ふるさと納”J”」という企画を立てた。

「ふるさと納”J”」の”J”は、“地元愛”の頭文字である。具体的には、6カ月間、遠隔で新規事業立ち上げの準備に関わってもらい、その報酬として毎月鹿児島の特産品や、鹿児島往復チケットを届けるというもの。

「人は面接では分からない」という思いから、時間をかけて候補者との相互理解を深める方法を考えていたところ、候補者は今の職場で副業を禁止されているケースも多いという意見を聞き、金銭的報酬ではなく特産品を送るというアイデアを思いついたそうだ。

このほかの会社からも、求人票を出して待つだけという方法を脱却しているのはもちろん、理想の人材に自社を知ってもらう、候補者と会社が理解し合う、といった目的のため、ある程度時間も手間もかける(しかしコストはそれほどかからない)創造的な案が多く発表されていた。

採用活動は、経営の見直しや広報活動につながる

今回のプロジェクトは、採用という課題を通じて各社の経営そのものを見直すきっかけにもなったようだ。ある経営者は、スタッフと1泊2日の合宿をし、会社のビジョンについてみっちり話し合ったという。

「採用活動は企業の広報活動でもある。効果的にやればかなりのPR効果も得られる」と講師の菊池さん。欲しい人材に伝えるべきメッセージを考えることが、会社の将来像の整理や現状の改善活動にもつながり、会社の個性や魅力を際立たせることにつながるのだろう。

発表者のひとりは「よくもこんなに活動的、意欲的な方々が集まったなと感じた」と、プロジェクトの印象を語った。参加した8社は業種も歴史もさまざまだが、発表者は一様に自社の未来に真剣に向き合う、愛社精神にあふれる人たちだった。半数は社長または次期社長という立場にあるので、愛社精神があって当然かもしれないが、残りの半数の人たちも「社長の人柄に惹かれて入社した」というようなケースが多い。

このプロジェクトに参加しているという時点で、前向きなエネルギーのある会社には違いなく、当然ながら鹿児島の企業がどこでも魅力的なわけではないだろう。そして魅力ある企業とて、「肉食採用」のプランを立てるだけでなく、実践していかなければ事態は何も変わらない。

地元に残って、あるいはUターンやIターンでやりがいのある仕事に就きたいと考える人たちと、企業とのマッチングがうまくいくのか。これからが正念場だ。