企業には、スター人材の採用も必要だが、 「有害人材」を雇わない努力も不可欠である

総合企業には、スター人材の採用も必要だが、 「有害人材」を雇わない努力も不可欠である

有能な人材を雇えば5000ドル程度の価値がもたらされるが、「有害な人材」を雇うと1万2000ドル以上のコストになる――HBSからこんな報告書が発表された。
スーパースター人材は、企業にとって執心の的である。引く手あまたの彼らは、最大の関心を寄せられ、最高のチャンスを与えられ、高額な報酬を手にし、挫折した時には自信を回復できるようケアされる。

このような特別待遇が適切なのかという疑問の声もあるものの、スター人材の影響力が並み外れて大きいことは明らかだ。ベイン・アンド・カンパニーの調査によれば、最も有能な人材の生産性は平均的な人材の4倍も高いという。他の研究でも、彼らは事業の利益の80%を生み出すこと、そして、自社に他の有能人材を引き寄せることが示されている。そうしたスター人材は、会社の全従業員の上位3%~20%を占める。

だが、ハーバード・ビジネススクールから最近発行された研究報告書によると、組織により大きな影響を及ぼしうる、別のタイプの人々がいるという。それは「有害な従業員(toxic workers)」である。

共同執筆者の2人、HBS客員助教ディラン・マイナーと、コーナーストーンオンデマンド(人材の採用・育成・管理をサポートする企業)の最高アナリティクス責任者マイケル・ハウスマンによれば、「有害な従業員」とは、有能で生産性は高いが、組織に害を及ぼす行為に関与する人たちを指す。両執筆者は、高いスキルを持つ従業員が組織に実質的な損害をもたらしたケースに着目した。セクシャルハラスメント、職場での暴力、不正行為など、職務規定の重大な違反で解雇された従業員だ。そして、このような人々を雇わないようにするほうが、スーパースターを探し出して社内に留めるよりも経済的に有益であることを示した(英語報告書)。

有害な人材を雇うと、いかに高くつくか

今回の調査で使用したデータは、職務適性テストのソフトウェアを大企業に販売している会社から得たもので、次の3つの内容が含まれていた。(1)求職者の職務適性スコア。(2)離職に関するデータ。たとえばスキルに関する自信、自分よりも他者のニーズに配慮するか、規則の遵守に対する考え方などである。(3)日々のパフォーマンスに関するデータ。これには採用日、退社日、退社理由を含む。

こうしたデータセットの範囲は、グローバル企業11社と時間給労働者5万8542人に及ぶ。分析の結果、従業員はほぼ20人に1人の割合で、有害な行為が原因で解雇されていた。

マイナーとハウスマンは、「有害な従業員のもたらしたコスト」と「スーパースターの価値」とを比較した。スーパースターの定義は、「きわめて生産性が高く、同じ成果を上げるためには複数の人員を雇うか、あるいは既存の従業員に給与を上乗せしなければならない人材」とした。比較の結果、有害人材の雇用を避けることは、スター人材を獲得し維持するよりも2倍以上ものコスト削減になることが示された。具体的には、1人の有害人材を回避すれば、約1万2500ドルの離職コスト(有害人材を解雇し後任を充当するコスト)が浮く。一方、上位1%のスーパースター1人が利益に貢献する金額は、約5300ドルに留まっていた。

ただし、その他の潜在的なコスト、たとえば訴訟費用、法令違反の罰金、従業員の意欲低下、顧客に対する迷惑なども勘案すると、実際の差はさらに大きいはずである。米国最大の求人サイト、キャリアビルダーが2012年に実施したある調査によれば、調査対象とされた約2700の雇用主のうち41%が、有害な人材を雇用した場合のコストは2万5000ドルに相当すると見積り、約25%は5万ドル以上だろうと回答している。

有害になりそうな従業員の傾向とは?

研究では、有害な行為の予測因子となる特定の性格と行動特性も明らかにしている。

自信過剰、自己中心的、生産性が高い、(自己申告による)規則遵守の意志、という特性を示した従業員は、有害人材となる可能性がより高いことがわかった。スキルに対する自信が1標準偏差増えると、有害な行為で解雇される可能性は約15%高くなった。より利己的で他者のニーズにあまり関心を払わない従業員は、その可能性が22%高かった。「規則には“常に”従わなければならない」と回答した従業員は、現実には規則違反で解雇される可能性が25%高かった。また、チーム内に別の有害な従業員がいた人は、同様に不祥事で解雇される可能性が46%高かった。

自信過剰とナルシシズムが仕事の成果にマイナスとなることは、以前の諸研究でも示されていた。今回大きな驚きであったのは、「規則には“常に”従うべき」と信じていた人が、「目的達成のためには規則を破ることがやむを得ない場合もある」と回答した人に比べ、有害な行為に走る可能性がいっそう高かったことである。

マイナーとハウスマンはこの理由として、求職者は採用担当者が聞きたがることを語ろうとするからであろう、との仮説を立てている。「規則には従うべきだと回答した人は、本来はマキャベリ的な策士である傾向が強い可能性がある。仕事の獲得につながるならば、どのような規則、性格、信条でも受け入れている振りを装う場合がある。マキャベリズムと逸脱行為の関連については、強力な証拠がある」と記している。

また、調査サンプル中の有害な従業員は、業務の遂行時間が同僚よりも短いという点で、平均的な従業員よりも生産性が高かった。このことは、非倫理的な従業員に関する他の研究とも一致するという。つまり「腐敗しているが成績優秀である」という、表裏一体の特徴だ。

他の研究によれば、「邪悪」な性格(サイコパシー、ナルシシズム、マキャベリズム)の持ち主は、そのパフォーマンスとは関係なく仕事で成功することが少なくない。カリスマ性、好奇心、高い自己肯定感といった、他の有益な特性を持っているからだ。しかし彼らは、長期的には組織の助けにならない可能性が高い。マイナーとハウスマンの報告でも、有害人材は平均的な従業員より仕事が早いかもしれないが、仕事の質は必ずしも高いわけではない、としている。

まずは毒を避けよ

マイナーは私に、メールでこう答えてくれた。「人々は往々にして、人材の採用と評価に際し1つか2つの側面しか考えていません。高い生産性で売上げに寄与し、顧客サービスにも優れているような人を求めます。しかし、3つ目の側面があるのです。それは、“組織市民性”(corporate citizenship:組織に対し自発的に、無償で貢献する姿勢)です。この姿勢が著しく欠けているようであれば、よい採用とはなりえません。生産性はあまり高くなくても、組織市民性に優れている人を採用したほうが、組織全体の生産性はより高まるものと思われます」

マイナスの影響はプラスよりも大きい、という概念はいくつかの分野で定説となっている。たとえば行動ファイナンスでは、損失の苦痛は利益の喜びよりも大きい(プロスペクト理論)。心理学では、人は良い経験よりも悪い経験をよく覚えている。言語学では、人はポジティブまたは中立的な言葉よりも、ネガティブな言葉により強い関心を向けるとされる。有害な従業員が組織に及ぼす悪しき影響が、無害なスター人材のもたらす効果より大きいのであれば、マネジャーは前者にもっと注意を向けるべきである、と言えるだろう。

「この問題は、医学の世界でよく用いられる“まず何よりも、害を与えないこと”(primum non nocere)という言葉が当てはまると思うのです」とマイナーは言う。マネジャーはこの助言に従うならば、より包括的な雇用のアプローチを採る必要がありそうだ。スーパースターを惹きつけることと同じかそれ以上に、有害な人材を雇わないよう積極的に努力すべきである。