在宅勤務の普及を邪魔するのは、カルチャーの壁 「他部署からの嫉妬」「セキュリティー管理が厳しい」……。生産性を高めるために、本当にすべきこととは?

総合在宅勤務の普及を邪魔するのは、カルチャーの壁 「他部署からの嫉妬」「セキュリティー管理が厳しい」……。生産性を高めるために、本当にすべきこととは?

雪が降った1月18日、私は100人以上が集まる会合で話をする仕事があったため、やむなく出かけました。娘を自転車に乗せて雨よけのカバーを掛け、登山靴を履いて幼稚園へ。地面は半分凍った雪がジャキジャキいうありさまでしたから、当然、自転車はこげません。それでも、娘を30分近く歩かせてバスに乗るより、だいぶましです。

登園後、ぬれた靴を乾かしながら、最寄り駅近くのカフェで一息つき、「普段なら、出かけず家にいたのになあ」と思いました。自営で執筆や講演、コンサルティングをしている私は、仕事の半分以上は在宅でやっており、テレワークは当たり前。こういう悪天候の日は、テレワークができたら、通勤で無駄に時間と体力を使わなくて済みます。

 

子育てと仕事の両立に「フレキシブルな働き方」は大事な要素

 

私は会社員だったときから、自宅で仕事をすることが、珍しくありませんでした。独身時代、締め切り前には自宅で12時間くらいぶっ続けで原稿を書き、夜10時ごろに会社へ行って原稿を印刷して上司の机の上にまとめて提出したこともあります。誰にも邪魔されず、集中して執筆作業をするには、一人暮らしの自宅が最適だったからです。

子どもが生まれてからは、やむを得ない場合を除いて夕食は自宅で食べるようになりました。夕方6時から夜10時までを育児タイムに充てられたら、後は気合で勝負です。夜、仕事をしているときに赤ちゃんが起きてきたら、エルゴでおんぶして揺すりながら、キッチンのカウンターで資料を作ったりしました。

こんな具合に、子育てと仕事を両立するために「フレキシブルな働き方=テレワーク」は大事な要素です。しかし、残念ながら日本では、このような「柔軟な働き方」が普及していません。

私は企業や官公庁で女性活躍や少子化対策について意見交換するたび、決め手は育児支援を手厚くすることより、男女ともに長時間労働を見直したうえで柔軟に働けるようにすることだと話しています。すると、多くの方が「長時間労働で柔軟性がないって、うちの組織の問題ですね……」と苦笑するのです。

日本でテレワークが普及しないのは、カルチャーの壁が大きいから

 

日本でテレワークが普及しないのは、テクノロジーやセキュリティーではなく、カルチャーの壁が大きいです。なぜなら、テクノロジーは進化しており、テレワーク環境はどんどん整っているからです。

かつて、自宅で書いた原稿の続きを会社で書こうと思ったら、メール添付や本文貼り付けで会社アドレスに送る必要がありました。それを忘れたせいで自宅に戻らなくてはならず、悔しい思いをしたこともあります。今ならそんな面倒なことはしなくても、Dropboxで自宅PCと会社PCを同期させておけば失敗しません。

この話をするとよく「あなたの仕事は専門性があるから(どこでやっても許される)」とか「仕事の成果が見えやすいから(オフィスにいなくても働いていることは証明できる)」と言われます。

確かに、そうかもしれません。この記事はある日の午前2時、子どもが寝た後に書いています。署名記事の場合、成果が見えやすいから、いつ、どこでやってもいい。でも、他の仕事はそうはいかない、と。

本当にそうでしょうか?

2015年8月末に開かれた、女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(通称:WAW!)には「ワークライフ・マネジメント」をテーマにした分科会がありました。知り合いのオーストラリア人経営者がこの会を傍聴しており、終わった後、こんな感想を述べていました。

「ITの話ばかり議論していたよ。日本はテクノロジーがあるはずなのに使っていないというのは、本当かい? 今は21世紀だよね。僕はもう60代だけど、ITなしじゃあ仕事にならないよ……」

無理もありません。私は今、この経営者と一緒に仕事をしていますが、スカイプを使った会議は当たり前。「○月×日△時ごろから、話せる?」とやり取りしたり「この記事、参考になるよ」と送られてきたりするのもメールです。昨年秋から本格的に事業を始めるため、私がどういう形で参加するか相談した際も、「オフィスには、好きなときに来ればいいから」とあっさり。私が、いつ、どこで仕事をしているか、全く気にしていないのです。

 

外資系企業でも、日系企業でも、実は働き方に大差はない

 

私が彼から期待されていることは、契約書に明示されています。「外資はジョブディスクリプションがはっきりしている」と思っていたら、意外にそうでもなく、「こんなことをしてほしい」という要望は随時寄せられます。

外資といってもスタートアップ企業なので状況はどんどん変化します。そういう中、「ジョブディスクリプションに書いていないことはやりません」という態度ではダメで、やはりゴールを共有した者同士、できる限り頑張る、という姿勢や、お互いの信頼は必要です。

そう考えると、「日本のホワイトカラーの仕事に近いなあ」と思えてきます。目標の共有とか、信頼といったような、不定形な仕事をチームで進めるときに必要なことは、外資も日本企業も差はないのかも……。いずれにしても、彼らと一緒に働くうちに、「日本のホワイトカラーの仕事だって、もっと柔軟にできるはず」という思いが確信に変わってきました。

あえて社名を挙げませんが、テレワーク(が許可されない理由)について話をすると、日本のそうそうたる企業の問題点が浮かび上がります。ある人は、日本を代表するテクノロジー系企業の研究部門に勤務していました。その部門はフレックス勤務ができることになっていましたが、他の部署はフレックスではないので、その部署の人だけフレックスだと「ずるい」という理由で、他の皆と同じ決まった時刻で働いていたと言います。

頭脳勝負で働く人達が、他部署の嫉妬のせいで縛られた働き方をせざるを得ないとは……。この企業は新しい製品やサービスを生む発想より、社会主義的な平等を重視しているのでしょうか。

 

「セキュリティー管理の厳しさ」の正当性も、一度は疑ってみる

 

「うちの会社(業界)はセキュリティー管理が厳しいから、テレワークもフレックスも無理」という話も、よく聞きます。ただ、そのセキュリティーは本当に必要なものなのか、考える必要があります。単に監督官庁が惰性で縛っているだけではないのでしょうか。多様な人の能力を活用することより、ガラパゴスなルールや規制のほうが大事なのでしょうか。試しに、外国にある同業の会社と比べてみると、驚くほどフレキシブルに働いていることがあります。

冒頭に記した雪と雨で交通が乱れた日の午後。研究員として所属している女子大で、就職先としておすすめの企業に関する調査報告会が開かれました。管理職に占める女性比率、フレックス制度の有無などデータを基に分析した調査です。

私は自分の報告をする際、思わず「ここに書かれている制度だけでなく、今日、こういう日に、3時間、4時間かけて通勤することが当たり前ではない企業、こういう日は自宅で作業することが当たり前の企業が、本当の意味で男女ともに働きやすい企業です」と言ってしまいました。参加した女子大生に意図が伝わっていることを祈りつつ。