人事が見誤りがちな“経営との距離感”を 知るために必要なこと

総合人事が見誤りがちな“経営との距離感”を 知るために必要なこと

「会える人事」は、採用・人事担当職のロールモデルとなるプロフェッショナル人事※へのインタビューと、実際にその方と会えるO2O(オンライン・トゥ・オフライン)イベントを通して、「これからの人事とは何かを考え、どこを目指すのか」について考える企画です。

第3回は、アクセンチュアにてシステム系コンサルタントとして活躍されたのち、アイ・エム・ジェイ、イマジカ・ロボット ホールディングス、現職のライフネット生命の3社で、採用を中心に人事領域の幅広いご経験を積まれてきた佐藤邦彦氏にご登場いただきます。第2回に登場された曽和利光氏からのご紹介です。

※プロフェッショナル人事とは、人事の専門知識を持ち、経営戦略と人材戦略を連動させ、ビジネス、人、組織の課題に対する解決策を提案・実現していく人事と定義しています

キャリアヒストリー

  • 1999.6-

    システム系コンサルタントとして、幅広い業種の業務改善やシステム構築・導入などに従事。その過程で組織・人事領域に関心を持つようになる。

  • 2003.12-

    未経験だった人事職に転職し、約130人の組織が1,000人超に拡大する過程の採用業務に大きく貢献。育成制度構築や人事制度運用など、人事領域全般を経験したほか、経営企画にも参画した。

  • 2011.5-

    持株会社側でグループ内の人事チーム立ち上げに参画し、グループ各社の採用業務効率化や育成制度の構築・運営などに従事。

  • 2014.3-

    得意領域である採用・育成を含む人事総務全般を統括する人事総務部長に就任。経営の右腕となるような戦略人事チームをつくるべく奔走中。

インタビュー

自分のキャリアを見直すきっかけとなった2つの違和感

――まずは、佐藤さんの最初の職歴から教えていただけますか。

私は東京理科大学物理学科の出身なのですが、大学院へ進学する同級生が多いなか、早く社会に出て働きたかったので進学はせず、ビジネスパーソンとしての成長速度が速そうな総合コンサルティングファームのアクセンチュアに入社しました。ITコンサルタントとしてハードに働き、入社して3、4年たったころ、自分がもっとも得意とする領域が何なのかが少しずつ見えてきました。それが、人材開発や組織開発の領域です。ただ、自分の強みが見えてきたのと同時に、強みが同社の注力している領域と少しズレていることもなんとなくわかってきて、当時の仕事に違和感を持つようになりました。

転職する社員が多い会社なので、自分もいつかするだろうと思っていましたし、いずれは自分の得意領域で勝負したいとも考えていましたので、まずは転職エージェントに話を聞きました。「総合コンサルティングファームから、人事や組織専門のコンサルタントに転身される方はけっこういますよ」と言われ、具体的な求人も検討してみたのですが、どうしても踏ん切りがつきませんでした。それは、もうひとつ別の違和感を持っていたからなのです。

それは、仕事における自分の立ち位置です。コンサルティングという仕事は、要望に応じて顧客先へ入り、現状分析を行い、課題を洗い出して解決策を提案します。つまり、困っているのはお客さまであって、自分は当事者ではありません。これがふたつ目の違和感としてひっかかっていました。「エージェントが勧めてくれた人事コンサルタントでは立ち位置は変わらない。転職するなら、人事課題を『自分ごと化』できる事業会社側にいきたい」。そう考えて、事業会社の人事職に未経験で転職したのです。社会人5年目の29歳のときでした。

元リクルートの社長のもとで人事を学んだITベンチャー時代

――人事領域未経験で採用してくれたのはどのような会社だったのですか?

ITベンチャーのアイ・エム・ジェイ(以下IMJ)です。当時は創業7年目で、規模はまだ小さかったのですが、これから事業を拡大推進するために採用を任せられる人事担当を探していました。

入社の決め手となったのが、最終面接で話した当時の社長、樫野孝人氏(現兵庫県議会議員)の存在です。元リクルートで人事経験もあり、思い入れも非常に強い方でした。面接で樫野氏は、IMJが野心的な成長を描く上で人事が担うミッションの重要性から、やろうとしている具体的なプランまで、いろいろなことを話してくれました。それを聞いて、この人の近くで一緒に人事として働けたらすごく勉強になりそうだと強く感じたのです。

それに、29歳で未経験の職種に挑戦するわけですから、いち早く成長できる、仕事の密度が濃い職場が理想的だと考えていました。ひと口に人事といってもさまざまな業務がありますから、採用なら採用だけ、育成なら育成だけを担うような大きな人事部のひとつのチームに入っては出遅れたキャリアの差はなかなか埋まりません。その点、ベンチャーのIMJは人事のすべての領域に横断的にかかわれる環境でしたので、ゼロからのスタートにふさわしい職場だと思ったことも入社の理由です。

――IMJに入社して、具体的にどのようなことをされましたか?

入社してまず取り組んだのは、新卒採用の立ち上げです。社長と、直属の上司だったCFOと一緒に取り組みました。私がプランをつくって2人からダメ出しされるというやりとりを何度も繰り返し、とても苦労したのを覚えています。

なんとかかたちにして新卒採用を始めるところまでこぎつけたのですが、そこからも苦労の連続でした。いちばん大変だったのが、新卒採用に社員の協力を得られなかったことです。中途採用の社員ばかりの組織でしたから、リクルート出身で新卒文化を重要視する樫野氏が新卒採用を始めるといっても、「何もできない新卒を採ってどうするのか」という声が大半だったのです。

新卒採用初年度の2004年に採用できたのは約10人、翌05年も約10人でした。しかし06年は約30人。新卒採用を始めて3年ほどたち、少しずつ社内の空気が変わったのを感じました。新卒一期生、二期生らが成長し、社内で彼らの活躍が目立つようになると、新卒社員に対する既存社員の見る目が変わったのです。そのころには社員が新卒採用に対して非常に協力的になっており、07年は約70人を採用できました。「新卒入社の社員の存在が既存社員の意識を変える。ああ、これが新卒文化なのだ」「新卒採用は会社の文化をつくる。やっぱり意味があることなのだ」と実感しましたね。人事の仕事に就いて初めて手応えを感じ、これからも人事として頑張っていきたいと思えた瞬間でした。

老舗企業へ転職して感じた温度差。挑戦の場を求めてライフネット生命へ

――新卒採用のほかにはどのような経験をされましたか?

採用に関しては中途も担当したので、とにかく数えきれないほど面接をしていました。M&Aによる拡大もあって、入社当時130人ほどだった社員数は、2010年にはグループ25社1,000人超に増えました。会社の成長にともない、人材育成制度の構築や人事制度の運用も担当し、入社から5年ほどのあいだで人事の幅広いスキルと経験を積むことができました。

人事の仕事を若いメンバーに任せられるようになったタイミングで、経営企画も兼務し始めました。ただ、同じタイミングでリーマン・ショックが起きました。経営も採用も縮小傾向となり、自分の強みを発揮しづらくなっていきました。そんな折、かつての同僚から「グループ企業を統括するホールディングスで、グループ内の人事チームの立ち上げをやらないか」という誘いを受け、新しい環境でチャレンジすることにしたのです。

転職先のイマジカ・ロボット ホールディングス(以下IRHD)は、映像技術の領域で多角的なサービスを行う事業会社で、戦前から続く老舗企業です。当時38歳。スピード感のあるITベンチャーではそこそこ古株の管理職という存在でしたが、老舗企業の持株会社にきてみると、立場は一転。40代後半から50代の社員と60代の経営陣のなかにひょっこりやってきた若手、という感じになりました。

――IRHDでの仕事内容はどのようなものでしたか?

採用の効率化や育成プランをゼロからつくるといった、すでにIMJで取り組んできたことだったので、即戦力としての成果が求められました。グループ会社それぞれの個性が強いので自分なりに楽しみながら仕事をしていましたが、安定した環境で3年ほどが経過すると「このまま定年まで働けそうだけどそれでいいのか」と悩むようになりました。きっと、前職のITベンチャー時代とのギャップが大きかったのだと思います。これまでのキャリアを振り返ると、1社目はスピード感のあるハイレベルな外資系企業、2社目は急成長中のITベンチャー企業、3社目はどっしり安定感のある老舗企業で働きました。40代を目前にして、これからどのような働き方をしたいのか考えたとき、もう一度、人や組織に成長余力があり、経営陣とも距離が近い会社で働きたいと思ったのです。

そうして転職先を探して出合ったのがライフネット生命でした。IRHDへは、自分のできることを求められて転職しました。しかし今回は、自分のできること以上の成果を多く求められる転職でした。簡単ではありませんが、40代はここで挑戦しようと覚悟を決めた転職です。まだ2年目ですので、苦労していることのほうが圧倒的に多く、うまくいかないことだらけです(苦笑)。

三社三様の“経営との距離感”が教えてくれたこと

――お話を伺い、キーワードは“経営との距離感”にあると感じました。人事としてキャリアを積んだ3社とも経営陣との距離が異なりますね。

そうですね。IMJでは、採用や育成の仕事は経営のほぼ直下にありましたから、経営陣と人事は「上司と部下」のような距離感でした。それは、社長の樫野氏のパーソナリティーや思い入れ、会社の規模感などが影響していると思います。まず経営陣の考えを受けて、人事である私が採用・育成のプランニングを行いました。その際、樫野氏がリクルートの人材領域で働いていたころとマーケット感はだいぶ異なっていたので、私がチューニングします。さらに自分がどうしたいのかをきちんと説明した上で、コミットしてもらっていたので、経営陣というより直属の上司のようでした。

一方IRHDでは、会長や社長は雲の上の存在でした。直接的な関わりは少なく、採用・育成プランの細部に介入することはありません。両極端な2社ですが、これはどちらが良い、悪いという話ではありません。IRHDのように経営との距離が大きくても、業績が悪くなるわけではないのです。

ライフネット生命は組織が大きくない分、経営との距離は比較的近いですが、会長の出口や社長の岩瀬にとって人事組織の課題は数ある経営課題のなかのひとつでしかないので、人事組織の課題を近く感じさせるのか、遠く感じさせるのかは人事しだいだと思います。人事として「これは大問題だ!」と思っていても、その重要性や緊急性を誰もが同じ目線でわかってくれるとは限りません。他にもっと大きな問題がたくさんあることを知り、人事以外の世界も含めて客観的に判断をしなければ経営陣の信頼は得られないと思うのです。

戦略人事は、全社的な目線で経営者と話せる存在

――「人事組織の課題は数ある経営課題のなかのひとつでしかない」というのは示唆に富んでいると思います。優先順位の折り合いはどのようにつければよいのでしょうか?

これは人事に限った話ではありませんが、あらゆる部署が自分たちの課題が最優先だと思いがちです。一方で、経営陣にとってもそれは同様のことが言えます。人事はまず、この事実を踏まえて話ができるかどうかが大切だと思います。

理想は、他部署も含めた全社的な課題について優先度を判断できるようになることです。採用一筋でやってきて他部署の状況が目に入らないような方だと、「いま新卒採用でこんな素晴らしい学生がいるのでぜひ口説いてください」と社長に詰め寄ったりしてしまう。でも社長としては「いま事業課題が山積みで次の一手をどうするかの話をするのに手一杯なんだが……」というのが本音かもしれません。採用に関して常に正論を言っていたとしても、「正直、対応するのが面倒くさい」と思われてしまうと、いつのまにか経営陣との距離ができてしまい“孤高の人”になってしまうかもしれません。

優秀だけど頼りにされない“孤高の人”にならないためには、視野が狭くならないように経営陣を洞察することが大事です。いま経営陣の頭のなかで人事課題は何%を占めているのか。いま人事課題は経営陣にとってどういう位置づけなのか。そういうことを常に考え、全社的な目線でコミュニケーションを取れる人が、いわゆる戦略人事と呼ばれる人なのだと思います。

自社における人事の位置づけを把握することで“経営との距離感”が見えてくる

――すべての人事が戦略人事を目指さなくてはならないのでしょうか?

いいえ、すべての会社が戦略人事のような存在を求めているわけではないと思います。与えられたミッションを完璧に回すことが求められる会社であれば、業務を効率よく回すオペレーションチームの構築が必要となるわけです。自分が属する人事チームが自社でどのような位置づけで、どのようなことを求められているのかによって、“経営との距離感”は変わり、人事のあるべき姿も変わります。一度、自社における人事の位置づけを客観視してみるといいでしょう。会社のステージや規模感、経営陣の思考やバックグラウンドによって、求められる人事の姿は変わりますから、他社のベストプラクティスを単に自社へ取り入れようとしても、そう簡単に成功するわけではないと思います。まさに正解のない世界ですね。

私は、ライフネット生命で経営の右腕となるような戦略人事チームの構築を求められ、そこにやりがいを感じて転職してきました。この挑戦はまだまだ道半ばです。そんななか、私がいま苦労していること、“経営との距離感”のチューニング、人事が陥りがちなキャリアの落とし穴などについて、イベントでお話ししたいと思います。人事の皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。奮ってご参加ください。