トヨタの「女性活躍」は第三フェーズへ 男性の意識改革と働き方の見直しを進める

女性雇用トヨタの「女性活躍」は第三フェーズへ 男性の意識改革と働き方の見直しを進める

トヨタ自動車の昨年1年間の販売台数は1015万台余で4年連続で世界一となった。世界のトップメーカーであるトヨタの女性活躍とは?取材をしていると、トヨタの女性活躍策に注目している企業が多いが、その詳細は知られていない。「トヨタの女性活躍は第三フェーズに入っている」と語る人材開発部第1人事室長の山門豊氏の取材から先駆的な施策を始めていることがわかった。

(取材・文/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、撮影/早川俊昭)

まずは定着。女性離職率は約6%から1%台へ

メーカーなどの担当者から、トヨタがどのような女性活躍推進をしているのかと聞かれることが多く、注目度が高いことがわかります。トヨタには女性活躍を進める専門組織はありますか。

山門室長(以下、山門):第1人事室は事技職の人事管理(評価、昇格、異動等)を担当していますが、その中にダイバーシティ推進グループがあります。事技職とは現場の製造ライン等に従事する技能職、業務職以外のスタッフすべて、他社でいうと総合職(エンジニア、一般職等含む)にあたります。

そもそもの質問ですが、トヨタがなぜ女性活躍を第一義としたダイバーシティを推進しているのでしょうか。

山門:理由は2つあります。豊田章男社長は就任以来、「いいクルマをつくろう」ということをずっと言ってきました。いいクルマをつくるためには、いろいろな価値観、ノウハウを持った人材が必要だと考えるのは当然のことです。当社も大半が海外でビジネスをさせていただている。それを考えると、「日本人・男性」が中心の旧態依然とした体制でいい車がつくれるのか、届けられるかというのは疑問です。多様な視点から会社を見たときに浮かび上がってくる課題を解決することでこれからのトヨタの競争力の源泉を構築したいと思っています。

もうひとつは「優秀者の確保」ということです。これから日本は労働人口が減少していきます。例えば、2050年、今から約35年後です。ちょうどひと世代変わると労働力は3割強減るというデータもあります。男性だけで優秀な労働力を確保できない。性別関係なく優秀な人に入社してもらい活躍してもらうためにも、女性が活躍しやすい環境を整えなければいけないと思っています。これまでの取り組みは不十分だったという真摯な反省も踏まえて施策を進めています。

真摯な反省とは。

山門:かつての女性事技職の離職率は約6%で、男性と比べると高かった。つまり女性の定着に問題があったということです。どうしても妊娠・出産でキャリアが中断してしまう。子どもを預けるところがなければ退職せざるをえない。それを解決するために、まず2002年から、託児所の設立、育休拡大など女性の定着のための制度整備を進めました。これがフェーズ1ですね。次に2007年から定着を進めるための制度拡充のフェーズ2に取り組みをシフトした。その結果、離職率は改善し、現在1%台になっています。さらに活躍にシフトしたのが2012年です。

活躍という点では、キャリアをきちんと積んでいただくのが本人にとっても社会にとっても重要です。女性事技職に対しては個別育成計画を立てていますが、15年からはほぼすべての女性事技職に拡大しました。

 

1994年入社。人材開発部に配属。事技職の採用~人事管理を担当。2001年人事部に異動。賃金制度等を担当。04年NUMMIへ出向(GMとの合弁会社、10年に閉鎖)。08年帰国。人事部グローバル労務管理を担当。13年人材開発部第1人事室。人事管理全般を担当。小学生になる一男一女の父

全女性事技職に個別計画作成。海外赴任のチャンス逃さず

トヨタは、現在、女性の活躍にシフトしたフェーズ3になっているということですね。活躍するためには当然ながら女性の育成が重要となりますが、そのために女性事技職全員に個別の育成計画を立てているということですか。

山門:当社には女性基幹職が100人超、主任職(係長級)が500人いますが、主任以下の約1300人については全員に個別育成計画を立てています。当該女性と上司であるグループ長が話し合い、それを1枚の紙に育成計画としてまとめているんです。

育成計画をつくる場合、上司単独で、または上司と人事がつくる場合が多いと思いますが、トヨタは女性本人もそこに参画するのですね

山門:そうです。上司と女性が話し合って取って計画をつくることで女性の意識も変わってきました。例えば、当社は、海外赴任は本人のキャリア形成にとって大きなチャンスであると思っています。女性の場合、結婚や妊娠すると赴任に躊躇することもありますが、育成計画をつくるにあたって女性に海外赴任の相談ができる。「あなたはどう考えている?」「早めに海外赴任を考えてみないか」と本人の意向を確認した上で提案もできる。そういうことで本来いけるはずの海外赴任のチャンスを逃さないようにしています。それまでは女性は男性と違いキャリアプランが描きにくいという課題がありましたが、上司とコミュニケーションを取ることでそれが解決していると思いますね。

女性は、結婚・出産などのライフイベントが生じる前にどれだけキャリアを積めるか、どれだけの修羅場体験をするかが重要と言われていますが、トヨタは上司と女性部下が育成計画を話し合うことで機会損失を防ぐ仕組みができたということですね。

山門:当社では14年を基準として2020年までに女性管理職を3倍に、2030年に10倍にするという数値目標を立てています。外部からの採用も考えていますが、基本的に内部育成を中心にやっていく予定です。離職率も下がりましたし、育成計画もつくっています。きちんと女性にキャリアを積んでもらった上で最大限できるところがこの数字だと思っています。

育児期の女性のキャリア支援ではどんな取り組みをしていますか。

豊田市内の社内託児所は夜10時まで子どもを預けられる。フルで活躍したい人をバックアップする

山門:お子さんのいる女性でも、育児休業から早く復職してキャリアをつなぎたい、一生懸命働きたいという意向の女性もいる。それを実現できるよう仕組みでサポートしていきたいと思います。当社は育休が2年ですが、早期に復職した人にはベビーシッター代の補助や遠方から両親が来てサポートする場合は旅費を補助する支援体制があります。同じく早期復職者には、週2時間の出社だけであとは在宅勤務でOKという特例在宅制度も導入しました。復職した後は、時短勤務でも月5回残業を認めています。社内託児所には夜10時まで預けることが可能です。

園のお迎えの時間を気にせずに仕事することができるということですか。

山門:そのほうが使い勝手がいいですよね。その場合、夕食も保育園で提供しています。育児しながらどのように働くかは本人が決めることですが、フルで活躍したい人にはこのようにバックアップしてきます。

夫婦社員と上司が参加する出産前セミナー。夫に育児参画をすすめる

昨年からユニークな産休前セミナーを実施していると伺いました。

山門:当社は社内結婚が割と多いのですが、これまでは社内結婚した夫婦に子どもができると女性が育休を取得し復帰後は短時間勤務となるパターンが多かった。そうすると女性の職場には、休み中の代替要員の手当や、復帰後の職務アサインをどうするかなどの課題が生じてしまいます。かたやその夫である男性社員の働き方は変わらずで、その結果、男性の職場には影響は出ないのに、女性の職場に負担が生じるという不均衡が出てきたんですね。それで、昨年から、産休前セミナーに配偶者の夫とその上司も参加するよう促し、夫婦社員とその上司という4人を1チームとして研修を受けてもらっています。

 

夫婦社員とその上司の4人が1チームで行われる産休前セミナー。生まれる前から夫の育児参加を促す。1月に開催されたセミナーの模様。

 

当該女性と上司対象の産休前セミナー参加はありますが、その配偶者、さらにはその上司も参加というのは聞いたことがありませんね。

山門:職場復帰したときに女性社員だけに負担がかからないように、夫である男性社員はどれだけ育児を負担できるのかとか、4人そろえばそういう本音ベースの話もできます。ふだん言いにくいことも言えるかと思います。

もう、母親ひとりが育児をするのは無理なんです。母親社員のキャリア形成をストップしないためには夫の育児参加が必要です。男性やその上司にはそこを理解していただきたい。上司も含めた意識改革をしていかないと女性の活躍は難しいと思います。半年間女性が休むよりも、例えば夫婦で交代で育児休業を取ってもらえれば、女性のキャリアの中断期間が短くなり、キャリアのロスもなくなります。

男性社員にも家事・育児の参画をすすめる。トヨタにとってそれは損失にはならないということですね。いまだに育休を取りたいと男性がいうと、「何、考えているんだ」「出世しなくていいのか」と言う上司も一般的に多いようですが。

山門:当社もかつてはそうだったかもしれませんが、トヨタはそれを変えていかなければいけないと思います。「子どもを育てながら働く」ということが当たり前なんだということを理解してもらう必要があると思います。特に子どもを産まない男性に。

男性が育児をすることをいい経験だと考えています。そうすると、その人が上司になった時に「育児と仕事は両立できるよ、全然心配ないよ」と部下にアドバイスできますよね。そんな管理職が増えたら、優秀な女性社員のロスを少なくできる。そういう管理職のもとだと、子どもを育てながら活躍する女性は増えると思いますし、ロールモデルもたくさん誕生し、さらに女性の活躍は進む。好循環は生まれ、人材競争力が上がる。これが一番大きい効果だと思っています。

当社は愛知県という地方にある会社なので女性人材の獲得にはハンデがある。そういう社風の醸成や両立に理解のある管理職を増やすことで、女性技術者の獲得に対して手を打っていきたいと思っています。

世界のトヨタでも獲得に苦労すると。

山門:女性エンジニアはなかなか採用できないですね。工学部に進む女性ですらまだまだ少ない状況です。ですから、トヨタグループでは、女性技術者を増やすために2014年にトヨタ女性技術者育成基金を設立しました。進学前の高校生に対して理系の魅力を伝え理系進学を意識してもらい、理系女子大学生にはキャリア育成・支援活動をしています。

トヨタグル―プ全体で女性技術者育成に注力するということですね。

山門:そうです。1社でやることには限界はあるというのは、先ほどの産休前セミナーでの男性の意識改革もそうです。社内結婚はごく一部なので、社内だけでやっていても完結しない。トヨタグループ企業とも相談したいと思っていますし、その輪を愛知県下に広げれば、夫が愛知県のどこかの企業に勤めていれば、夫婦の役割分担にも少し違う世界が広がってくるのではないかと思っています。

ブレークスルーのためには男性も含めた意識改革が必要ですし、働き方も変えていきます。女性活躍の完成形は、男性も女性も関係なく活躍したい人が活躍できる会社になることです。それをトヨタは目指します。