総合全国64行の地方銀行が連携し、 転居先でも別の地銀で働ける仕組みを構築 「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の活動とは

千葉銀行 ダイバーシティ推進部 調査役
働く人にとっても、銀行にとっても、Win-Winの関係になる仕組み
―― 日本の人事部「HRアワード2015」の受賞、おめでとうございます。まずは、今回の賞の対象となった「地銀人材バンク」について、その概要を教えていただけますか。
ありがとうございます。人材バンクというと、人材をプールするように思われるかもしれませんが、そうではなく、全国64行の窓口となる人事担当者の名簿を共有する仕組みです。例えば、九州の地方銀行に勤めている方が北海道に転居する場合、その銀行の窓口担当者から北海道の地方銀行の窓口担当者に連絡が入ります。そこからは北海道の地方銀行と転居される方が直接やりとりをして、転職が決まります。事務局は、この名簿のメンテナンスをして、どの銀行からどういった方々がどこの銀行に移っていったかという実績を把握します。また、今のところはありませんが、何か不都合が生じた場合、それをどう解決するかを考える役割も担います。
主な流れとしては、まずは対象者がいる銀行(紹介元)が、対象者の転居先の銀行(紹介先)に人員的に受け入れ可能かどうかを打診します。これまでのところ受け入れを拒否されたことはありません。受け入れ可能となったら、紹介元が対象者に紹介シートと職務経歴書などの書類作成を依頼し、紹介先へ提出。その後は紹介先と対象者とが直接やりとりし、それぞれの銀行の採用方法にのっとって筆記試験や面接を行います。最初の担当窓口同士での打診後の流れは、基本的にそれぞれの銀行にお任せしています。
とはいえ、何も書式などがないとどうすればいいか戸惑うでしょうから、共通で使用する紹介シートや職務経歴書といったフォーマットを準備し、それを利用してもらっています。特に、紹介シートでは、銀行業務に関わる資格や銀行ならではの業務内容を具体的に記入できるようにしてあります。また、報告用の書式も作成し、紹介元から「こういう方を紹介します」という報告や最終的な結果の報告を事務局にしてもらうことで、事務局は全体を把握できるようにしています。
―― これまでの実績を教えていただけますか。

2015年12月24日現在で、全部で49件の紹介が行われています。そのうち、すでに採用に至り、成約したものが28件、紹介中が16件です。残り5件は、本人辞退によって不成立になりました。採用になったのは、いずれも女性ですが、この仕組みを利用できるのは、女性に限っているわけではなく、男性も利用できます。奥様が転勤で転居することもあるでしょうし、介護によって地元に戻るケースも出てくるでしょう。地方銀行というと、地元の出身者が多いと思われますが、中にはほかの都道府県から就職してきた方もいますので。
事務局としては、実はこれほど転職の案件が多くなるとは思っていませんでした。理事行の方々に事前にうかがっていると、確かにこれまでにも銀行同士で紹介しあったケースがあるということだったので、ある程度は予想していたのですが……。それだけニーズがあったということですね。弊行でも、ここ5~6年、退職の理由として「配偶者の転勤による転居」が増えている印象があります。
―― そういう意味では、待ち望まれていた制度でもあったわけですね。
実際、この制度のおかげでスムーズに転職できたという声も頂戴しました。一人で見知らぬ土地のハローワークに行かずに済んだ、といった声もありました。そもそも銀行業務の求人情報はハローワークにあまり出ません。自分で人材紹介会社などに登録するというのも、それはそれで大変です。地銀人材バンクを活用すると、スムーズに話が進む上、これまでのキャリアや経験の延長線上で仕事ができる安心感があると思います。それぞれの地方銀行の行風の違いはあると思いますが、業務自体は同じものが多いので、それまでの経験も生きます。
採用する銀行からすれば、新入社員を採用して一から教育するより、即戦力を採用できて、すぐに活躍してもらえるわけで、働く人も、銀行も、ともにWin-Win。どちらからも喜んでもらえる仕組みになっています。また、送り出すほうからしても、退職は残念ですが、ほかで働き続けてくれるのはうれしいことです。しかも、もしかしたら将来的にまた戻ってくるかもしれません。そのときは再雇用すればいい。銀行業務としての経験を中断させずに生かせる点が大きなメリットです。
輝く女性の活躍を「加速」するため、二つの研究会・部会がフル活動
―― そもそも、この制度をなぜスタートすることになったのでしょうか。この制度の母体となっている「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」について教えてください。
もともと、前段階として、内閣府がサポートする「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」があり、そこに弊行の頭取・佐久間英利が加わっていたことに端を発します。同会では、2014年6月に行動宣言を出したのですが、その中に「ネットワーキングを進める」というものがありました。それを実践する形で、全国地方銀行協会に所属する北海道から沖縄までの64行の頭取に、男性リーダーの会の地銀頭取版を作ろうと、佐久間が声をかけました。そして、2014年11月に、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」が発足したのです。その流れで、千葉銀行が事務局を担当することになりました。

この「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」では、大きく二つの研究会と部会が活動しています。
一つ目は、女性活躍推進研究会。各銀行の女性活躍推進の担当者が年4回集まり、女性活躍推進のためには実際に何をすればいいのか、意見交換や情報交換をはじめ、さまざまな研究を行っています。2014年度は主に現状を把握するための情報交換を行ったほか、外部講師の方を招いての研究会も行いました。情報交換を行うと、実際に進んでいるところもあれば、必要性は実感しつつも現状は立ち遅れ気味のところもあることがわかりました。また、女性活躍推進の必要性を認識して取り組んでいる銀行もあれば、何となくやらなくてはいけないからやっているといったところもあります。それらの意識や活動をどれだけ底上げできるか。外部の講師の方による女性活躍推進に関する講演も、そのために実施しました。
1 回目は、株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島悦子さんに、組織コンサルタントの視点から女性のキャリアをどうやって築いていくかというテーマで、2回目は、日経BPヒット総合研究所長・執行役員の麓幸子氏さんに、具体的な各社の取り組みを交えながら、女性活躍推進をどう進めていったらいいかというテーマで、ご講演いただきました。いずれも、午前中は講演で、午後はグループを作ってどんどんメンバーをシャッフルしながら意見交換をしていくという勉強会形式で研究会を進めてきました。
二つ目は、女性リーダー育成部会。これも年4回行っています。各行一人ずつ、将来の幹部候補生や、現職の管理職、もしくは管理職一歩手前といった女性を集めます。目的の一つはネットワーク作りです。ロールモデルがなかなかいない中で、他行にも自分の将来像がいるかもしれない。そういう人たちが集まって情報交換する場として、リーダー育成部会を設けています。
ここでは、実際のキャリア形成支援に関するような研修を行ったり、グループでテーマを決めて研究しながら発表したりしています。今年度のリーダー育成部会は2期生になるわけですが、2回目の部会を開催した時点で既に非常に強いきずなが生まれていると思います。昨年度の部会では参加者の方々から、「こういう銀行になるといい」と話し合ったものを、女性活躍推進研究会の人事担当者に投げかけるなど、部会、研究会双方での効果も期待しています。
そのような活動の中で、毎年何かしらアウトプットしていくことが、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の当初からの目標でした。その最初のアウトプットが「地銀人材バンク」だったのです。
もともと発足前から、弊行の佐久間には、このような制度を実現したいという考えがありました。2~3年前に、弊行の主計担当だった女性が結婚後にご主人の転勤で新潟に転居することになったのですが、システム統合の件でつながりがあった新潟の地銀である第四銀行に声をかけたところ、その女性を受け入れてくださり、女性は働き続けることができたのです。そのようなことを、もっと全国のネットワークでできないものかと、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の発足当初から検討を重ね、64行のネットワークを活用した転職の橋渡しとして「地銀人材バンク」がスタートしました。
―― 2014年11月に発足して、翌15年4月には「地銀人材バンク」がスタートしているということですが、64行もの協力を得ながら、このようなことを実現するスピードは驚きに値します。しかも、研究会や部会がそれぞれ年4回で実施されていますよね。
「加速する」会ですから(笑)。そもそも女性活躍推進をやらなければいけないということは、どこの銀行もわかっているので、反対の声は上がりません。むしろ、他行の進んでいる状況を見て、キャッチアップできる貴重な機会にもなる。なかなかそういう機会がなかったので、この運営体制に賛同してもらえたのではないかと思います。

―― そのような中で、地銀人材バンクの仕組みを短期間で設立するにあたり、苦労されたのはどのようなことでしたか。
この取り組みが「職業紹介」に当たると、法律に抵触してしまうため、それを回避することでした。事務局が人材をプールして転職先をあっせんしてしまうと職業紹介になってしまいます。銀行法では銀行業以外、基本的にやってはいけないことになっています。銀行業務に関連する人材派遣や、事務部門を集中して受託することを主業務とした別会社を設立することなどはできるのですが、それ以外で人材派遣・紹介やあっせんを主業務とすることはできません。そこで、どういう形をとったら一番いいか、実はその構想のために数ヵ月かかり、最終的に落ち着いたのが今の方法です。
事務局の案について、何度か理事行や全国の窓口担当者の方々から意見をもらい、そこからは比較的スムーズに進みました。2月から3月にかけて意見を調整し、3月の終わりごろからアナウンスして、4月から正式スタート。3月末に辞められる方で、すぐに利用された方も何人かいました。
―― 退職後の利用も可能なのでしょうか。
目安として、退職から6ヵ月程度とはしています。しかし、働き続けるようにすることが目的なので、絶対にダメということではなく、あくまでも目安です。銀行業務は融資業務や投資型金融商品の販売といった特有のスキルを必要とするなど、同じ地方銀行だからこそ生かせることがたくさんあります。そうした業務スキルの劣化がない範囲ということも踏まえて目安は6ヵ月程度ではないかというぐらいのものです。
―― 先ほど、予想外に利用者が多いということでしたが、実際、女性の間での認知度は高まっているのでしょうか。
弊行の場合、退職するとの申し出があった時点で、ダイバーシティ推進部で必ず面談することにしています。辞めるにあたってはいろいろな要因があると思いますので、深堀りして聞くことが目的です。ただ「退職したい」というだけではなく、そのきっかけを探るために、一人ひとりと面談しています。退職する人数はさほど多くないので対応できています。その中で、配偶者の転勤・転居が退職の理由だという人たちに、地銀人材バンクのお話をしているのですが、最近は知られるようになってきたので、面談前に相談に来た人もいます。行内で周知を図っていることもあり、かなり知られるようになってきたと思います。
次のアウトプットは 79人の女性ロールモデルブック。
将来的には発展的解消を目指す
―― 「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」での最初のアウトプットが地銀人材バンクということでしたが、次のアウトプットは何か予定されているのでしょうか。

今検討を重ねているのは、64行それぞれにいろいろなタイプのロールモデルがいらっしゃるので、それを一つの本にまとめるロールモデルブック作りです。すでに各行で候補者も決定して全部で79人の女性のインタビューが終了したところです。仕事と育児の両立、介護との両立、部長職になっている人、新しい仕事を頑張っている人、今までは男性が主体と思われていた部署で頑張っている人など、さまざまな立場・状況の女性を紹介できる予定です。
また、64行共通で使えるようなキャリアデザインブックを作って、節目節目の女性のキャリアをどうデザインしていくかという研修のツールとして使えるようなものも検討しています。
―― この会の最終的な目標は、具体的に何か設けられているのでしょうか。
最終的には、発展的に解消できれば一番いいと思っています。ある程度底上げが図られ、各行が自走できれば、それが一番です。そういう意味では、「もういいでしょう」と言われるのを待っている。メドは特に定めていませんが、政府の「2020年30%」がありますので、そこが一つの区切りでしょうか。できればその前に終われれば理想の形かと思います。
―― 企業が女性活躍推進を加速するために、一番大事なことは何だと思われますか。
いかにトップに本気になってもらうかが、一番重要だと思っています。その次が、中間管理職や女性自身の意識を変えていくというステップになるのではないでしょうか。人事担当者の一人として、トップからの働きかけが一番有効かつ速いのではないかと思います。弊行でいうと、頭取の佐久間の奥様が教師で共働きでして。実際に食事を作ったり、子どもが病気になった時は病院に交替で付き添ったり、授業参観に一人で出たり。そういう経験から、女性が活躍するには男性の育児参加が重要だと、自分自身が理解していて、女性活躍推進を自らが旗振り役として行ってきました。下にいる人間としては、非常にやりやすい環境です。
そういう意味で、今回の「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」は、ただの人事の会ではなく、トップがかかわる会ということが、非常に大きなポイントだったと思います。トップ自らが各地域で、ネットワークを広げていることにもつながっているようですね。弊行が事務局を務めている千葉県経済同友会で、同会のメンバーの社長の皆様方に対して女性活躍やダイバーシティに関する講演を開催したり。七十七銀行も、宮城県の労働局と組んで、シンポジウムを行うなどしています。この頭取の会がきっかけになって、そういう動きが各地で広がっていく。まさに、ネットワークづくりに貢献できるようになってきたのではないでしょうか。
山本さんが手にしているのは、「HRアワード2015」企業人事部門特別賞の表彰状