日本経済の局面転換、需要不足から労働供給ボトルネックと労働需給のミスマッチ

総合日本経済の局面転換、需要不足から労働供給ボトルネックと労働需給のミスマッチ

人手不足に関する報道が増えている。特に不足が著しいのが、建設、介護、外食、小売り、運輸だ。外食系のすき屋やワタミでは人手不足で営業時間を減らしたり、店舗の一部閉鎖をする動きが報道されている。

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人手不足:すき家深夜営業中止/ワタミ60店閉鎖 「時給1375円」も求人難 景気回復で人材奪い合い

明らかに日本経済は、2012年までの需要不足(マイナスのGDPギャップ)の状態から、労働供給がボトルネックになる局面に移行しつつある。掲載図は有効求人倍率(除く新卒、含むパートタイム)と失業率の1980年以来の散布図である(月次データ)。これを見ると、1980年以降の日本の労働市場の変化と現在の位置が良くわかる。

当然のことながら有効求人倍率と失業率の間には負の相関関係がある。図上での各時点の分布は右肩下がりになるということだ。青い点が1980年から94年までの分布であり、相対的に低失業率のレンジで有効求人倍率と失業率の傾斜は緩やかだった。景気循環による変動はあるものの、雇用をめぐる需給は総じて人手不足が支配的だった時代と言える。

その状況が一変するのが赤い点で示した1995-99年の時期だ。分布の近似線の傾きが急になって高失業率を意味する上方にシフトしていることがわかる。これが1997-98年の銀行不良債権危機(国際的にはアジア通貨危機)を挟んだリストラ・労働需給ミスマッチの時期だ。

緑色の点で示した2000年代以降になると失業率は80年代の低いレベルまでは戻らないが、近似線の傾きは再び緩やかになり、景気循環に従って右肩下がり(左肩上がり)に分布する安定的な関係が戻った。

このように俯瞰すると90年代後半が日本の労働市場の構造的な転換期であったことがよくわかる。企業の採用行動もこの時期に変わり、業績悪化に対応したリストラだけでなく、正規雇用の抑制、非正規雇用の増加という今日まで続く行動が90年代後半から一般化した。

さて現在の位置は緑色で示した2000年以降の分布の右下下限にあることがわかる。景気の回復が続いた2007年の位置と同じだ。この事実は短期的、長期的に2つのことを示唆していると言えるだろう。

短期:人手不足の業界を中心に賃金上昇の圧力が働き始めてる。上記掲載の記事もパート労賃の上昇を語っている。企業利益も既にリーマンショック前のピークとほぼ並ぶ水準まで回復しているのだから、企業部門全体としては賃金上昇の余裕もできているはずだ。

長期:日本経済の趨勢的な成長率引き上げのためには、次のような構造的な改革、改善が必要であり、それなくしては成長の壁にぶつかるということだ。(1)女性労働、高齢者などの就労増加による労働参加率全体の上昇、(2)生産性の上昇、(3)雇用余剰部門から不足部門への労働シフト(別に直接シフトである必要はない)など。

(3)は労働需給のミスマッチの問題だ。有効求人倍率は今年3月時点で1.07と上昇してきたが、求人倍率の分布は業種、職種によってばらつきが大きい。以下の厚生労働省の「職業別労働市場関係指標」を見て頂くと、それがわかる。

11-3 職業別労働市場関係指標

求人倍率が総じて高い職業は、専門的・技術的職業(とりわけ医療、情報、建設、社会福祉関係)、 販売、輸送(自動車運転)、建設現場の職業だ。反対に事務的職業は0.34ととても低く、とりわけ一般事務は0.28とこれ以上ないほどの低さだ。

事務的職業は昔はもう少し求人倍率が高かった時代もあるが、90年代以降の労働環境におけるIT関連を中心とする技術革新を考えれば、この分野の労働需要の趨勢的な減少は当然の結果だとわかる。すなわち付加価値の低い一般事務労働は各種のオンラインシステム、パソコンソフト、インターネット機能によって急速に代替されて来たのだ。

例えば1970年代~80年代頃までならば、銀行の支店は日常業務を遂行する上で大量の一般事務労働者を必要としていたが、今日ではそうした多くの労働がATMやオンラインバンキングの普及で「機械」に置き換わっている。今後もこのトレンドは続くだろう。

その結果、生じたことは一般事務労働に従事していたホワイトカラー労働者層の分解、2極化だ。より高いスキルを身につけて付加価値の高い専門的・技術的職業にシフトする人々と、そうでない人々の2極化である。これは先進国を中心に90年代以降世界的に進んだトレンドである。

私は今は大学教員なので、大学で今、あるいはこれから学ぶ若い諸君にこのことを理解して欲しい。目的意識もなくぼんやりと大学を卒業し、これといったスキルも身につけていないのに、ミドルクラス以上の所得が得られるという環境は今日ではほとんど存在しない。

付加価値の高い仕事をできるだけの知的なスキルを習得するか、あるいは「そういう勉強は苦手」というのであれば、大学で4年間の時間とお金を浪費せずに、例えば(あくまでも例えばであるが)大型建設機械の操縦資格でもとって現場で働く方が、ずっと職にありつけやすい、そういう時代に移行しているのだ。