総合「辞めない人材」を予測 アルゴリズムで離職率改善
その病院にはなぜか看護師が居つかなかった。
米メリーランド州にあるアドベンティスト・ヘルスケアの病院では、看護師の離職率が業界平均よりも高かった。これは、コストを増大させるとともに看護の質にもかかわりかねない問題だ。十分な教育を受け、必要な資格を全て兼ね備えた人を雇ったはずなのに、すぐに辞めてしまう。何が悪かったのだろう。
給料半年分相当の損
複数の調査によれば、従業員が1人辞めると、人員補充の採用活動や研修、この間の生産性低下などにより、平均で給料6~9カ月分のコストがかかるという。今から約5年前となる当時、アドベンティストの最高経営責任者(CEO)だったビル・ロバートソン氏は「1年ではなく2年勤めてくれれば、会社側は6000ドル(約71万円)~2万ドルを節約することができる」と指摘する。コスト節減効果は勤続年数が長くなればなるほど大きくなるため、できることなら絶対に辞めない人、あるいは解雇しなくて済む人を雇いたいというのが企業の願いだ。
そこで、アルゴリズムの出番になる。ここ数年、「人間よりも優れた採用担当者」と銘打ったアルゴリズムが多数出回るようになった。さまざまな公式を用いてデータを分析し、結果を導き出すアルゴリズムは、候補者選定の迅速化や多様な候補者の発掘に役立つかもしれない。
ロバートソン氏は「アドベンティストにぴったり」の人材を見分けるアルゴリズムが欲しいと考え、2009年に創業したペッグドを起用した。アルゴリズムを使って社員がいつ辞めたがるかを予測する企業もあるが、ペッグドは決して辞めない人材を採用すると約束したのだ。
ロバートソン氏によれば、導入後しばらくは効果が現れなかったものの、そのうちに30~50%の「離職者の大幅な減少」が見られるようになった。「生産性の低下や採用にかかる費用を考えると、何百万ドルもの価値があった」と同氏は述べている。
ペッグドのアルゴリズムでは3種類のデータを利用する。1つ目は検索サイトで見つけられるような公開情報、2つ目は履歴書や資格などからわかる個人情報、3つ目は候補者の反応から得られる情報だ。
キーボードの打ち方や、1つのページに何秒間とどまるか、ブラウザーのタブをいつ閉じるかといったデータから、アルゴリズムを使って候補者の仕事ぶりを予測することができるという。
こうして、求められている職種で成功する確率の最も高い候補者を絞り込んだ上で、採用担当者がその中から最終決定する。
例えば、ストレスの大きい状況に直面したときの反応を試すために、数学を専門としない人に微分積分の問題を出し、固まってしまうか、別のページに移動するか、答えを入力したり修正したりするかといった反応を測定する。こうした膨大な量の測定データを分析し、ペッグドは候補者が長く勤める社員になるかといった結果を予測している。
無意識の偏見
同社によれば、6~12カ月間の離職率は中央値で38%の減少が見られた。これまでで最も効果がなかった例でも、13.5%の削減効果があったという。企業が採用し現在も働いている人、解雇された人、自主退職した人について大量のデータを集めることで、その会社で成功しそうな人を見分けることができるとペッグドは説明している。
従業員25人で年間300万人を超える求職者の情報を処理するペッグドは、業界でトップクラスの経験を誇る企業だ。とはいえ、創業6年では、同社の助言により採用された人材のどの程度が数十年後、顧客企業に残っているかは知る由もない。
アルゴリズムはより多くの人が採用、解雇、退職というプロセスを経るにつれ、時間とともに精度を増す。成功を決定づける要素は、職種だけでなく部門や勤務地によっても変化する。
ある企業の2つの勤務地で全く同じ職種の求人があったとしても、必要な人材が同じタイプの人とはかぎらない。ペッグドのアルゴリズムは、救急病院の仕事で成功すると予測された人物が、長期介護施設の同じ仕事では成功しないと予測されたこともあった。理由はわからない。
アルゴリズムは多数の要素からその仕事に適した人材を決定する。「ブラックボックスのようなものだ。『この質問にこう答えたから、彼は適材だ』というように言えればよいのだが、ペッグドの手法ではこの種の回答を直接得ることはできない」とロバートソン氏は語る。同時に、こうした複雑で直観に反した手法が、アルゴリズムを人間よりも優れた採用担当者たらしめるゆえんでもある。ロバートソン氏によれば、「人間には無意識の偏見がある」からだ。例えば、人は好みが同じ人を採用する傾向がある。「黒人らしい」名前の人は仕事を見つけにくいというデータもある。
懐疑派は、アルゴリズムには採用に最も重要な感性という要素が欠けていると主張する。さて、コンピューターは真に人間を理解することができるのだろうか。