「派遣の3年制限」は誰のための規制なのか

派遣「派遣の3年制限」は誰のための規制なのか

「業務単位」から「人単位」に見直し

派遣という働き方について、活発な議論が行われている。話題の中心は、今年9月30日に施行された改正労働者派遣法についてである。重要な変更点を取り上げると、

(1)すべての労働者派遣事業が許可制に(ただし3年間の経過措置あり)
(2)派遣労働者の雇用安定のための施策をとることが派遣元企業に対して義務付けられた
(3)派遣労働者のキャリアアップのための施策を行うことが派遣元企業に対して義務付けられた
(4)「業務単位から人単位へ」の派遣期間制限の見直しが行われた

という4点がある。

私たちは、派遣という働き方や今回の法改正をどのように評価すればいいのだろうか。

まずは派遣と比較される概念である「正規雇用」について考えよう。私たちは、よく「正社員」とか「正規雇用」という言葉を使うが、じつは法律上の定義は存在しない。しかし専門家の間では、

・雇用期間の定めがない無期雇用であること
・その職場において標準的な労働時間(=フルタイム)で働くこと
・直接雇用されていること

という3条件を満たす働き方が正規雇用だという共通認識がある。図では、3条件のすべてが該当する中心部分が正規雇用である。

 
図を拡大

正規雇用の定義とは/「雇用」を3条件で分類すると…

これに対して派遣とは、直接雇用ではない間接雇用を意味する。直接雇用の場合、企業と労働者という二者間の関係であるが、派遣の場合には、派遣元企業と雇用契約を締結し、派遣先企業から指揮命令を受けて働くという三者間の関係になる。

派遣といっても、その働き方は一様ではない。派遣には、無期か有期か、またフルタイムかパートタイムかの組み合わせにより、異なる4種類の働き方が存在する。つまり図のグレーの領域のすべてが派遣である。

また派遣労働者の意識にもバラツキがある。少し古い2012年の数字ではあるが、厚生労働省の調査では、派遣労働者のうち43.1%が自ら派遣という働き方を希望している本意型であるのに対して、「正社員として働ける会社がなかった」ことを理由として派遣として働いている不本意型は43.2%だった(※1)

正社員を守るために「派遣法」ができた

派遣という働き方は、そもそもは専門的な知識や技能を持つ労働者を、臨時的・一時的に派遣することを前提としていた。このような専門性を持つ労働者であれば、交渉力があることから中間搾取の可能性が低く、また派遣先企業の直接雇用が派遣で置き換えられる心配(いわゆる常用代替)もないとして、1986年に労働者派遣法が施行された。その後に専門業務の対象が次第に拡大され、製造業への派遣が2004年に可能になるなど、時代を通じて規制が緩和されていくことになった。

この経緯を見てもわかるように、そもそも派遣法とは、派遣労働者のためのものではなかった。目的は正社員の仕事が派遣に置き換えられてしまう常用代替の防止である。つまりは従来型の働き方である正社員を守るための法律であった。

これに対して、数回にわたる法改正を経て、最近になって法律の名前も「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」となり、派遣労働者の保護が明記されることになった。

今回の法改正では「業務単位から人単位へ」という派遣期間規制の見直しが行われた。これまで26の業務は専門業務とされ、派遣期間に制限がなかった。一方、その他の業務には最長3年という受け入れの上限があった。これが法改正により、すべての業務について受け入れ側の期間制限が実質的になくなる一方、労働者ごとに同じ課で働くことができる期間に3年の上限が課された。ただし労働者が派遣元企業で無期雇用されている場合や、60歳以上の派遣労働者の場合などについては、例外として期間制限がかからない(※2)

法改正のひとつの理由は、悪質な派遣事業者の排除である。派遣労働者の業務が専門的とされる「26業務」の基準は必ずしも明確ではない。そのため26業務として派遣された労働者が、専門以外の業務も担当するなどの逸脱が指摘されていた。また法改正前までは、常用雇用労働者のみを派遣する届出制の「特定事業」と、それ以外の労働者を対象とする許可制の「一般事業」が存在していたが、悪質な事業者が許可逃れのために特定事業を装うケースがあった。

もう1つの理由は時代の変化にある。これまで専門的とされていた26業務には、現状ではそれほど特別な技能とは言えないもの、例えばパソコン等事務用機器の操作やファイリング業務などが含まれており、専門業務とそれ以外とを区別する意義が薄くなっていた。

今回の法改正には、労働者の視点からは一長一短がある。まず「専門業務か否か」という曖昧な切り分けをなくし、統一的な基準により明確化されたことは望ましいといえる。

また法改正により労働者ごとに同じ課で働くことができる期間に3年の上限が課されたが、派遣労働者はこれまでと同じ業務を続けることを望む場合には、他の派遣先企業に移る必要がある。また、同じ派遣先企業で働き続けることを望む場合には、仕事内容を変えなければならなくなった。このため派遣先企業は、同じ人に同じ仕事を続けて欲しければ、直接雇用に切り替える必要がある。これらはキャリアアップと雇用の安定につながる可能性がある。

全員を直接雇用に置き換えられるのか

期間制限を個人単位で課すことには一定の合理性がある。行動経済学の研究では、人間には、目先の利益はすぐに受け取ろうとするが、嫌なことはできるだけ後回しにするという「先送り行動」の傾向があることが知られている。このため個人単位の期間制限により、直接雇用への切り替えが早くなる可能性がある。

そして3年を超えて働く派遣労働者に対しては、派遣元企業に雇用安定のための施策をとることが義務付けられた。具体的には、(1)派遣先への直接雇用の依頼、(2)新たな派遣先の提供、(3)派遣元での無期雇用、(4)その他の必要な措置、のいずれかをとることが義務化された。このことも安定した雇用を望む労働者にとっては、好ましいことだといえる。

これに対して、今回の改正に批判的な立場からは、これまでならば3年を超えて働くことができた26業務の労働者についても、期間制限が適用される点が問題視されている。派遣労働者の中には、直接雇用を望まないケースも多くあるためだ。

派遣について「かわいそうな働き方」と決めつけるのでは議論は進まない。本意型にはよりよい待遇を、また不本意型にはより安定した雇用形態を実現できるように支援することが望ましい。その際にはすべてを直接雇用に置き換えることはできないこと、またそれが望ましいとも限らないことに注意すべきである。本意型の派遣労働者のように、多様な働き方を求める声もあるからだ。そして「正規なら幸せ」とはいえない点も理解すべきだ。長時間労働での健康被害など正規にも問題はある。

人口減少社会を迎えた日本においては、これから働き方を変えていく必要性が高まっている。労働者にとって重要な選択肢となる派遣をうまく活用するためのルール作りについて、今後もさらに建設的な議論を行うことが求められる。

※1:厚生労働省「平成24年派遣労働者実態調査」より。派遣労働者の今後の働き方に対する希望は、「派遣労働者として働きたい」43.1%、「派遣社員ではなく正社員として働きたい」43.2%、「派遣社員ではなくパートなどの正社員以外の就業形態で働きたい」4.2%となっている。
※2:そのほかの例外は以下の通り。・終期が明確な有期プロジェクト業務。・日数限定業務(1カ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下であるもの)。・産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合