総合人材が先、事業は後 サイバーエージェントはなぜ終身雇用にこだわるのか
事業環境の変化が速く、人材の流動性も高いインターネット業界では、伝統的日本企業が抱える従来型の人事制度に固執しない企業が多い。そんな中、創業18年目のサイバーエージェントは終身雇用を標榜する。新しい企業は新しい人事制度が導入しやすい。
にもかかわらず、多くの伝統的企業が抱える人材と進むべき新事業のミスマッチに苦しむ中、同社はなぜ終身雇用を重視するのか。そこには事業より先に人材を優先するという、同社の確固たる信念がある。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2015年12月号より、抜粋してお届けする。
採用・育成・活性化・適材適所が基本
編集部(以下色文字):サイバーエージェントは、人材に関して「採用・育成・活性化・適材適所」を重視する方針を掲げられています。その真意について具体的にお聞かせください。
藤田(以下略):創業前に在籍していた会社が、リクルートを辞めた人が起業し、リクルートに似たカルチャーを持つインテリジェンスだったのが、影響しているのかもしれません。リクルートは非常に独特なカルチャーを持っており、誰もがうらやむような大手商社や大手広告代理店の内定を蹴って入った人材が、雑誌のわずかなスペースに載せる広告を販売する仕事に対して、持てる能力と行動力をすべて注ぎ込むのです。彼らはやる気と情熱とモチベーションのレベルも高い。リクルートに集う人材そのものが、他を寄せつけない競争力になっていたのです。
それを目の当たりにしていたこともあり、サイバーエージェントを起業するに当たっていい人材を採用することに力を入れました。そして彼らをしっかりと育成し、やる気を出して仕事に取り組めるような環境をつくることができれば、業績は伸びると考えたのです。
経営トップがしっかりとした事業戦略を策定し、それに基づいて計画的に人材の採用を行う企業も少なくありません。むしろ、日本ではそのほうが正しいと思われているようです。でも私は、そうした企業の経営者とは話がかみ合いません。事業戦略を考え、それに基づいて採用した人材を起用していくことと、企業に所属する人材の資質を把握し、その能力を活かして業績を伸ばそうとする発想は、宗教で言えばまるっきり宗派が異なるほど相容れない発想だからです。
サイバーエージェント 代表取締役社長
1973年福井県生まれ。1997年、青山学院大学卒業後、人材サービス会社のインテリジェンスに入社。1998年にサイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年に史上最年少(当時)の26歳で東証マザーズ上場後、2014年には東証一部へ市場変更。新経済連盟理事。
私は先に人材を採用するというスタンスで、事業内容は若く能力の高い人材が面白がってくれて、なおかつやる気を出してくれそうな事業を選ぶことに腐心しました。さらに言えば、会社のオフィスを渋谷に置いたのも有能な人材を惹きつけるための手段です。いまも、人材に合わせて事業戦略をつくるという基本理念に変わりはありません。
サイバーエージェントではこれまで広告やメディアといった分野で事業展開していましたが、現在、次代の成長分野として音楽系や映像系のコンテンツに力を入れています。この選択そのものは間違いではないと思いますが、業界では事業拡大すると利益率の高い金融系に集中する傾向が見られます。同じ業界に属する経営者としては、金融系のビジネスチャンスを逃さない戦略を描くべきなのでしょう。この分野に適した人材を集めるべきなのかもしれません。しかし、サイバーエージェントの社員は、音楽系や映像系のコンテンツには食いついても、金融系に食指を動かしません。そうなると、無理に金融系へ参入するのではなく、彼らが望み、やる気を持って取り組んでくれる事業領域に集中したほうがいいと考えるのです。
かつて私は、「うどん屋をやっても成功する」と話したことがあります。さすがにうどん屋というわけにはいきませんが、サイバーエージェントは5年前からゲーム事業に参入し、現在では会社の柱になるまで成長しました。当時のサイバーエージェントを知る人に言わせると、まさかサイバーエージェントがゲーム事業で成功するとは思っていなかったそうです。これこそ、社員がモチベーション高く取り組んだ成果にほかなりません。言葉は古いかもしれませんが、一生懸命やるという企業文化をつくり上げたことで、それが優位性にもなっていると思います。
新しい事業をつくる際は
いまいる社員の特性を考える
市場で儲かりそうな事業領域に参入する戦略を立てるより、いい人を集めてその人たちが面白がることをやったほうが、はるかに成功確率が高いと考えておられるのですね。
そう考えています。ただ、それだけでも十分ではありません。引き合いに出したリクルートも、優秀な人材が自分で考え、自分で判断し自由に動くカルチャーではありますが、情報誌のレギュレーションは厳格に決まっていて、その範囲で工夫するしかありませんでした。実はかなり限定された環境で成果を上げることが求められていたのです。つまり、いい人材ありきであることは間違いありませんが、そこから先は経営サイドがしっかりとした事業戦略を練り上げ、それに基づいた枠組みと規律を用意し、その範囲の中で思う存分頑張れる環境を用意するという形が必要なのだと考えます。経営者がしっかりとした事業戦略を提示せず、ただ人材が自由気ままに動くことだけを認めてしまうと、組織は足し算にしかならず、掛け算による指数関数的な成長は期待できません。
たとえば、サイバーエージェントには「CAJJプログラム」という仕組みがあります。これは、各事業を利益規模に応じて昇格、降格、事業撤退の基準を明文化したもので、J1からJ10までの10段階が定められています。こうした規律を定めて一定の枠組みをつくり、その範囲で自由に子会社をつくるという形を取っています。
ただ優秀な人材を採用し、育成し、活性化させて適した事業に配置しても自由にやらせるだけでは、高い成果を上げることはできないのです。組織である以上、しっかりとしたルールに基づいて社員が同じ方向を向いて猛烈に頑張る。それが強い競争力になると私は考えています。
人材に合わせるといっても、インターネット事業から軸足をずらさないことはミッションステートメントとして定めています。私たち若い世代がつくった会社が通用したのも、新しい成長分野であるインターネットだったからこそです。この事実を忘れてはいけません。過去に何度か見てきましたが、株価を押し上げる強い事業は、株主からの強い成長プレッシャーを受けます。でも、その事業に成長性が見出せなくなると、高い株価を利用し、手っ取り早く利益が出る成熟産業を買収して参入しようと画策します。実際そういうモデルを実行しようとした企業がありましたが、それに手を染めると人材の強みを活かす前提が崩れてしまいます。
原則としては、サイバーエージェントは大型の企業買収をやりません。なぜなら企業文化を大事にしているからです。新卒で採用した人材を育て、彼らをやる気にさせているのは、成果を上げれば一国一城の主になれるという「出世レース」も大きな割合を占めます。そんなところに、自分たちの図体に匹敵する企業をくっつけてしまうと、やはり前提がすべておかしくなってしまいます。
先ほど宗派が違うと申し上げましたが、人材の育成に時間と労力とコストをかけ、人材の資質によって事業計画さえ変えてしまう企業体質を、買収した企業の人材は理解できないでしょう。
地に足のついた会社を目指す。
だから終身雇用を標榜する
お話をお聞きしていると、サイバーエージェントの経営は極めて日本的であるという印象を受けます。終身雇用や新卒一括採用を続けられていることも、その一因です。多くの企業がそこから脱却しようとする中、なぜ終身雇用をやられているのですか。
サイバーエージェントの企業風土というより、日本の風土を重視しているからです。長年培われてきた日本人の価値観は、すぐには変わらないと判断したのです。私が大学を卒業して社会に出た1990年代後半は「終身雇用は崩壊する」「人材はもっと流動化すべきだ」という意見が活発化した頃でした。ところが、大学生が就職活動で大企業の内定を得ようと懸命になったり、優秀な人材が一つの企業を辞めなかったり、自分の会社が買収されたら敗北だと思ったりするものです。長く日本に染み込んだ土壌は変えようとしても変わらないものです。給料や報酬より、自分の所属する会社が好きだという考え方は極めて日本的ですが、日本人には合っていると思いますし、若い人だってそう感じていると思います。堀江貴文さんはその風土を変えてやると宣言されていますが、私はむしろ、風土を変えるのではなく、アレンジすべきだと考えているのです。
10年以上前のことですが、上場直後は外部から大量に人材をかき集めていた時期だったため人の出入りが激しく、社員が不安を覚えていました。サイバーエージェントとして終身雇用を打ち出したのは、社員を落ち着かせようとしたからです。会社はみんなを大事に思っているから、みんなも会社を大事に思ってほしい。そういうシンプルなメッセージです。当初は、実力主義で成果主義の会社のほうが若者に受け入れられると思っていましたが、それは誤解でした。自分の会社が好きで会社に所属することに誇りを持ち、一丸となって仲間とともに頑張る。若い人たちも、それがモチベーションになっていることに気づいたのです。
確かに、この仕組みがどこまで継続させられるかどうかはわかりません。新卒の入社説明会でも、必ずその点は聞かれます。しかし、それはその時点の経営者が考えればいいことです。10年前の時点では、インターネット産業は向こう30年間成長すると予想できました。インターネットを使う世代が10代から30代に偏っていたので、それが全世代に広がるとともに、使えるデバイスも増えるだろうと予測したからです。30年後は成熟し、停滞し、場合によっては廃れるかもしれませんが、少なくとも30年は大丈夫だから、長い目で見てこの30年を頑張ってほしいという社内へ向けたメッセージでもありました。
終身雇用は、過去に日本の基幹企業がことごとく失敗しています。そこでサイバーエージェントでは、終身雇用でも年功序列は採用しないというアレンジを加えました。そこが決定的な違いです。役員に20代がいるぐらいですから、入社して50歳ぐらいになったらせいぜい課長にはなれるという保証はありません。サイバーエージェントの社員に、そうした感覚はまったくないと思います。昇格に関しても、経験や実績の蓄積ではなく人格だと言ってあるので、リーダーとしての格を備えた人材しか上に立てません。
それを評価するのは非常に難しい作業になります。役員会でふさわしい人物を見極めることになりますが、人として安っぽかったり軽かったりするのは対象外、いくら仕事ができて高い成果を上げている人材でも、モラルが低ければ上げることはありません。チームで仕事をすることが多いので、会社に対するロイヤルティが低い人材も却下します。周囲に悪影響を与えるリスクがあるからです。
いくつか条件を並べてみましたが、結局のところ言葉にできない感覚が大切なのかもしれません。どんな人が見ても「あの人はそうだよね」と納得できる人格の持ち主です。そのようにして昇格させようとした人材に対して、役員会で「俺はそうは思わない」と意見が割れることはほぼありません。
自由度が高い会社なので、その自由度を高めるためにも、入り口を厳しくし、相応の規律を設けているのです。この時代に、わざわざ終身雇用を標榜する会社はそれほどありません。サイバーエージェントは地に足がついている。それをアピールする意味でも、続けていきたい制度だと考えています。