総合第5回 「テレワークできる仕事が足りない」
「田澤さん、どうすれば在宅でできる仕事を作れますか?」
大企業の人事担当者からの相談。その企業は、何度も何度もトライアルを重ね、数年かけてようやく在宅勤務制度を正式に導入した。
このため、正式導入になったとたん、子育てや介護のために在宅勤務をしたかった社員が一斉に希望。人事部としては、これで一気に広がると喜んだのも束の間、半年後に実態を調査してみると、利用者数がそれほど多くない。その理由は、在宅勤務希望社員の上司から許可が出ないから。さらに、その上司に理由を聞いてみると、「在宅でできる仕事がないので、許可できない」とのこと。それは大変。在宅でできる仕事を増やさないと、ということで、冒頭の相談になった。
在宅勤務のために仕事をつくると生産性が低下する?
相談をしてきた人事担当者に、私はこう応えた。
「『在宅でできる仕事』をわざわざ作るということは、これまでにはなかった作業です。人も時間もかかります。つまり、コストもかかります。これから子育てや介護のために在宅勤務を希望する社員はさらに増えるでしょう。そのたびに「作るコスト」がかかるとしたら、企業の生産性は確実に低下していきます。それでもいいですか?」
人事担当としてのミッションは、「在宅勤務制度を導入して、利用者を増やし、社員のワークライフバランスを向上させる」こと。しかし、面と向かって「企業としての生産性低下」を言及されると、さすがに「人事担当としては、それでいいです」とは言えないだろう。
テレワークしやすい業務はそれほど多くない
では、「在宅でできる仕事」とはどんな仕事だろうか。おそらく、多くの人が、以下のような仕事をイメージするだろう。
- ・資料作成
- ・データ入力/分析
- ・デザイン/プログラミング
その理由は、これらの仕事が以下のような特徴を持っているからだ。
- ・自宅に持って帰りやすい「切り分けできる」業務
- ・誰にも邪魔されない「集中が必要な」業務
- ・漏えいすると困るので「重要な情報がない」業務
私自身、このような考え方に反対するつもりはまったくない。本来仕事をする「オフィス」から「離れた場所」で仕事をする「テレワーク」。このような業務がやりやすいのは当然だ。ただ、多くの企業において、該当する仕事はそれほど多くはない、ということは認識する必要がある。在宅勤務制度導入のトライアル段階では、部門の中で1、2名が、週に1日だけ在宅勤務をする。その程度であれば、「在宅でできる仕事」は、すでにあるだろう。
陥りがちなパターンがある。
日本ではチームを組んで仕事をするのが一般的だ。5人のチーム(部署)があったとしよう。その中の1人が週に1日在宅勤務をする場合、チーム5人全体の仕事のうち「在宅でする仕事」は、わずか4%だ。4%なら、上記の条件に合致する仕事はあるだろう。そして、在宅なら「集中して仕事ができる」ので生産性も高まる。「切り分けている」ので、仲間の仕事にも影響はない。「重要な情報はない」ので、安心だ。効果を尋ねるアンケートにも、在宅勤務者は「家族と食事ができて良かった」、上司や同僚は「まったく問題なかった」と回答し、トライアルは成功。本格導入に突き進む。(図1)。
しかし、正式に導入し、導入したからには利用率を上げねばと、仮に「チーム全員、週2日」在宅で仕事をすることになると、どうだろう。「在宅でする仕事」が占める割合は、チーム5人全体の40%に跳ね上がる。ここで初めて、「テレワークできる仕事が足りない」ことに気づくことになる。(図2)。
そして、次のような堂々めぐりが始まっていく。
- 「在宅でできる仕事が足りない」
- 「やっぱり会社に行かなきゃ」
- 「会社に行くと、せっかくの在宅勤務ができない」
- 「在宅勤務をしたくても、仕事がなくちゃどうにもならない」
- 「では、在宅勤務でできる仕事を作ろう」
最初に戻るが、「作ろう」と考えた段階で、テレワークによる「生産性向上」というメリットはなくなり、「福利厚生」のための制度に留まることになる。
仕事が限られるという固定観念をなくす
雇用型在宅型テレワークである「在宅勤務」を導入した企業は、ここ数年で増えている。しかし、この「在宅でできる仕事が足りない」のが原因で、次のどちらかの状況になる企業も少なくない。
- ・利用者はあまり増えないが、在宅勤務制度を導入できたので、よしとしよう
- ・社員のワークライフバランス向上は実現できそうなので、生産性向上には目をつぶろう
今回の事例もそうだが、人材も体力もある大企業はそれでいいだろう。しかし、中小企業は「よしとしよう」「目をつぶろう」とはいかない。では、中小企業のテレワーク導入目的のメインでもある「人材確保」「コスト削減」「生産性向上」は、実現できないのか。
目指すべきテレワークを実現するためには、まず、
テレワークだと仕事が限られる
という固定観念を無くすことが必要だ。こう考えていると、「足りないから増やす、作る」という発想にしかいかない。
重要なことは、発想を転換して、
テレワークでもできるように、仕事のやり方を変える
という方向を向くことだ(図3)。
そうすることで、今の業務のフローや、ICTの活用方法、社員の意識の問題点が見えてくる。それをひとつひとつ見直し、変えようとすることが、「テレワーク成功の道」への第一歩だと、私は考える。
ただし、この考え方、作業は、決して「テレワークのため」だけではない。本来会社が実施すべき、BPR(Business Process Re-engineering)のためでもある。なかなか取り組めないでいる企業も少なくない。
これに真剣に取り組み、「いつでもどこでも仕事ができる」企業になれば、もう「在宅でできる仕事を作る」必要はない。「いつもの仕事が在宅でもできる」からだ。当然、「在宅でできる仕事が足りない」という状態にもならない。
会社に行くのは「仕事道具」と「仲間」がいるから
「なぜ会社に行くのか?」――。当たり前すぎて考えたことがない人も多いだろう。しかし、改めて考えると、そこに「仕事道具」があるからではないだろうか。机があり、キャビネットがあり、資料があり、パソコンがあり、電話があり、会議室がある。そして、さらに「仕事仲間」がいる。会社に行かないと仕事ができない。だから、多少熱があっても、台風が近づいていても、無理をして会社に行くのだ。
これまでの「テレワーク」は、ICTを使って、会社ですべき仕事のなかから「切り分けやすい業務」だけを持って移動し、出先や自宅で仕事をしていた。しかし、それがいずれ行き詰まることは、もうおわかりだろう。
発想を変え、業務をひとつひとつ見直し、「仕事道具」と「仕事仲間」を少しずつでもいいので、クラウド上に持っていくことができれば、本当に強い会社になる。時間はかかっても、そこを目指すか目指さないかが、テレワークを失敗するか成功するかのポイントとなるだろう(図4)。
田澤由利=テレワークマネジメント代表取締役



